ダイソーで500円(税抜き)で売っていたスリムタイプのモバイルバッテリー。容量は3000mAhですし出力は5V1Aと今更な仕様ですが、Arduinoなど微小電力機器用として使えるんですよ。コレが。

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実験の目的


500円で売られているダイソーの「1ポート モバイルバッテリ」の実力を知る

動機


100円ショップの中でも、PCやらスマートフォンやらで使えるデジタル小物が充実しているダイソー。値段は100円ではなく、300円とか500円といった高価な(といっても安いですけど)価格設定になってますが、HDMIケーブルだとか、ワイヤレスマウスだとか、VRゴーグルだとか、多種多様な商品が並んでいます。

そんなダイソーで、昨年末あたりに見つけたのが、500円のモバイルバッテリー。以前から2000mAhで300円のものは売られていしたが、これは500円と高いだけあり、リチウムポリマー電池を採用したスリムタイプの商品です。

▲ちょっとしたカバンのポケットにもしまえるスリムなモデル。500円とはいえ、100円ショップで見かけたときは目を疑いました(写真は後日撮影)

そうはいってもバッテリー容量が3000mAhと微妙なうえ、出力が5V1Aまでなので活用範囲は狭そうですが、ある目論見があって購入しました。それは、Arduinoなど消費電力が非常に小さいマイコン用のバッテリーとして使えるのではないか、というものです。

通常、モバイルバッテリーは負荷がない(または、ものすごく低い)場合出力を止め、放電が少なくなるよう設計されています。Raspberry Piであれば負荷が高いので大丈夫なのですが、Arduinoレベルになると負荷がないとみなされ、出力が止められてしまうのです。

これを回避するには、物理スイッチでオン/オフできるモバイルバッテリーを使うか、「cheero Canvas 3200mAh IoT 機器対応」(CHE-061-IOT)のように、微小な消費電力でも出力を止めない特殊機能を備える製品を使うしかありませんでした。


▲だいぶ前に発売された、微小電力でも動作し続けるレアな「cheero Canvas 3200mAh IoT 機器対応」。特殊用途向けだけあってバッテリー容量のわりに若干お高めです



ですが、以前購入していた300円のバッテリーで、Arduino UNOが動作することをたまたま発見。もしかすると、新しく見かけた500円のスリムバッテリーでも動くんじゃないかと期待したわけです。ということで、実験してみました。

実験対象


500円で購入したスリムタイプのモバイルバッテリーがメインですが、比較用に、以前購入していた300円のモバイルバッテリー、そして容量は大きくなりますが、これらよりはまともっぽい製品となるAUKEYのスリムタイプ(クーポン利用で999円で購入)を加え、3つの製品を用意しました。

簡単なスペックなどを順に紹介しておきましょう。


▲ダイソーで購入。税抜き500円の「【スマートフォン用】1ポートモバイルバッテリ」(以下、「500円」)。容量は3000mAhで、出力は最大5V1A


▲ダイソーで購入。税抜き300円の「モバイルバッテリー」(以下、「300円」)。容量は2000mAhで、出力は最大5V1A


▲Amazon.co.jpで購入。クーポン使用で999円のAUKEY「PB-N59」(以下、「AUKEY」)。容量は5000mAhで、出力は最大5V2A



実験で確かめておきたいのが、基本的なモバイルバッテリーとしての性能、微小消費電力時の動作、そして中身の大きく3つです。

実験方法

実験1.基本性能として、出力電圧、電流、放電容量の測定

モバイルバッテリーとしての基本性能を知っておこうという目的で、大きく4つの値を測定することにしました。

1つ目は、0.5A出力時の電圧。負荷があまり高くない場合の出力電圧がどのくらいなのか、というものです。ここで電圧がふらつくようでは、そもそも製品として信用できません。

2つ目は、1A出力時の電圧。ダイソーの2製品では出力が1Aまでとなっているため、この限界での電圧がどのくらい落ちるのかをチェックします。AUKEYの製品は2A出力となっていますが、今回はあくまで比較対象ということで1Aまでとしました。

3つ目は、出力電圧が4.75Vを切るときの電流値。過剰な負荷がかかった場合、どこまで耐えられるのかというのを知るために試しました。電圧の値をいくつにするか悩みましたが、5%も下落すれば多くの機器で影響あるだろうということで、4.75Vとしました。

