『東京貧困女子。』著者の中村淳彦氏と、若い女性の支持者が多い室井佑月氏に、女性の貧困とそれを取り巻く社会のあり方について話を聞いた(編集部撮影)

作家やテレビのコメンテーターとして活躍している室井佑月氏は、日本社会に広がる貧困問題について関心を寄せない人が多いことに疑問を投げかけ、困窮する子どもや女性を救うためのトークイベント『女は死なない 大した話じゃないけれど vol.2』を行って収益を支援団体に寄付するなど、精力的に行動している。

自身もシングルマザーとして子どもを育てている室井佑月氏と、いま雑誌や新聞で紹介され話題の『東京貧困女子。』の著者・中村淳彦氏に、貧困に喘ぐ女性の現状と対策について語ってもらった。

手を差し伸べる世の中をつくっていくべき

中村淳彦(以下、中村):現在、女性の貧困は単身女性の3人に1人、1人親だと半数以上が貧困という状態です。貧困は本当に一般化してしまって、苦しんでいる人はどこにもいます。でも、汚い服装をしているわけでないし、見た目にはわからない。なので、「日本に貧困なんてないでしょう」なんて人もたくさん。そんな中、室井さんは「貧困問題をなんとかしよう!」と訴えてくれています。

室井佑月(以下、室井):私が嫌なのは貧困で大変な人を見て、まだ自分は大丈夫だからみたいな意識。そういう意識の保ち方。


中村:現在の貧困は奨学金とか労働者派遣法とか、介護保険とか、国の制度や法改正が原因のケースが多い。ワーキングプアだらけ。必然的に女性が主なターゲットになっています。

でも、どこかのタイミングで中年男性にシフトすると思っていて、中流以下の人々には男女問わず漠然とした不安がある。なので、自分より下の層を眺めて、ちょっとホッとして見て見ぬふりは、貧困記事のいちばんポピュラーな読まれ方だと思っています。

室井:でもね、そうじゃない人も絶対にいる。私がそうだもん。中村さんや鈴木(大介)さんの記事や本を読んで、自分の周りを広く眺めて現実を知った。「自分は大丈夫だから」みたいな感覚はなかった。

逆に何かできることないかって思ったよ。だって、明日は自分かもしれないわけでしょ? すごく大切にしている息子とか、息子の友達とか、誰かが困ったとき、手を差し伸べる世の中をつくっていかないとって思ったよ。

中村:多くは月3万〜8万円くらい家賃分程度のお金が足りていないように感じます。とくにシングルマザーには雇用がないし、ワーキングプアだし、ずっと抜け出しようのない不安を抱えている。一部、団地とかでは助け合いがあるけど、ほとんどは1人で悩んでいて、本当によく生きているなってくらい苦しそうにみえる。

室井:超少子高齢化ってやっぱりこの国の1番の難問でしょ。女性活躍っていってるけど、大問題である少子高齢化をクリアするんだったら、困っている人、例えばシングルマザーなどにもっと優しくなきゃいけないよ。自己責任論を押しつけて、切り捨てているのに、もっと子どもを産めっておかしいよね。


中村淳彦(なかむら あつひこ)/貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。最新刊は『東京貧困女子。』(編集部撮影)

中村:「暴力を振るう男を選んだ自分が悪い」とか「養育費を払わない男と結婚したのが悪い」とか。夫が暴力を振るうかはなかなかわからないし、離婚しても現在養育費を受けているのは19パーセント(厚生労働省調べ)しかいない。これは少なすぎますよ。

室井:冷たすぎるよね。自己責任とたたく人って、誰のためにどうしてそんな精を出してぶったたくのかと思うし。どう考えても、男が暴力を振るったり、養育費を払わないことをたたくべきだよね。

中村:男女平等とか女性の社会進出とか、最近急激に進んでいるけど、やっぱりまだまだ男が優位な社会であるってことでしょうね。男女平等に反対って層でしょう。

でも今、人手が足りていない医療福祉とかサービス業の仕事は、女性のほうが圧倒的に向いているし、最終的には因果応報として返ってきて、中高年男性が虐げられて、排除されるオチになりそう。中高年男性のことは誰も助けないだろうし、正直こわいです。

室井:女が虐げられてきた歴史もあるし、今もそうだって思っている。男女の年収差みたいなのを見れば、明らか。けど、男の子の母親にはぜひ言いたいんだよね。「息子をそう育てんなよ」って。男がいくら威張ろうが女が命がけで産んでるんだよって思う。

