ツイッターから人気沸騰、謎の解説者が「Full-Count」に登場する全3回

 令和元年も残すところ1か月あまり。今年、“野球本”界で大きなセンセーションを巻き起こした作品に「セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論」がある。著者は、お股ニキ氏。野球経験は中学の部活までで、しかも先輩と喧嘩になって途中退部してしまったという。だが、著作は発売と同時に大きな話題を呼び、野球ファンのみならず、ソフトバンクの千賀滉大投手らプロも愛読書として手にしている。

「プロウト(プロの素人)」と呼ばれる謎の解説者・お股氏が「Full-Count」でおなじみのラジオ番組「NO BASEBALL, NO LIFE.」にゲスト出演。MCを務める「SCOOBIE DO」のオカモト“MOBY”タクヤ氏、音楽スコアラーの久保田泰平氏らと、野球談義に花を咲かせた。大いに盛り上がった収録の一部を「Full-Count」で全3回にわたってご紹介。第3回は「パ・リーグ、そして佐々木と奥川」をお届けする。

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 3月末に発売された初の著書「セイバーメトリクスの落とし穴」は、発売から1か月も経たない間に第4刷まで重版がかかる人気本となったお股氏だが、11月28日には2作目となる「なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか」(宝島社新書)が書店に並ぶ。収録に参加したのは、脱稿した直後のタイミング。執筆を開始した9月末から1か月あまりで書き上げた本の中では、「なぜパ出身者が多いのか」お股氏が探る過程が明らかになる。お股氏がたどり着いた答えの1つとは……。

「数字上で論理的なものを期待されても、エッセーっぽい感じになってしまうんですけど、何となくパ・リーグの方が強いなとみんなが感じている『何だろう?』が、少しずつ感じ取れるようになったかなと。僕も、これだ、という答えが出たわけじゃないんですけど、根本的には選手のフィジカル面でのスペックですよね」

日本人メジャーリーガーには、なぜパ出身者が多いのか?

 お股氏が答えを探る過程で見えた傾向として、パ・リーグの方がより身体能力に優れた、あるいは開花する可能性のある選手を多く取っているという。また、選手育成に力を入れているチームが多いことも、間接的な要因の一つと言えそうだ。お股氏が応援するソフトバンクは、いち早く3軍を作ったチームでもある。

「育成として、よりスペックの大きい選手を取っている球団もある。3軍は、かなり費用対効果のいい投資だと思います。ソフトバンクで言えば、育成は2010年だけで千賀、牧原(大成)、甲斐(拓也)ですよね。その後は、大竹(耕太郎)、モイネロ、周東(佑京)です。1人当たりの年俸はそれほど高くなく育てられる。ただ、今は他のチームも3軍を作り始めたので、育成選手も取り合いになりますね」

 パ・リーグ出身選手がメジャーリーガーになるケースも多いが、逆にメジャーから注目を浴びる選手がパ・リーグ入りすることも多い。例えば、ダルビッシュ有投手(元日本ハム)、菊池雄星投手(元西武)、大谷翔平投手(元日本ハム)らが記憶に新しいが、今年のドラフトで目玉とされた大船渡高の佐々木朗希投手もまた、ロッテに1位指名され、入団が決まった。ロッテは井口資仁監督、吉井理人投手コーチと元メジャーリーガーが首脳陣として控えるが、お股氏は佐々木の未来をどう見るのか。

「素材としては、もうすごい。バーランダー(アストロズ)とか、それくらいのレベルになるポテンシャルはあります。ロッテがくじを引き当てて、若干『あ、ロッテか』と思った人もいると思うんです。でも、井口監督がいて吉井コーチがいて、フロントも刷新して黒字経営化して、いい方向に来ている。若いピッチャーで言えば、種市(篤暉)投手とかも出てきたし、ピッチャーは育つ環境が整いつつあるんじゃないかと。なので、佐々木投手も怪我なくやれれば、かなり期待できると思います」

お股氏が予想する佐々木と奥川がたどり着く「タイプ」

 今年のドラフトで、佐々木と並んで注目されたのが、星稜高の奥川恭伸投手だった。1位指名で3球団が競合した奥川は、ヤクルトが交渉権を獲得。奇しくも、奥川を指名した3球団は全てセ・リーグ(ヤクルト、巨人、阪神)、佐々木を指名した4球団は全てパ・リーグ(ロッテ、日本ハム、楽天、西武)と綺麗に分かれた。

 お股氏は「そこにリーグの差、違いがあるように見えますね。2人がそれぞれ投手としてMAXまで完成した時、奥川投手は前田健太投手とか菅野(智之)投手、田中(将大)投手タイプ、佐々木投手はダルビッシュ投手、大谷投手かな、と」語る。2人ともタイプは違えど、将来はメジャーを狙える逸材。奥川の指名権を得たヤクルトは、今オフから高津臣吾監督、斎藤隆投手コーチというメジャー経験者が揃ったこともまた、偶然ではないのかもしれない。セ・リーグでは巨人を応援するお股氏は、奥川を取り巻く環境を高く評価しながらも「巨人ファンとしては来てほしかった……」と苦笑いだった。

 フィジカル面でのスペックの高さは並外れている佐々木と奥川の2人は、それぞれロッテとヤクルトでどこまでスケールの大きな投手に育つのだろうか。そして将来的には海を渡り、世界を代表する投手となるのか。その過程をしっかりと見届けたい。

<プロフィール>
お股ニキ(@omatacom)
野球経験は中学の部活動(しかも途中で退部)までだが、様々なデータ分析と膨大な量の試合を観る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してツイッターで発信し続けたところ、2万8000人以上にフォローされる人気アカウントとなる。ツイッター上でのやりとりで交流が始まったカブスのダルビッシュ有選手をはじめ、多くのプロ野球選手や専門家から支持を集める謎の「プロウト(プロの素人)」解説者。著書に『セイバーメトリクスの落とし穴 』(光文社新書)。11月28日には新刊「なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか」(宝島社新書)を発売。日本のプロ野球に厳然と存在するセパの格差について、データと独自の視点から分析、評論している。(佐藤直子 / Naoko Sato)