最後の4つ目は、放電容量。フル充電状態から固定負荷を接続し、消費した電流量の総量を測ります。実容量がどのくらいなのかを調べるための実験です。時間がかかるので回数は試せませんが、2回計測して結果のいい方を採用することにしました。

電圧・電流の測定に使用した機器は、電子負荷を内蔵した簡易電力計「DROK DC 3-21V負荷バッテリテスタ」、放電容量の測定に使用した機器が簡易電力計の「RT-USBVAC3QC」とUSB用の固定負荷(1A、2A兼用)です。


▲簡易電力計「DROK DC 3-21V負荷バッテリテスタ」。負荷を自由に変えられ、その時の電圧、電流値までわかるという便利グッズ。こういった実験をするときに大変便利です


▲1つ持っていると便利なUSB電力計(今回はRouteRの「RT-USBVAC3QC」を使用)と、固定負荷(ノーブランド)。固定負荷はスライドスイッチで1Aと2Aを切り替えられます。かなり高温になるので、実験時は別電源で動かしたファンで冷却しました



なお、校正してあるようなまともな計測器ではないため、値はあくまで目安。対象のバッテリー単体、もしくはバッテリー間の比較のための数値だと考えて扱います。

実験2.微小電力時の動作確認に、Arduinoや電子負荷を接続

微小電力の機器を接続したときの挙動を見るため、「Arduino UNO」、「Pro Micro」を用意。それぞれを接続し、電力が止められることなく使い続けられるかを確認します。ちなみに、どちらもLEDを点滅させるBlinkを書き込んでテストを行いました(Pro MicroはTx LEDを点滅)。

また、どこまで小さな負荷で出力が続くのかを知るため、前出の電子負荷&電力計を使い、出力が止まらない電流の最小値も計測します。


▲微小電力でも動作する小さなコンピュータ。IoT機器関連の話題でよく登場するもので、例として「Arduino UNO」と「Pro Micro」の2つでテスト。個人的には、ものぐさ工作用として重宝しています


実験3.バッテリーの中身を確認する

モバイルバッテリー内部の基板、電池などをチェックします。見たからといって別に意味はないですが、どんな部品が使われているのかとか、基板なんかが見たいので。完全に趣味です。


▲ツメを外して外装をひっぺかすための道具たち。接着されてることも多いので、復元できないことも厭いません。マネしちゃダメ


実験結果


では、実験の結果です。まずは実験1の基本性能から。

<実験1・基本性能>


0.5A出力はどれもほぼ5V前後であり、数値がふらつくこともなく、これといって問題ありません。1A出力となると300円の電圧が若干低くなるものの、4.88Vですから一応セーフといっていい値でしょう。

違いが出たのは、4.75Vを切るほど電流を引っ張ったとき。300円はわずか1.03Aであり、電力へ換算すると4.9W。無理に引っ張っても定格以上の電力を出力することはできませんし、急激に不安定になることが確認できました。

500円はもう少し余裕があり、4.75V時で1.21A。電力では約5.7Wで、定格比で114%の出力となります。わずか14%ほどですが、余計に出力できるというのは心強いところ。多少のマージンがあるので、1Aを引っ張っても安心感があります。

AUKEYは2A出力となるので別格ですが、さらに高い2.78Aまで流せています。電力では13.2Wで、定格比132%。これだけ出力できれば、タブレットなど電力消費の大きいものでもしっかり充電できるといえるでしょう。スマホのモバイルバッテリーとして使うのが目的なら、100円ショップで買わずにこういうのを選ぶべきです。

続いて、放電容量をもう少しわかりやすくするため電力へ換算、これを定格と比べたものを表にしてみました。また、ついでに300円を1とした場合の容量比も計算しています。

<実験1・放電容量の比較>


300円とAUKEYが定格比で85%を超えているのに対し、500円は83%以下となっているのが気になるところ。また当然ですが、300円との容量比でも1.45倍ほどで、1.5倍には届かない結果となっています。個体1つにつきテストが各2回だけという限られた結果からの結論ですが、電力効率はあまり高くないように読み取れます。

続いて、実験2の結果です。

<実験2・Arduino UNO、Pro Microの動作実験>


出力電力では優秀だったAUKEYも、微小電力のデバイスはアウト。Arduino UNO、Pro Micro共に、一定時間経過すると電力供給が途絶えてしまいました。出力が続く最低電流は0.07Aほどと最も高く、この電流値を下回るデバイスでは動作が難しいという結果になりました。

