事故物件専門の仲介サイト「成仏不動産」のホームページ。事故物件と出合える機会を増やしたいという(編集部)

「事故物件」という言葉を耳にするようになってきた。

病気や事件、事故などにより、その土地や建物内で入居者が亡くなった物件を指す。このような物件は、心理的瑕疵(かし)があるといわれる。宅建業法上で「それを知っていたら契約しなかった」だろう事実は、契約前に説明をする必要がある。むろん、後ろめたい過去を持つ事故物件には入居者が集まりにくく、不動産業界にとっては悩みの1つだ。

実は、どこまでが「事故」にあたるかの線引きは必ずしも明確ではない。孤独死からの発見が何日後までだったら瑕疵にあたらないか、マンションの別の部屋で亡くなった場合はどうか、などだ。それでも、人が亡くなったという事実が知れ渡れば、部屋や建物の状態にかかわらず不動産価値は目減りしてしまう。

掲載されているのはすべて事故物件

たまたまそこで入居者が亡くなっただけで、不動産に罪はない。それでも、市場での評価はガタ落ちしてしまう。例えばUR都市機構は「特別募集住宅」と称し、事故物件の家賃を一定期間半額にして募集している。

そんな中、事故物件を救えないかと考えた不動産会社が1つのサイトを立ち上げた。


成仏不動産を運営する花原浩二社長(記者撮影)

成仏不動産――。意味深な名称のホームページが開設されたのは今年4月のこと。一見すると普通の賃貸・売買物件のポータルサイトだが、掲載されているのはすべて前の入居者が亡くなった事故物件。開設したのは、横浜市に拠点を構える不動産会社「NIKKEI MARKS(ニッケイ マークス)」だ。

もともとは住宅建築やリノベーション、不動産売買を手がける会社で、事故物件をビジネスとしていたわけではない。きっかけは今年1月、社長の花原浩二氏の元に、業者から「事故物件を買ってくれないか」という依頼が舞い込んだことだ。

事故物件を売却する場合、売却価格の相場は厳しい。殺人事件が絡むと、価格は相場の3割程度にまで下がることもあるという。早期に発見された孤独死など、室内の大がかりな清掃が必要ない場合でも、買い取り価格は半値にまで下がることもある。

「人が亡くなっただけなのに、どうしてこれほどまでに価値が下がるのか」。もらい手がつかずさまよう不動産たちを「成仏」させるべく立ち上げたのが、成仏不動産だった。

事故物件を求める人は少なくない

現在の掲載物件数はおよそ130件。これまでに賃貸6件、売買4件の契約が成立した。意外にも、事故物件を求める人は少なくないという。

成仏不動産に掲載されていた賃貸住宅に入居した20代の男性は、「事故物件は最高だ」と言う。人が亡くなったという事実を除けば建物に異常があるわけではなく、家賃は相場より安い。この物件は長らく入居者が決まっていなかったが、成仏不動産に掲載するやいなや、この男性の手によって無事「成仏」していった。

単身者だけでなく、家族で入居する住宅として購入された例もある。動機はやはり「安いから」だ。現在のところ、物件掲載にかかる手数料は無料。当初は営業エリアを首都圏のみに絞っていたが、メディアに取り上げられたこともあって問い合わせが増え、エリアを全国に広げた。

どこか遠い存在のように語られがちな事故物件だが、花原社長は「誰もが事故物件の当事者になりうる」と指摘する。離れて暮らす単身の親族が孤独死をした場合、その持ち家は事故物件となりうる。問題は、それを相続することで自分自身が事故物件のオーナーになる可能性があることだ。

東京23区で発生した自宅での孤独死は昨年、8000人を超えた。これは確認ができた範囲での数字で、実際はさらに多くの孤独死が発生しているとみられる。こうした孤独死の7割以上が65歳以上の高齢者。日本賃貸住宅管理協会の調べでは、物件オーナーの約6割が単身高齢者の入居に対して拒否感を有していると回答した。

むろん孤独死のすべてが心理的瑕疵にあたるわけではないが、発見が遅れたケースは少なくなく、事件や事故なども事故物件の原因になることを加味すれば、単純計算で年間数千もの物件が「事故物件」という烙印を押されることになる。


親族の孤独死によって事故物件となった持ち家を相続した結果、思うように買い手がつかず手放そうにも手放せないオーナーは少なくない。成仏不動産で営業を担当する佐藤祐貴氏は、「(成仏不動産に対して)事故物件を相続した人からの相談が持ちかけられている」と言う。

目指すのは「事故物件版スーモ」

「事故物件を嫌悪する人は、住む側の立場にいる人だ。実際に事故物件を所有する立場の人は、事故物件のイメージアップを図りたいと考えている」(花原社長)。事故物件が増えるなら、事故物件を受け入れる人を増やさなければいけない。成仏不動産を立ち上げたのは、事故物件を気にしない入居者のニーズを満たすためでもある。

事故物件は通常の不動産ポータルサイトにも掲載されているが、サイト上では一見してそれが事故物件とわからない場合が多い。相場よりも家賃や売り出し価格が安いため問い合わせ自体は多いが、後に事故物件だと知って契約にまで至らないことも多い。入居希望者、物件の掲載業者共に徒労に終わる結果となりやすい。

逆に、最初から事故物件のみを掲載していることを打ち出せば、そうしたミスマッチもなくなる。「『事故物件版スーモ』のような、事故物件のポータルサイトを目指したい」(花原社長)。逆説的だが、事故物件を気にしない人がスムーズに事故物件と出合える場を提供することも、成仏不動産の役割だ。

今後、取引実績を重ねていけば、事故物件の相場が醸成されリフォームや売却もスムーズになっていく。誰もが事故物件を抱えうる時代、事故物件が活発に取引されるようになることは、不動産会社だけでなく、一般の人々にもメリットがありそうだ。