コパ・アメリカを戦っている日本代表だが、日本のメディアの関心は久保建英に集中している。

 6月12日に日本代表選手団一行がブラジル・サンパウロへ到着すると、その翌日に「久保のレアル・マドリード移籍が濃厚」と報じられた。さらにその翌日、当のレアル・マドリードが正式に獲得を発表したことで、注目度はさらに高まった。


チリ戦に続き、ウルグアイ戦も出場が予想されている久保建英

 歴史、実績、人気、財力などから世界最高峰のクラブと目される「白い巨人」に入団した初の日本人選手。話題性があるのはわかるが、気になるのは、それだけであたかも彼が何かとてつもない快挙を達成したかのような報道がなされていることだ。

 日本代表の中に、かかる風潮に異を唱えたとも思える、冷静なコメントを発した選手がいる。小柄ながらドイツ、イングランドで計9シーズンにわたってプレーしてきた岡崎慎司(レスター)である。

 岡崎は「久保選手は、すばらしい才能の持ち主。過去、日本でこんな選手はほとんどいなかった」としながらも、「海外では、17歳や18歳で傑出したプレーをする選手は決して少なくない」と語る。それは日本のメディアやファンが、久保に過剰なまでに目を向けるのを暗に戒めているように聞こえた。

 少し客観的になれば、岡崎の言うとおりであることがわかる。

 フットボール大国ブラジルの場合、これまでレアル・マドリードのトップチームでプレーした選手は計27人。来季はDFエデール・ミリトン(21歳)はポルトから移籍金5000万ユーロ(約61億円)で、FWロドリゴ(18歳)はサントスから移籍金4500万ユーロ(約55億円)でレアル・マドリード入りする。

 去年の夏には、今の久保と同じく18歳になったばかりのFWヴィニシウス・ジュニオールがフラメンゴから移籍金4500万ユーロ(約55億円)で入団している。当初はカスティージャ(レアル・マドリードのBチーム)に置かれたが、5試合で4得点という群を抜く実力を示してすぐにトップチームに昇格。ほどなくレギュラーとして定着した。

 このうち、ヴィニシウスは16歳、ロドリゴは17歳の時に、すでにレアル・マドリード入りが内定していた。18歳になって公式戦に出場できるようになるのを待ってからクラブに合流した形だ。これに対し、久保の場合は6月4日に18歳の誕生日を迎え、FC東京との契約が満了し、移籍金なしで入団している。

 レアル・マドリードの内情に詳しいスペインのスポーツ紙『マルカ』の記者は、こう語る。

「クラブが久保の将来性を高く評価して、バルセロナ、アヤックスなど欧州のビッグクラブとの競争に勝って久保を獲得したのは事実だ。しかし、クラブが数千万ユーロの移籍金を積んで獲得した選手と久保を、同等に評価しているわけではないのも事実なのだ」

 また、「入団後、1年間はカスティージャでプレーする」という契約条項については、「これは、絶対的な決まりではない。今季のヴィニシウスのように、カスティージャで抜群のプレーを見せれば、1年を待たずにトップチームに上がるケースも出てくる」と説明する。とは言え、来季、トップチームでプレーする可能性については否定的だ。

「すでに3人の外国人枠が、ブラジル代表MFカゼミーロら強豪国の主力クラスで埋まっており、さらにベルギー代表MFエデン・アザールらを獲得してアタッカーの選手層が非常に厚いことから、来季、久保がトップチームでプレーする可能性は限りなくゼロに近い」

 同じ18歳でも、1年前のヴィニシウスと同じレベルとは評価されていないというわけだ。

 岡崎が言うように、世界には久保クラスの才能の持ち主は少なくない。そして、母国で「天才」と呼ばれ、欧州のビッグクラブに鳴り物入りで入団しながら、活躍できずにひっそりと消えた選手も珍しくないのだ。

 久保がレアル・マドリードという組織に入ったのは事実だが、今後、Bチームでの競争を勝ち抜き、さらにトップチームにいる主力選手を凌駕し、なおかつ外国人枠というハードルを乗り超えるという、気が遠くなるほど困難で険しい道のりが待っている。

 バルセロナの下部組織にいた久保本人は、こういった事情を熟知しているはずだ。そのうえで、レアル・マドリードという巨大クラブを選んだ。世界最高のクラブに入団したということは、世界で最も険しい道を選択したことを意味するのかもしれない。

 日本のメディアやファンは、久保がレアル・マドリードの一員になったというだけでお祭り騒ぎをするのではなく、彼が置かれている状況の厳しさをよく理解し、今後の成長を見守る必要があるのではないか。