300円はArduino UNOでこそ出力が止まりませんでしたが、さらに消費電力の小さいPro Microになると、定期的な瞬断が発生。どうやら出力が一瞬止まるものの再度出力が始まるという嫌な動作になっているようで、デバイスへのダメージが心配になります。

これに対して500円は、Pro Microでも安定した出力が可能で、出力保持の電流値が非常に低いことがわかります。実際に測ってみると、その値はわずか0.02A。ダントツです。

ただし、テストに使用した電子負荷では分解能が足りず、0.03Aや0.06Aが測定できないなど、0.01A単位の値が正確とは言い難いです。今回の優劣比較には十分ですが、正確な値が知りたい人は真っ当な計測器を使ってください。

実験3は結果もなにもないので、写真でどうぞ。

<ダイソー 500円>

▲これといった特長はないですが、フタのツメが深くはまり込んでいたので、割らずに分解するのは難しいです。強く引けばツメが折れるので、分解するだけなら簡単


▲バッテリーは容量3000mAhのリチウムポリマー。スリムタイプのバッテリーではまず間違いなくこれが使われています


▲ちゃんとバッテリー保護回路も搭載している基板。500円のわりにしっかりしていて、予想外でした

バッテリー保護回路もしっかりあります。コントローラは「SP4566」で、データシートによると出力電流は1Aあり、大変まともです。

<ダイソー 300円>

▲フタがツメで止まっているだけなので、結構簡単に開きます。基板と電池はホットボンドで固定されているだけで、ひっくり返して叩けば外れました


▲容量2000mAhの18650が1本使われています。スリムタイプじゃない大容量モバイルバッテリーでよく使われていますね


▲小さな基板なのはいいのですが、部品点数がえらいこと少ないうえ、コイルのフェライトが欠けていました。これでも動いてます

コイルのフェライトが欠けている300円のクオリティはどうなんでしょうか。これでも一応動作していますが、さすがに使い続ける気にはなれません。コントローラーは「HT4928S」で、データシートをみると出力電流がTypで0.8Aとなっているのも気になるところですね。

<AUKEY>

▲ツメが固いうえに粘着テープやらがジャマをして、かなり分解にてこずるタイプ。復元は諦めてバッキバキに割りました


▲容量が大きな5000mAhのリチウムポリマー。500円とあまりサイズが変わらないように見えますが、容量は大きくなっています


▲基板は本当にキレイ。バッテリー保護回路もありますし、500円と比べてもかなり美しく見えます。ハンダの光り具合なんて、鉛フリーとは思えないほど

AUKEYはさすがにレベルが違って、基板の美しさもハンダの美しさもダントツ。バッテリー保護回路もあるうえ、コイルにもよさげなものが使われています。コントローラーは「IP5209」で、出力電流は2.1A。300円と比べれば500円でもかなりまともに見えましたが、AUKEYはさらにその上っていう印象です。PSEマークはなかったんですけどね。
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結論


以上の結果から、500円モバイルバッテリーの評価をまとめてみます。

1A出力の製品として十分な性能微小電力デバイスを動かせる(0.02A以上)電力効率は若干よろしくないバッテリー保護回路ありPSEマーク付き
こんな感じでしょうか。

目論見通り、Arduino UNOやPro Microといった微小電力デバイスを動かせる仕様となっていたのが一番のメリット。出力が小さく小容量となるモバイルバッテリーは使いどころが難しいですが、本来の用途とは違うものの、IoT用電源としてはなかなか使える存在といえそうです。モバイルバッテリーで駆動すると途中で電源が落ちてしまうと悩んでる人なら、試してみる価値はあるんじゃないでしょうか。

まー、そもそも途中で電源が落ちてしまう問題は負荷を増やせば解決できるので、LEDライトも一緒に光らせるとか、別の負荷を追加すれば対応できますけどね。そのぶん電力は無駄になりますけど。

なお、推奨される使い方ではないですし、注意事項として明確に「やるな」と書かれていますが、どれも充電しながらの出力が可能でした。ただし、出力中に充電ケーブルを挿して充電を開始しても出力は維持されましたが、この逆に、充電しながらの出力中に充電ケーブルを抜くと、出力が一瞬途切れます。Arduinoなら再起動してしまうので、UPS的な使い方はできません。注意しましょう。

わざわざ書くことでもないかもしれませんが、最後に一応。今回テストしているのはあくまで私個人が入手した個体についてであり、他の個体で結果が一致するとは限りません。また、今後仕様が変更になる可能性もあります。あくまで「試したらこうだった」というものなので、参考程度にとどめてください。