by Ady April

注意欠陥・多動性障害(ADHD)のCEOであるAndrew Askinsさんは、知能は高いにも関わらず物事に集中できず「自分は怠惰だ」と思い込んだことから大学の成績が悪化したという経験を持ちます。一度は自分の能力を信じられなくなったAskinsさんですが、ADHDの診断を受け、会社を興したことで事態は一転。「ADHDの人が成功するには、『好きなことを仕事にすること』が必須である」として、才能や実力を発揮させる方法をつづっています。

How I run a company with ADHD

https://www.andrewaskins.com/how-i-run-a-company-with-adhd/

「頭がよい」と言われながらも19年間ずっと「自分は怠け者だ」と思ってきたAskinsさんは、他の人が簡単に終えられることをなかなか終えられず、自分を恥じるあまりに大学の授業をさぼるようになってどんどん成績を落としていったという過去を持ちます。成績があまりに悪化したために「自分は思っていたよりも賢くなかったのでは」と自分自身を疑いだしたAskinsさんでしたが、「ADHDと診断されたこと」「起業したこと」で人生が大きく変わったとのこと。

「物語を語ること」を例に「ADHDでない人の場合」「ADHDの人の場合」を説明した図が以下の通り。ADHDでない人は物語の冒頭から終わりまでがまっすぐ一直線になっていますが、ADHDの人の場合は話の間に余分なものが挟まり、話が行ったり来たりするなど、あらゆる「妨害」が存在することがわかります。



「引き出しを開ける」といった簡単な作業ですらも、ADHDの人の脳が気を散らす要素となりうるので、「すべきこと」に戻るまでに1時間かかることがあります。診断によってAskinsさんは自分が怠け者ではないことに気づくことができました。

AskinsさんがKritという会社を興したのは2014年の春のこと。このスタートアップは成功し、2019年には60万ドル(約6600万円)の収益を得ることができるとみられます。ビジネスのためにほとんど眠らない日や会社に泊まり込む日もあったといいますが、Askinsさんは仕事を遂行できたことで「自分は怠け者ではない」と希望が持てたといいます。

しかし、「自分は怠け者ではないか」というプレッシャーが完全に消えることはなく、波のようにAskinsさんのもとにやってくるとのこと。

「ADHDは無害」だと考えられることもありますが、Askinsさんにとって決して無害なものではありません。時にはミーティングの途中で自分が全く人の話を聞いていなかったことに気づいたり、「ちょっと休憩に」と記事を読み始めて気づけば数時間がたっていることも。ADHDであるAskinsさんによって時間は「タイムトラベルのように」過ぎるものであって、1つの作業の途中に別の作業を行う必要性を思い出し着手したところ、「最初の作業が半分しか終わってなかった」ということに気づくまでに何時間もかかることすらあるそうです。



by Kaboompics .com

そこで、Askinsさんは「創業者としてADHDを扱う方法」を編み出しました。

◆強引に優先順位をつける

ADHDの人にとって外部刺激は天敵です。時に思考がただよっているときは特にこのような攻撃を受けやすいタイミング。

このためAskinsさんはTodoistというアプリを使ってタスクの優先順位付けを行っています。Todoistは簡単に優先順位付けが可能で、また「今日のタスク」「明日のタスク」「1週間のタスク」といった期間の変更が素早く行える点がAskinsさんにとってのポイントだそうです。

構造の複雑さはAskinsさんを頭を混乱させ妨害する要素となりえるので、とにかくシンプルで、すぐにタスクを追加・認識ができるアプリを選んだとしています。

Todoist - 最高の ToDo リスト&タスク管理アプリ

https://todoist.com/



ただし、毎日のタスクは実行できるように5〜6個に収めること、タスクを詰め込みすぎないことを覚えておくべき。気が散っている時間もまた、クリエイティブなアイデアを出すためには重要です。

◆小さな勝利から始める

「重要な仕事・難しいことから1日を始める」といったアドバイスがありますが、Askinsさんは優先順位の低いタスクを短時間でやりきることから始めることが多いとのこと。難しいタスクは気が散らされるキッカケとなりやすく、結果として気が散ってしまうと、Askinsさんは自己嫌悪に陥りやすいためです。

「自分は生産的だ」ということを思い出させてくれる「小さな勝利」から1日を始めるのも1つの手です。

◆ミニマリズムを受け付ける



by Paula Schmidt

「この本を読まないと」「電話を充電しないと」「料理しないと」「掃除しないと」など、目の前に置いてあるものはADHDを持つ人の気を散らす原因になりえます。「目の前の世界の乱雑さを減らすことは必須」だとAskinsさんは語ります。

デジタル世界の物事についても同様で、アイコンや通知は気を散らす原因になるということで、Askinsさんはソーシャルアプリを全削除したそうです。また、友人と連絡を取るために使用するアプリをのぞいた全てのアプリを通知オフにしているとのこと。

◆お金を集めること

「お金を集めること」は自分のお尻に火をつけてくれたと語るAskinsさん。Kritを始めたとき、Askinsさんと共同創業者はアクセラレータープログラムによって1万6000ドル(約180万円)の出資を受け入れました。お金を受け取った事によって「責任」が生まれ、アイデアを形にするために必要なプレッシャーが発生したといいます。お金の額というよりもプレッシャーという意味で、この出資がなければKritは存在しなかったとAskinsさんは語っています。

◆コーチを雇う

「お金」という選択肢は必ずしもあるわけではありません。そこで、Askinsさんは「『自分をやる気にさせるもの、奮い立たせるもの』が何かを見つけ出すこと」を推奨しています。

Askinsさんの場合はこれが「人」、つまり自分がやらかなったことで誰かを失望させてしまうことがモチベーションになり得るとのこと。

コーチ、つまり作家であれば「編集者を雇う」、創業者であれば「定期的な会議」といった強制力によっても仕事を完遂させることができるようになります。

◆自分が楽しめることを仕事にする



by bruce mars

「自分が楽しめる仕事をする」ことは誰にとっても重要ですが、特に「成功したい」と考えるADHDの人は、「楽しめる仕事」が必須要件になります。

プログラマーとしてキャリアを積み始めた当初はプログラミングの持つ「問題解決」という側面を楽しめたAskinsさんですが、時間がたつにつれ「コードを書くこと」が嫌いになりはじめ、締め切りを過ぎるなど、プログラマーとしての生産性を落していきました。

その後、フルタイムでコードを書く仕事から、営業・マーケティングといったCEOの役目に移行し始めたAskinsさんは日々を充実した気持ちで過ごせるようになったそうです。

Askinsさんは23歳という年齢で会社経営をしているからこそ自分の役割を自由に変えるという特権を持つことができたのであり、一般の会社員に「試しに仕事を変えてみる」ということは難しいかもしれませんが、「ADHDならばチャレンジしなければいけない」とAskinsさんは語ります。

仕事を楽しめる時、ADHDの人は仕事を始めるのがより簡単になり、気を散らすものが少なくなります。

「ADHDを言い訳として使いたくない」と語るAskinsさんは、問題に対処する仕組みを見つけるためにもまず「問題があること」を認める必要性を説いています。単純作業を行うことが恐ろしく不得意であるというAskinsさんですが、いわゆる「クリエイティブ」な作業は得意であり、高度な戦略を立てたり説得力をのある会話を行うことも難なくこなすことができます。これらのアドバンテージを生かすためにも、上記のような方法で問題に対処する必要性を説いています。

なお、Askinsさんがこの文書を書き終えるには、半分完成させてから最後の仕上げをするまでに4カ月を要したそうです。