文科省は2020年度から大学3年生全員を対象に大学の「授業評価」を行う方針という。日本の大学に国際的な競争力をつけさせるためには何が必要か。大阪府立大学と大阪市立大学で改革を先行実施してきた橋下徹氏が処方箋を示す。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(6月18日配信)から抜粋記事をお届けします――。

■文科省方針、大学生による「授業評価」に期待!

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA)

日本経済新聞の報道によると、文部科学省は2020年度にも、大学3年生の全員(約60万人)を対象としたインターネット調査を始めるという。

僕は、学生による授業評価が大学改革の柱になることを、メルマガVol.125(【大学改革(2)】補助金を増やすだけでは衰退あるのみ! 大学評価システムはこうつくる)で論じた。ゆえに、文科省がやろうとしているこの授業評価アンケートには大賛成だ。メルマガVol.125でも言ったけど、学生の名前は匿名(無記名式)にしたアンケートにしなければ学生は委縮して本音を書かない。だから、今回の授業評価は匿名なので、なおよろしい。

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大学教授たちがどんな研究をするのも自由だけど、やっぱり学生に対してはきっちりと授業をしてもらわなければ困る。大学には多額の税金を投入するんだから、研究成果による社会還元と同時に、明日の日本を背負う学生を育てるという意味での還元も絶対にしてもらわなければならない。今の教授たちには、この視点が欠けている者が多いね。

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■まずは教授会選挙による学長選出を廃止せよ

大学自体が授業評価することも重要だが、今の大学の仕組みでは適切な評価にはならないだろう。というのは、大学の学長が教授会による選挙で決められるところが多いからだ。教授会に選ばれた学長なんて、結局教授たちの顔色しか見ない。

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ゆえに、大学組織の一メンバーに過ぎない教授たちの教授会に、組織のトップである学長を選ぶ選挙などやらせていては、大学全体の利益になるような視点が抜けてしまい、教授たちの利益を守ることばかりに力を費やす学長が選ばれることになってしまうだろう。

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したがって、大学による授業評価を適切に行うには、まずは大学の組織改革、ガバナンス改革、仕組みの改革を徹底しなければならない。まさに改革プラン(授業評価)と同時に、プランを実行するための仕組み作りだ。僕が知事、市長の時の大阪府立大学・市立大学の改革は、そこに力を込めた。これが結果を出す「仕組み」作りであり、拙著『実行力』(PHP新書)で論じているテーマだ。

組織のトップは、組織のメンバーたちが決めるものではない。ゆえに教授会による学長選任権を廃止した。法律に基づいて、学長選考委員会が選考することにした。その委員は、大学の設置に全責任を負う、知事、市長が選任する。さらに研究教育部門(教学部門)のトップの学長と、経営部門のトップの理事長を分けた。教授人事も、学長(理事長)のマネジメント下の人事委員会が主導することにした。

すなわち、大学運営側と教授の関係をきっちりと明確化した。それまで教授会の力が強く、教授たちが大学運営にバンバン口を出せた市立大学の状況を変えたので、市立大学の教授連中は、いまだに僕に対して悪口を言っているのかもしれないね(笑)

このように教授会が大学の組織運営に口を出せない仕組みを整えてから、はじめて大学による授業評価・教授評価という改革プランが適切に実行できるようになる。

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このような改革は、学長のさらなる上位者である、文部科学大臣がエイヤーの号令をかけて、進めるしかない。

府立大学改革、市立大学改革も、知事、市長が大号令をかけて旗を振り、改革の方向性を決めてから、学長たちが具体的な改革を実行していった。教授会で選ばれた学長が、教授会の権限を否定するのは非常に難しい。国立大学のガバナンス改革、すなわち教授会の権限はく奪の改革は、柴山昌彦文科大臣の役割と責任である。

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■重要なのは受験生・学生の選択を信じることだ

学生による授業評価はもちろんのこと、適切な大学評価の仕組みもこれまでなかったことが、いまの日本の大学を狂わせている最大の原因だ。

文科省は運営費交付金という1兆数千億円の金を握って、大学側に巨大な影響力を持つ。大学側は、学問の自由! と叫びながら政治家などには散々批判をするのに、金を握っている文科省の担当役人にはまったく頭が上がらない。そして文科省の役人OBを天下りとして迎え入れる。さらに度を越して、文科省役人の子供を不正に入学させた事件が先日話題になる始末。

これだけ多額の税金を、入札を経ることなく直接特定の団体に交付する役所は文科省だけだろう。ここが大学行政の歪みの根幹である。

文科省の役人だけで、大学のあるべき姿など、描けるわけがない。だから、大学運営費交付金は、文科省役人の裁量が及ばないように、基本的には生徒の数に応じて配分するという客観的・形式的基準に変更すべきだ。もちろん大学外の研究団体が、大学の研究内容に応じて交付金を配分する制度も併存させた上で。

大学受験生たちが、自分の将来のことを考えて、必死になって大学を選ぶ選択を重視すべきだ。受験生による大学選びを、授業評価と同じく、大学評価の重要なものと位置付ける。いったん大学に入学した学生の大学間移動ももっと簡単にできるようにする。学生が集まらない大学は、評価の低い大学として、退場させられていくようにする。その場合に廃校なのか、他大学との統合なのかは大学側の選択だ。その際の学生の学習環境を保護する仕組みは役人に考えさせればいい。急に来年に閉校ですというのは禁じて、一定の時間をかけて閉校か統合を進める仕組みになるだろうが、そこは役人が考える話だ。

重要なのは、受験生や学生の選択を信じるということ。受験生たちは、学生や社会人による授業評価を重視するだろう。大学外研究団体による評価も重視するだろう。そうなれば、大学側が学生を集めようと思えば、学生による授業評価や大学外研究団体による評価を常日頃から意識せざるを得なくなる。大学側が自分たちでは良い大学だと認識していても、学生が集まらない場合も出てくるだろう。そうなれば、生き残るためには自校の伝統へのノスタルジーを捨てて、他校との統合を選択しなければならない。

すなわち、大学側は「評価」を気にすることになり、生き残るための手段として、場合によっては統合も含めて必死になって考える。

このように大学が必死になる環境を作ることが、真の大学改革だ。

しかし、このような改革は大学側からとてつもない反発を食らう。そこを大学側と真摯に対峙して、日本の未来のための真の大学改革を実行できるか。いきなり理想のゴールにたどりつくことは難しいだろうが、柴山文科大臣の実行力如何にかかっている。

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(ここまでリード文を除き約2600字、メールマガジン全文は約1万6800字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.156(6月18日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【大学改革(3)】文科省による「授業評価」は第一歩。日本の大学を世界に通用する大学に変えるには?》特集です。

(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)