【スペイン発コラム】4試合連続スタメンが示した意味…久保が攻撃陣の“序列”を変えた

 マジョルカの日本代表MF久保建英は、現地時間11月30日にホームで行われたリーガ・エスパニョーラ第15節ベティス戦で、4試合連続のスタメン出場を果たした。

 久保は前節のレバンテ戦(1-2)に3試合連続でスタメン出場を飾ったが、試合終了間際のシュートがペナルティーエリア内で相手選手の手に当たるもPK判定は下されず、1-2で惜敗した。シーズン開幕からアウェーでは未勝利の6連敗となり、通算成績は14試合終了時点で4勝2分8敗の勝ち点14、降格圏が背後に迫る17位となっていた。

 今回の対戦相手であるベティスは前節、ルビ監督の解任間近と言われたなか、ホームでバレンシア相手にMFセルヒオ・カナレスが試合終了間際にFKからスーパーゴール。2-1と勝利し、3試合ぶりの勝ち点3を獲得した。通算成績は4勝4分6敗の勝ち点16で、マジョルカとは「2」差の15位だった。

 ベティス戦前、久保の4試合連続の先発出場について、スペインメディアの見解が大きく分かれていた。ビセンテ・モレノ監督が、久保とレアル・マドリードの下部組織出身のMFアレイシュ・フェバスのどちらを選択するかに注目が集まったのである。

 しかし、まだコンディションに不安が残ったためか、レバンテ戦を負傷欠場したFWラゴ・ジュニオールがベンチスタートだったため、モレノ監督は迷うことなく久保を再び先発起用した。システムはレバンテ戦の4-2-3-1から4-3-3に変更され、久保は右インサイドハーフでプレーした。

 11月30日のパルマ・デ・マジョルカの気温は15度。3週間前に10度を切り、体が冷え切ったビジャレアル戦に比べると寒さは和らいでいた。試合は開始早々、マジョルカにとって不利な形でスタートする。前半7分、MFイドリス・ババがベティスFWナビル・フェキルにファウルを犯し、MFホアキン・サンチェスのPKで先制点を許したのである。

 いきなりの劣勢のなか、久保は前半13分に右サイドからのカットイン、そして同15分に素早いターンから立て続けにシュートを放った。久保はマジョルカにとって前半唯一の攻撃の光となったが、GKジョエル・ロブレスに阻まれた。

 そして前半33分、ババのコントロールミスに端を発したフェキルの30メートルの位置からのスーパーゴールで、マジョルカはハーフタイムまでに2点のビハインドを背負うことになった。

終盤は久保がボールに触るたびに、サポーターからざわめきが起こる

 今季すべての勝ち点を獲得している得意のホームで追い込まれたモレノ監督は、後半開始からテコ入れを図る。散々な出来だったババに代え、ラゴ・ジュニオールを投入して攻撃的な布陣にシフトチェンジした。

 これが功を奏し後半10分、CK時にMFダニ・ロドリゲスがペナルティーエリア内でMFアンドレス・グアルダードに倒されてPKを獲得。これをラゴ・ジュニオールが決め、早々に1点差に迫った。

 ラゴ・ジュニオールの投入によりチームが試合の流れを奪い返したなか、久保が最も強い輝きを放った。

 まず後半15分、DFアルフォンソ・ペドラサのクリアボールを胸で受け、中にボールを入れる。それがDFに当たってゴール前に流れると、オーバーラップしたDFアントニオ・ライージョのシュートチャンスとなった。さらにその直後、4選手の間を突破する鮮やかなドリブルを披露し、ダニ・ロドリゲスの決定機の起点に。

 久保のチャンスメークはこれに止まらない。同20分にMFサルバ・セビージャのスルーパスに対し、右サイドの深い位置からソフトタッチのダイレクトクロスをFWアンテ・ブディミルの頭にピンポイントで合わせると、同27分にはDFルモール・アグベニェヌのクロスが右サイドに流れた後、久保が右足ダイレクトでマイナスのパスを出し、フェバスのシュートチャンスを生み出した。

 そして同28分、ハーフウェーラインからドリブルを開始し、ペナルティーエリア手前で決定的なスルーパスを出す。しかしGKと1対1になるチャンスで、ラゴ・ジュニオールがトラップを失敗した。

 チームメートの度重なる決定力不足に業を煮やしたからか、久保は同41分、自ら積極的に仕掛けた。しかしペナルティーエリア正面からの左足の強烈なシュートは、またもやGKジョエル・ロブレスのスーパーセーブに阻まれた。

