A-10が入手困難ならSu-25があるじゃない。というわけで、ジェット攻撃機市場においてA-10の穴を埋めるように世界中で売れまくっているのが、旧ソ連製のSu-25攻撃機です。過去には機体を入手しようと、かなり無茶をした国もありました。

ひと言でいうなら「持たざる者のためのA-10」

 アメリカ空軍は、かねてより進めていたA-10C「サンダーボルトII」攻撃機173機の寿命を延長するための主翼換装作業を、2019年7月中に完了しました。また当初計画では改修しなかった機体を退役させる予定でしたが、8月にはさらに112機にも同様の改修が適用されることとなり、すべてのA-10Cは少なくとも2030年代後半まで運用可能な寿命を「物理的には」得ることになります。A-10はこれまで何度も退役が計画され、何度も退役が決定され、そして何度も決定が覆っています。


スホーイSu-25は旧ソ連がA-10の影響を受けて開発した対地攻撃機。「ロシアのA-10」と考えてほぼ間違いない(画像:ロシア空軍)。

 21世紀の現在、世界中でA-10のような攻撃機の需要が高まっています。過去にはA-10の、外国への中古機供与が検討されたこともありますが実現していません。そうしたなか、ジェット攻撃機市場においてA-10の穴を埋めるように、世界中に売れに売れている攻撃機が存在します。それが旧ソ連製スホーイSu-25「シュトルモヴィク(本来は『襲撃機』を意味する)」です。

 Su-25をひと言で表すならば「持たざる者のためのA-10」です。Su-25はもともと第3次世界大戦を想定し、戦車狩りなど最前線の敵軍を直接攻撃することを主目的とした、低速ジェット攻撃機として開発されました。攻撃精度が良く、搭載量が多く、強力な30mm機関砲を搭載し、安価で、頑丈で、整備性がよく、扱いやすいことを特徴としており、高性能ジェット戦闘機が高価すぎる中小国や発展途上国にとって「ちょうどいい」ため、多くの国に好まれています。

実戦で証明済の性能求めハイジャックも

 1991(平成3)年のソ連崩壊後、Su-25は紛争当事国であろうが何であろうが世界中に中古として売却されました。極端な例では1機1600万円で購入された事例さえあります。Su-25はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、中東、南米、世界中の戦争において「常連」となっており、実戦経験の豊富さにおいてはA-10を凌駕しています。そして経験の豊富さは「実戦で証明された性能」として、Su-25の評価をさらに高めています。

 Su-25を手に入れるためには手段を選ばない、といったケースさえ珍しくなく、特に無茶した事例が旧ソ連構成国だったアゼルバイジャンです。アゼルバイジャン独立直後、国内にはロシア空軍Su-25が駐留していました。アゼルバイジャンはそれを良いことに、「ハイジャック」して奪ってしまいます。隣国アルメニアとの民族戦争にSu-25が必要だったためです。


アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージアの位置関係(国土地理院の地図などを加工)。

 もちろんロシアはアゼルバイジャンの強奪に激怒、残ったSu-25を即座に国内へ撤退させることを決めました。最後のロシア空軍Su-25がアゼルバイジャンを離陸した直後、搭載ロケット弾全弾を飛行場に向けて発射、格納庫や滑走路を破壊しそのまま引き上げています。なんともロシアらしい「お礼参り」でした。

ひっぱりだこの背景には対テロなど戦争の変質も

 ロシア以上にアゼルバイジャンのSu-25に激怒したのが、実際にSu-25の爆撃を受けることとなったアルメニアです。Su-25にはSu-25で報復を。なんとアルメニアは隣国ジョージア空軍の、新造されたばかりのSu-25をハイジャックして自分のもにしてしまいます。そしてアゼルバイジャンとの戦争へ実戦投入しました。

 さらにアルメニアはロシアからもSu-25を購入していますが、両国の間にあったジョージアが空輸の障害になっていました。アルメニアはジョージアを通過するため、合法的に飛行する輸送機と緊密な編隊飛行を実施、「レーダー上輸送機1機に見せ」堂々と領空侵犯、Su-25の空輸を成功させています。


2009年、共同演習を実施したアメリカ空軍A-10(右)とブルガリア空軍のSu-25(左)、およびAS532ヘリ(中)。サイズはかなり違う(画像:アメリカ空軍)。

 民族戦争は感情的な部分がどうしても強くなりがちであり、かつてのB-29戦略爆撃機にさえ匹敵しうるSu-25の強力な搭載能力が、安価で、しかも傭兵とセットで導入することで簡単に即戦力となってしまうことから、無差別の殺傷に使われてしまうことも少なくないようです。Su-25は世界中の戦争の常連であると同時に、国連において「人道」という言葉とセットで議題に上がる常連ともなっています。

 皮肉なことに世界大戦の危機が消えた現代は、「十分な対空能力を持たない」とか「地対空ミサイルに脆弱すぎる」といった点が問題とならない、比較的小規模な勢力が戦う民族や宗教を理由とする戦争、対テロ作戦、麻薬戦争が中心となっています。だからこそ、極めて安価でありながら強力な爆撃能力を持つSu-25が重用され、同時にアメリカもまた、限られた予算で多くの飛行機を保有し続けられるA-10を必要としているのです。

 国際法に対する規範意識が高く、ほぼ誘導爆弾を用いる紳士的なA-10に比べて、市街地への絨毯爆撃さえ容赦なく行うSu-25は、アンチヒーロー的ではあります。とはいえこれは「道具」を使う人間側の問題です。Su-25が現代ジェット軍用機最高傑作機のひとつであることに疑いの余地はありません。