なぜ1分間で修正できた? 強いロドリゲスと対峙し、どう自らをコントロールしたのか

 ボクシングのWBA世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)は18日(日本時間19日)、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)準決勝(スコットランド・グラスゴー)でIBF同級王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2回1分19秒TKOで下し、WBA王座は2度目の防衛に成功。新たにIBF王座を獲得し、2つのベルトを手に決勝に進むことになった。1ラウンドは互角の攻防だったが、2ラウンドに3度のダウンを奪うワンサイドの圧勝。井上はわずか1分間のインターバルの間にどう修正したのか――。

 終わってみれば、際立ったのは井上の強さだけだった。「準決勝でロドリゲス相手にこの勝ち方で、決勝に進めてホッとしています」。試合後の記者会見では、無邪気な表情でこう答えた井上だが、スコットランドのボクシングファンには戦慄が走った。

 立ち上がりは緊迫感があった。始まってすぐに、会場の誰もが確信した。ロドリゲスは強いと。フットワークも軽く、多彩なコンビネーションで押し込んでいった。井上が珍しく受けに回った。上下のコンビネーションを繰り出すが、クリーンヒットは奪えず、まさにハイレベルな技術戦が展開された。

 ロドリゲスについてはもとから高く評価していた。「想定していた右のカウンター、返しのアッパーは、予測できる範囲ではありましたが、いい角度から打ってきたり、危ないタイミングもありました」と初回を振り返った。

 だが、想定以上ではなかった。「1ラウンド終わったところでも、感触的に負けはしないだろうという気持ちの余裕はあった」という。井上自身、「力みがあった」。連続1回KO、勝って当たり前と見られるプレッシャー。知らず知らずのうちに体は硬くなっていたが、すぐに修正に成功する。

 相手の勢いに押されないように、重心を低く取った。「ロドリゲスが予想以上にプレッシャーをかけてきたので、勢いづかせないためですね。1回よりは重心を抑えて。気持ち的にはリラックスしていましたけど」と冷静に自身と相手を見極め、分析。自然に気持ちも落ち着き、いつもの井上に戻っていた。

 開始30秒で右からの、左のショートフックでダウンを奪うと、立ち上がってきた相手を今度は目にも止まらぬ左右のボディーで膝をつかせた。あまりに強烈なダメージだったのか、それとも陣営にタオルの投入を踏みとどまらせたのか、ロドリゲスは左右に首を振った。だが、ダメージは色濃かった。意地で立ち上がったが、仕留めにかかった井上に抗う力は残っていなかった。

ロドリゲスとのハイレベルな技術戦は「楽しかった」

「効いているのはわかっていたので、いけるかなというのはありました。(2度目のダウンの)ボディーはあえて狙っていきました。1番効いたのはボディーですね。前回見た試合でも(ロドリゲスの)ボディーは強くないなと。1回ダウンを取って、相手も上半身に意識がいっているので、そこで下にいきました」

 上を意識させてからのボディー。お手本のような攻撃で全勝王者をマットに沈めた井上だが、強いと認めた相手との攻防を「でも、面白かったですよ」と振り返り、うなずいた。

「自分もやっていてパンチが当たらない感覚はありましたし、逆にパンチも少しはもらいましたし。楽しかったですよ。それが2回で終わったというだけで。試合が長引けば、お互いに緊張感がとけて、良さがでてきて、もっとボクシングとして面白い展開になっていくんじゃないかと、1ラウンド終わった時点で思っていたので」

 過去2試合は1ラウンド終了のゴングを聞くことなく終わった。この日も2回で終わったが、少なくとも拳で言葉を交わし合った249秒間は充実感を感じていた。

 “フィリピンの閃光”として一時代を築いたノニト・ドネア(フィリピン)との決勝へ向かう。井上尚弥はいったい、どこまで強くなるのだろうか。可能性に限りは見えてこない。(THE ANSWER編集部・角野 敬介 / Keisuke Sumino)