 久保を中心に、特に後半多くのチャンスを作ったマジョルカだったが2連敗を喫し、勝ち点を伸ばせず順位も17位のままとなった。

 久保はリーガ初ゴールを決めたビジャレアル戦(3-1)から、3試合連続で上々のプレーを続けている。なかでも今回のベティス戦はマジョルカ加入後、最もチャンスを演出した試合となり、特に終盤は久保がボールに触るたびに、サポーターからざわめきが起こるほどだった。

 18歳の日本人レフティーは今、試合に“変化をもたらせる”オーラを発しており、本拠地ソン・モイシュの観衆に、「何かをやってくれるのではないか?」という大きな期待を抱かせるまでになっているのである。

スペイン人記者も高評価 「ボールに触るたびにチャンスを作っていた」

 久保はまた、この試合で両チーム合わせて最多となる3本の枠内シュートを記録。マジョルカの枠内シュート数は7本で、久保のほかラゴ・ジュニオールが2本、ライージョとフェバスが各1本を打っていた。一方、ベティスの合計はわずか3本(フェキル2本、ホアキン1本)で、久保1人と同じ数字だった。

 また、この日の久保はいつも以上に守備意識が高かったように見えた。相手を振り向かせないように激しく体を寄せてファウルを取られ、後半開始直後にはペドラサを後ろからつかんでイエローカードをもらっていた。ファウル自体はもちろん褒められたものではないが、これらのプレーは久保の守備への意欲からきたものであり、今まで以上の気迫が伝わってきた。

 試合後のフラッシュインタビューで久保は、「彼らのプレーは僕たちのミスで生まれたものだったが、それを許してはダメだ」と失点について反省し、「ジョエルが僕たちを凌駕した。彼のことを祝福しないといけない」と、この日合計6度のセーブを見せ、マジョルカの得点チャンスをことごとく阻止した相手GKのハイパフォーマンスを讃えた。

 スペイン紙「マルカ」、「AS」ともに試合翌日の紙面で、ベティス戦の久保についてチームトップの2点(最高3点)をつけた。「マルカ」紙ではダニ・ロドリゲス、フェバス、ラゴ・ジュニオール、「AS」紙ではフェバス、ラゴ・ジュニオールが久保と同評価だった。

 マジョルカの地元紙「ウルティマ・オラ」も、久保についてラゴ・ジュニオールと並びチーム最高の2点(最高3点)を与えたが、「前後半とも相手ゴールを破るチャンスをつかんだが、決定的チャンスを何度も外した」と、やや辛辣な意見を述べていた。

 さらに紙面で久保をピックアップ選手に挙げ、「相手ゴールに対し最も主役となった選手の1人だった」と高く評価。しかし「徐々に攻撃でベストの姿を見せていったが、ゴールを決めるには不十分だった。常にチームメートにパスを送ることを目指し、難しいことをやらずにゴールを求めたが、いくつかのチャンスで確実さを欠き、ジョエルのファインセーブが久保からゴールを奪った」と寸評した。

 また、スペインのラジオ局「ラジオ・マルカ」のルイス・フォルテサ記者はこの日の久保について、「ここ最近の試合で、とても良いパフォーマンスを見せている。直近の4試合にスタメン出場し、マジョルカのなかで違いを生み出す選手となり、ボールに触るたびにチャンスを作っていたよ。まだとても若く、プレーを成熟させる必要はあるが、マジョルカに大きな喜びを与えてくれると確信している」と期待を寄せた。

“攻撃のタクト”を振るう久保、幼少の頃から夢見たカンプ・ノウで次節バルサ戦へ

 一方、スペインのラジオ局「カデナ・セール」のアルベルト・エルナンド記者は、「久保には今日の試合、スタメンを勝ち取れる高い信頼度があったし、彼が先発出場しているのを見てもなんの違和感もない。今日はラゴ・ジュニオールがスタメンを外れ、ビセンテ・モレノがスタメンを組み直し、久保が先発入りしたという事実はあるけどね。彼は18歳にもかかわらず、(チームの攻撃の)タクトを振るっていたよ」と、チームの攻撃をリードしたことを強調していた。

 久保は次節、おそらく自身のキャリアのなかで、特に高いモチベーションで試合に臨むことになるだろう。ユニフォームこそ違うものの、幼少の頃に夢見たピッチに立つ瞬間が訪れることになる。12月7日、久保は“ラ・マシア”出身選手としてカンプ・ノウに降り立ち、名門バルセロナとの一戦でどんなプレーを見せるのか。敵地でも大きな注目を集めるのは間違いなさそうだ。(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)