個人で助けるには限界がある

中村:シングルマザーは、本当に大変。このまま自己責任で放置するのは、本当によくない。だいたいが非正規の最低賃金に近い時給で働いて月7万〜12万円くらい稼いで、仕事と家事と子育てでまったく時間がなくなって、さらに子どもが寝たらお金のことで悩んで眠れないみたいな。

室井:シングルマザーの半分が貧困って話は、もう何度もいろんな媒体で書いた。けど、ほんと無力感。響かない。読者から「フェイク書くな」とかって投書がいっぱい来たりして伝わらない。

中村:母子世帯は123万世帯、平均収入は243万円(厚生労働省調べ)となっています。収入なので児童扶養手当、児童手当、養育費が含まれての数字。本当に厳しい。一般的な家賃がかかったら暮らせないですね。

室井:なかなか伝わらないけど、ちょっと自分の周りをきちんと見てみようとか、もっと現実を知りたいって人だって少なくともいるよ。きっと増えている。私は身近な困っている人にお金を貸したり、直接助けたりはできる限りしてきた。けど、個人でそうするには限界がある。やっぱり疲れてきちゃうし、無理がある。

中村:15年くらい前までは女性の貧困は夜の世界とか、男性だったら裏社会とかに集まっていた。けど、いまはあまりに増えすぎた。本当に誰でも、どこにもすぐ隣に貧困がある。いつもと変わらない日常風景の中にあるから、わからない。

室井:国の制度がチョロっと変わってほしい、もうちょっとお金出してもらいたいなっていうのもあるし。そうするためには声を上げていく人を増やす必要がある。


室井佑月(むろい ゆづき)/1970年青森生まれ。ミス栃木、モデル、女優、レースクイーン、銀座のクラブホステスなどの職業を経た後、小説家に。最近では活動の幅を広げて、若い女性の代弁者、恋愛の教祖、そしてお母さん、という立場からコメンテーター、パネリストとして活躍中(編集部撮影)

それと、それぞれ個人ができることっていうの、自分の余裕がある部分の支援だけでいいと思うのよ。例えばスーパーとか買い物に行ったとき、いつも1人でいるご老人の方とかがいたりするじゃん。そしたら「こんにちは」とか「こんばんは」とか声かけるだけでも、ちょっと違うはず。

中村:最低でも孤独にならないことですね。できれば、幅広い人とつながっていたほうがいい。ちょっとした情報で変わることもあるし。

室井:だから、私はあいさつだけはきちんとするようにしてたの。そしたら、別の階に住んでいるおばあちゃんから正月前にお豆の入ったお餅、「これ、すごくおいしいのよ」ってもらったり。あいさつってみんなにしてることだけど、お餅をもらって、なんかいいことしたのかなって思った。最初はこっちからあいさつして「えっ?」という感じだったけど、人間関係って変わっていくから。

「養育費はいりません」は言っちゃダメ

中村:ただ、養育費の支払いが2割に満たない社会。自分の子どもでさえ助けるのが難しい現状がある中で、近所の人たちとも助け合おうみたいなのは遠い道のりの気が……。でもあいさつするくらいなら、誰でもいけるかも。

室井:養育費といえば、芸能人がよく「私、養育費は一銭ももらわないんで」とか言っているじゃん。あれ、よくないよ。芸能人はカッコつけてもお金があるからいいけど、一般の人は違う。芸能人がカメラの前で「養育費は一銭もいらないです」とか言っちゃいけないよ。

中村:芸能人とかインフルエンサーは、影響力がありますもんね。女性が養育費もらえないのは普通のことってなっちゃう。平均収入243万円じゃ厳しい、自分だけじゃなくて子どもまでが苦しむ。養育費はなんとかしてもらったほうがいいし、男性も自分の子どものために頑張って払いましょうと、ここで言っておきます。

室井:私も離婚してシングルになったばかりの頃、すごく大変だったよ。もうフラフラだったもん。仕事量が半端ないのよ。自分のことだけじゃなく、子どものこともある。

半端ない忙しさで、睡眠時間が細切れみたいな感じ。だからやっぱり子ども持って苦しい人は助けてあげたいと思うし、シングルだけじゃなくて、既婚だったら旦那の面倒も見なくちゃいけないじゃん。それもまた大変。子ども、旦那、自分のことで、もう限界を超えちゃう。

