12月5日に中国の通信機器大手ファーウェイの副会長、孟晩舟(モンワンジョウ)最高財務責任者が、米国の要請を受けたカナダ政府に身柄拘束された。ファーウェイが、米国の対イラン経済制裁に違反して、イランに通信機器を輸出した容疑だとされる。だが、額面通りに受け取る関係者はいない。これは明らかに、トランプ政権のファーウェイに対するけん制だ。その証拠に、何でも米国に追従する日本政府は、翌6日に、中央省庁や自衛隊が使用する通信機器からファーウェイとZTEの2社製品を排除する方針を早速決めた。

 米国は8月に成立した国防権限法で、ファーウェイとZTEの製品を米国の政府機関や、政府の取引企業が使用することを禁じている。両社の製品には、ウイルスが仕込まれていて、通信を中国当局が盗聴したり、サイバー攻撃を行う際の起点となっている疑いがあるという。私は通信技術の専門家ではないので、それが本当かどうか分からないが、そのことは本質的な問題ではない。本質は、アメリカがファーウェイを封じ込めようとしている事実だ。

 ’87年に中国・深センに設立されたファーウェイは、通信端末の分野で米国のアップルを抜いて、世界第2位に躍り出ている。また、通信事業者向けネットワーク事業や法人向けICTソリューション事業などで、世界170カ国以上でビジネスを展開している。ファーウェイは研究開発に積極的で、売上高の15%を開発費に注ぎ込み、いまや世界最先端の通信技術を擁するようになった。トランプ大統領は、それが気に入らないのだ。

 トランプ大統領の本音は、「中国は日用品や家電製品を人海戦術で作ることに専念して、アメリカが独占してきた先端情報分野に足を踏み入れることは許さない」ということなのだ。

 米国が、今年7月から9月に中国に課した制裁関税は、「中国がアメリカの知的財産権を侵害している」というのが表向きの理由だった。だとしたら中国は、「今後、アメリカ製品のパクリはしません」と宣言すれば、貿易戦争は収まるはず。しかし、中国がそうしないのは、水面下で突き付けられている米国からの要求が、アメリカがリードしてきた最先端情報技術分野からの撤退だからだ、と複数の中国の専門家は証言する。中国政府は、「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」という計画を推進している。2049年の中華人民共和国建国100周年までに、現在の労働集約型のモノづくりから完全脱却して、世界最先端の技術に立脚した製造大国の地位を築くことが最終目標だ。

 その中で、自動運転の実現に不可欠の第五世代通信(5G)の開発を進めるファーウェイは、中国の国家戦略にとって、最重要企業だ。だからこそ、アメリカは「出る杭」であるファーウェイをいまのうちに徹底的に叩いておきたいのだ。

 米中貿易戦争は90日間の休戦になっているが、国家の威信をかけた戦いである以上、来年4月から、再び激化するのは確実だ。

 そうした中で、情けないのが日本政府の対応だ。カーナビで最先端技術を誇ったパイオニアも、香港の投資ファンドが買収する方向。日本は、最先端技術のカヤの外に置かれ、ずるずると途上国への道を歩んでしまうのだろうか。