夜遅くに到着するはずの高速バスの動きが鈍くなった。渋滞に巻き込まれたからである。そんな時、とある乗客が運転士に、

「間に合わないですか...」

と声をかけたという。

その乗客は、新宿でバスを降りた後、すぐに別のバスへ乗り継ぐ予定だったのだ。

渋滞は避けられぬものだ。ハマってしまえば抜けられるかは運任せ。高速を走るバスならなおさらだ。そして、定刻に遅れてしまえば、乗り継ぎ便は発車してしまう。


何が起きたのか(画像はジェイアールバス関東提供)

さて、その乗客はどうなったのだろうか。

結論から言うと、乗客は予定通り次のバスに乗ることができた。しかしその背景には、バス運転士の「神対応」があったという。

一体、何が車内で起こっていたのか。Jタウンネット編集部は、一連のやり取りを目撃した乗客と運転士、双方に詳しい話を聞いた。

「福山便あと5分だけ止めてくれ!」

ことの始終は、会津若松(福島県)から「バスタ新宿」(東京都)へ向かう「夢街道会津号」(ジェイアールバス関東)で起こった。

一端を目撃した、ツイッターのユーザーのSUI子さん(@_sui26)は、9月30日、ツイッター上に経緯を投稿した。

「あのね、昨日帰りのJR高速バスが渋滞に巻き込まれたんだけど なんと、乗客の中に広島便の高速バスにバスタで乗り継ぐってお客様がいらっしゃったの。 それでね、運転士さんに間に合わないですか...って相談していて...」

最前列に座っていた彼女は、運転士の様子がよく見えたのだ。「間に合わないですか」と頼まれた運転士は、何回も時計を見て、間に合うかどうか首を傾けていたという。

当時の状況をSUI子さんは10月1日、Jタウンネットの取材に対し、

「乗り継ぎのお客様は切羽詰まった感じと半分(絶望からなのか?)諦めてしまって、憔悴している感じでした。途中、車内で立つ等は全く無かったですが、休憩地でずっと運転士さんとご相談されている感じでした」

と振り返る。そして到着までの間、運転士は何度も乗客を気遣いながら、バスはようやく目的地にたどり着いた。

とはいえ、バスは30分程度遅れ、乗り継ぎ便は、発車時間のほんの少し前であった。

すると運転士は無線を持った人に、

「おい!悪い!福山便あと5分だけ止めてくれ!お客さんがいるんだ!頼む!」

と窓を開けて呼びかけたという。また、車内に向けて、

「すみません、広島便のお客様を先に通してあげてください、すみません」

とも。そして皆、乗り継ごうとする乗客を先に通した。降車したのち、無事にバスタ新宿の停留所へ向かっていったという。

その後、運転士は、ほかの乗客が後から降車するときに、

「ありがとうございます」

と述べていたと話す。SUI子さんは、そんな運転士さんに対して、

「本当に気持ちのいい、優しい、情に厚い運転士さんだった。いつかまた、その運転士さんのバスに乗りたいし、自分もそういう人になりたいと思う方だった。素晴らしい運転士さんに拍手!でした」

と述べた。

運転士から手書きの返事が!

一連のやりとり、また運転士の対応に心打たれたSUI子さんは、ジェイアールバス関東へメールを送ったと話す。その文面を記者にも見せてくれたので、ご紹介したい。

「運転士さん、お疲れ様でした。
そして素晴らしいお仕事を見せていただいてありがとうございました。
運転士さんみたいな優しく人情のある人間に私もなりたいと思います。
運転士さんは運転士の鑑、人の鑑だと思います。
いつかまたお会いしたい忘れられない運転士さんです。
そして、JRバスさんをこれからも使っていきたいと思います」

なんとも心温まる話である。

ぜひ、ことの次第やネットでの賞賛を運転士にも伝えたい。Jタウンネットは、10月1日、ジェイアールバス関東に、運転士本人に話を伺えないかと尋ねた。すると、広報担当者から運転士の手書きメッセージが返ってきた。


運転士から手書きの返事が6日に届いた(画像はジェイアールバス関東提供)

こちらが、運転士から届いた返事である(名前は本人希望により伏せた)。

「(当時の心境について)9月29日は日曜日会津便上り16号 案の定3か所渋滞のためお客さまに案内し大谷PAで停車、休憩中広島便乗り継ぎの方が電話をしても時間外で連絡がつかずキャンセルもできず。何とか間に合わせたい思いで走っていたところ、渋滞が思ったよりも早く解消され広島便発車の3分前、バスタ入口到着。徐行しながら窓越しに誘導員さんへ伝えました。
 何とか間に合いホットしましたが、その反面乗継便のJRバス中国の運転士さんや待っていただいた 客さまに御迷惑をおかけしてしまう結果に対し、深く反省すると共に寛容な対応に心から感謝申し上げます」

「(SUI子さんのメールについて)異常時及び渋滞の際は常に同じ対応をしているので、今回の事は突然で驚いております。渋滞が解消されたとは言え、車内のお客さまの御協力があってこその事と感謝しております。多くの方々からのお声をいただいた事に大変感謝すると共に今後の励みと致します」

長距離バスの運転士だ。日々、乗客を目的地に運び、安全を届けている。忙しい仕事の合間に書いてくれたのだろう。返事を読むと、乗り継ぎ先であるJRバス中国の運転士や、待たせてしまった客への詫び言とともに、客の寛容な対応に感謝を述べている。

ふとした瞬間、人のやさしさに心打たれる。今日も運転士はどこかで、一期一会の乗客のために奮闘しているのかもしれない。