中村:あー、男は何もできない人が多いですからね。人のこと一切言えないけど、料理も家事も洗濯もできないってけっこう普通でしょう。一応、夫はどれぐらいできれば望ましいんですか。

室井:共働きなら、基本半々じゃないの。その家庭によるけど。旦那のほうが仕事量少ないんだったらやればいいし、でも、そこはあんま言いすぎるのもよくないって思ってる。言いすぎると対立しちゃうじゃん。

中村:いまは上流と下流の分断があって、たぶん2025年問題で団塊世代が後期高齢者になると、世代の分断が本格化する。それで男女まで対立しちゃうと、本当に社会が成り立たなくなっちゃう。でも、室井さんは昔から女性にすごく人気がある、というのは聞きます。講演すると女性ばかりとか。

室井:変な宗教ってくらい、おばさんから若い子まで女性ばかり。だから彼女たちに伝えているのは、対立しちゃダメってこと。例えば褒めていっぱい働かせるのもよし、そそのかして家事を分担するのもいい。笑顔でね。こっちが変われば相手も変わるから。

中村:このまま、どんどん貧困が増えるのはキツイです。いずれ自分もそうなるだろうし。四六時中、キツイなと思っているのでテレビに出るような著名な人にたまたま会ったりしたときに、貧困問題に対する見解を軽い感じで聞いているんです。

何人かですけど、みんな「自己責任」「正社員が恵まれすぎているだけ」みたいな返答。これはもう政治で解決みたいなことはないだろうなって思っているところです。

室井:でも、弱者救済は政治の仕事よ。先が見えない貧困って、死ぬよりつらい。死なないから生きてるって死ぬよりつらい。私、たまたま貧困にならなかったけど、離婚したばかりのとき、すっごい忙しい時期があった。子どものために誰からも「出てけ」って言われない自分の家を早く買おうと思ったの。だから仕事、全部断らないでやってたら、月60本連載になっちゃったことがあるのよ。

中村:えー、それは無理でしょう。その半分でも寝る時間がない、みたいな量ですよ。本当に死んじゃいますよ。

室井:その中に小説30枚もあったから、週2日は完全な徹夜。テレビの仕事も今までどおりにやって、週末は講演会だった。もうすさまじかった。そしたらね、髪は抜けていくし、ほんとにつらかった。

そのボロボロだった頃、友達から「あんたフラフラしてるから子ども見てあげるよ」って言ってくれた。余裕がないからこっちから「助けて」も言えないあたしだったのに。

「助けて」とまずは声を上げること

中村:追いつめられて冷静じゃないわけですね。少しの余裕をもって「助けて」と言えば、子どもを短時間預けるとか、子どもにご飯を食べさせるとか、そのくらいは誰かしてくれるかもしれない。でも、余裕がなくて冷静じゃないからわからないわけですね。

室井:それくらいだったら自分に言ってくれてよかった、って思う人は案外いると思うの。だから「助けて」って言ったとき、例えば殴る旦那だったらどういうふうにすればいいか、シェルターに入ってとか、どういうふうに今後すべきとか。声を上げたら、たぶん情報も入ってくる。相手も頼られてうれしい気持ちになるかもしれないし、声を上げてみるべきよ。


この連載の一覧はこちら

中村:『東京貧困女子。』に出てきた女性で、やっぱり声を上げたくてもどこにも言えないって人はたくさんいました。実際に話して記事にしたことで、支援とか援助の声がかかったことは何度もあった。

室井:あの連載を読んで思ったことは、そこまでなる前に声を上げるべきってこと。変な親がいて自分の稼ぎを吸い尽くされて、自分まで大変なことになってもまだ親が、っていう人とか出てくるでしょう。

大学生だったら教授とかに言ってみるべき、どうすればいいかって。そう思った。相手がうれしいとまでいかなくても、何かしらできることはある。だから苦しい人は「助けて」って、まず声を上げること。

中村:そのまま我慢していると自分もおかしくなるし、人が離れていってしまう。悪くなるばかり。もっと早く声を出そうって、本当にそうですね。今日は、どうもありがとうございました。

『東京貧困女子。』の著者、中村淳彦氏のトークイベントが7月17日(水)午後7時〜、大阪のLoft PlusOne Westにて開催します。詳細はこちらから。なお、本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。