[画像] 樹徳vs不二越工vs共栄学園

早くも秋へ向けて始動、新チームへ思いを込めて樹徳、不二越工、共栄学園共栄学園と不二越工

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 第101回全国高校野球選手権大会の組み合わせ抽選会が3日にあって、6日からは甲子園球場で深紅の大優勝旗を目指す戦いが始まる。つい1か月ほど前までは、その甲子園の出場を巡って全国各地で高校野球の熱い戦いが繰り広げられていた。そして、各地で一つ、また一つと学校が姿を消していき、その翌日からはそれぞれの学校で新チームが秋季大会を目指してスタートしている。高校野球は、こうして動いているのだ。

 多くの高校野球ファンが甲子園大会開催を待つこの時期なのだが、代表49校以外はすべてのチームで、新チームをスタートさせて夢と希望と不安を交錯させながら試行錯誤を繰り返しているのだ。

 特に、近年の連続する猛暑では、この夏休みの練習をどのように効率よく過ごしていかれるのかということも、各校のチームを預かっている指導者たちにとっても、とても大事な要素となってくる。かつてのような猛練習、倒れるまでやる個人ノックや、倒れたら頭から水をぶっかけて「さあ起きろ」などという練習はとてもじゃないけれどもやれない。熱中症予防に最善の努力を払わなくてはならない。また、効率のよくないことや、根性論だけの練習もほとんど意味がないとされている。

 チーム作りということから言えば、やはり、試合を経験していきながら、いろいろ試していって、このチームで何が出来るのか、この選手はどんなことに対して器用なのか、どんなプレーで味を示してくれるのかということを試合を重ねながら、それぞれ確認していくのだ。こうして、とりあえず秋へのチームを作っていくということになる。

 ところで、立場として高校野球の交流試合(練習試合)を追いかけていく楽しみの一つとして、このチームとこのチームがどういう縁で試合をするようになっているのかな、などということを探っていく面白さもある。そこには必ずと言っていいくらいに指導者同士の縁があり、そこに仲介した人物などもいて、こうして野球を通じて全国各地の縁が出来てきているということを確認出来ることも嬉しい発見だ。

 この日に樹徳を訪れていた富山県の不二越工は、鈴木新伍監督が埼玉県春日部共栄出身ということで、毎年新チームの出来るこの時期に関東遠征を企画している。母校春日部共栄はじめ、今回も日大豊山、大東大一などと試合を組んで、この日は前日に太田市に宿泊して桐生市の樹徳を訪れた。

 学校としては、株式会社不二越という総合機械メーカーで今や総合メカトロニクスメーカーとなっている会社が母体としてある。「ものづくり文化」の根幹を築いて若い人材を育てていこうというところから、創設された学校である。こうした企業が背景にある私学というのは、静岡県の静清などもあるが、そんなに多いわけではない。そういう意味では特殊な存在とも言えようか。

 そして、野球のスタッフとしては鈴木監督とともに責任教師という役割とともに、富山県の高校野球連盟の役員も務めているのが、国友賢司部長だ。中京大中京出身で、2009年の全国制覇時の二塁手として活躍していた。その後、亜細亜大を経て縁あって富山県の学校に赴任して、不二越工が2校目となる。「もう、すっかり富山県人ですよ」と言うが、来春には、愛知県遠征を計画していて、恩師の大藤敏行監督率いる享栄や母校中京大中京とも試合を組みたいという思いもあるようだ。

試合後にミーティングする樹徳

 2泊3日の関東遠征で6試合をこなした不二越工。結果は2勝3敗1引き分けだったというが、「成果としては、勝ち負けよりもやはり今の時期は内容です。去年は春日部共栄に2試合で30点くらい取られてボコボコだったんですが、今年は何とか試合になったということは大きいです」と、鈴木監督は言う。そして、この遠征の最後となった共栄学園との試合で8対0というスコアで勝利して帰路に付けたことにも、「やっぱり、勝って帰るというのは気持ちとして大きいですよ。しかも、無失点だったということはよかった。帰ってからの練習にも前向きになれます」と、31人の部員たちの一つの成果として、課題だった投手陣も、今回の遠征で少しずつ成果を出していっているようだ。素直に勝ちという結果を評価していた。

 練習試合であっても、スコアをつけて得点を意識していくことはやはり、それぞれの局面でどんなことをしていくのかということの意味としても大きい。ことに、試合終盤は、得点差を意識したプレーも大事になってくる。そういう意味では、この日の樹徳は1試合目では、序盤のリードを對比地君と佐藤君という二人の1年生投手で守り抜く形ができ、3試合目の共栄学園との試合では最大5点差を終盤でひっくり返せたということは大きな自信になっていくであろう。井達了監督も、「今の時期は、走塁もそうですけれども、積極的に行って、アウトになったら、そこで考えるということにしています。一つのミスに怒らないで、それで何を駆られるのかを考えさせていくことにしている」と言う。

 この4月から、樹徳の監督に復帰した井達監督は松井 秀喜世代でもある。実は、例の松井の5敬遠のあった明徳義塾と星稜の試合の、その次の試合で天理と戦った樹徳の主将でもある。「あんなことの後の試合でしたから、実は翌日の新聞なんかでも、ウチの試合の扱いは小さくて、あんまり印象にない人も多いかと思うんですが、実はかなりいい試合しているんですよ」と苦笑するが、母校を甲子園へ再びという思いで再就任した。現在の群馬県の勢力構図としては、この夏で4年連続で甲子園出場を果たしている前橋育英と、健大高崎が2強となっていて、そこになんとか割って入っていこうという意識を強く打ち出している。

 共栄学園は裁縫女学校を前身として共栄女子商などを経て共栄学園となった。学校法人共栄学園としては2001年に共栄大(東京新大学野球連盟所属)を創設して一大学園となっている。部活動としては日本一にもなって全日本にも何人か選手を輩出している実績もある女子バレーボール部やチアリーディング部は全国トップレベルだ。野球部は、2017年に東東京でベスト8に進出するなど、徐々に力を示してきている。系列校の春日部共栄は今春もセンバツ出場を果たしており、埼玉の強豪として知られているが、追いつけ追い越せという意識であろうか。原田健輔監督は、その春日部共栄のライバルとも言える存在の浦和学院出身であるというところも、何かの縁なのだろうと思うと面白い。

 東京では比較的珍しい(主だったところでは、都立雪谷くらいか)とも言っていい、赤を基調とした「KYOEI」のユニフォームに、浦和学院のエッセンスを注入しながらのチーム作りだ。各打者のスイングやフォームなどから、思い切った守備体制の指示や、樹徳との試合では3本の三塁打に二塁打も2本と、次の塁を狙っていく走塁で積極性などはアグレッシブに映った。リードを守り切れず、一気に崩れていったところは課題を残したかもしれない。それでも、東京都の高校野球で、KYOEIの赤がひと旋風巻き起こしそうな、そんな気配も少し漂わせていた。

(取材・写真=手束 仁)