4連敗からの6連勝――。1年3カ月にわたる戦いも大詰め。11月30日と12月3日に富山で開催されたワールドカップ2次予選Window5において、カタールに85-47、カザフスタンに86-70で2連勝を収めた日本代表男子バスケ。1勝もできず崖っぷちにいた1次予選から、出場権を得られるグループ3位へと浮上。来年2月の最終決戦に向け、あと一歩で世界の扉を開くところまで来ている。


チャレンジを繰り返して、力へと変えてきた馬場雄大

 今回は国内組が意地を見せた。今夏のWindow3とWindow4の予選では、八村塁(ゴンザガ大3年)が4試合、渡邉雄太(NBAメンフィス・グリズリーズ)が2試合に参戦し、日本に高さと自信、そして勝利をもたらした。それだけに、アメリカで活動する2人が不在となる今回は「雄太と塁がいないから負けたと言われたくない」と国内組が奮起したのだ。

 もちろん、大黒柱となったのは、カザフスタン戦で41点、15リバウンドと大車輪の働きで支えた210cmのニック・ファジーカスであることは間違いないのだが、ファウルトラブルの場面ではベンチメンバーがつなぎ、全員で崩れないディフェンスを発揮したことに「チームとして戦えた充実感があった」(篠山竜青キャプテン)2連戦だった。

 特に躍進が目立ったのが、複数のポジションをこなせるウイングプレーヤーの3人。馬場雄大と田中大貴、今シーズンからオーストラリアでプレーしている比江島慎だ。3人はフリオ・ラマスHC(ヘッドコーチ)から「君たちウイング3人の活躍が勝利へのカギ」と期待をかけられていた。

 猛然たる勢いを見せたのは、地元富山出身の馬場雄大だ。カタール戦の後半には持ち味の走力が爆発し、カザフスタン戦では55-55の拮抗したシーンで目の覚めるようなダンクをぶちかまし、流れを日本に引き寄せたのだ。

 大学4年の途中からプロ入りして1年が過ぎたが、それまでの馬場は「アメリカでプレーしたい」「ポイントガードもやってみたい」と様々な迷いの中で身体能力を持て余すようにプレーしていたが、ここへ来てダイナミックさはそのままに、状況判断力がついてきた。

 大学卒業を待たずしてプロ入りを決めた昨年、馬場はアルバルク東京のルカ・パヴィチェヴィッチHCから「今は本能だけでプレーしているし、状況を考えずに雰囲気でパスを出している。まずは一つひとつのプレーに責任を持つこと」と指摘されていた。そうした課題をプロの試合をこなすことで経験値として克服していき、個人スキルを向上させていったのだ。

 その証が、カタール戦3Q終了のブザービーター。1対1で横にステップしながらのジャンプシュートはBリーグでもなかなか見られない高度な技。さらに、カザフスタンのキーマンであるルスタム・イェルガリの足を止めさせたディフェンスもファインプレーだった。

 馬場が上昇していく傾向は昨年11月のWindow1の頃から見えていた。24点差で大敗したオーストラリア戦。比江島しか1対1でこじ開けられる選手がいない中で、馬場は速攻を含む11回ものゴールアタックを試みて活路を見出そうとしていたのだ。それは大敗の中で得た一筋の光のようでもあった。伸び盛りの23歳は今、成長の階段を駆け上っている。

 状況に応じてマルチなプレーで活躍したのが田中大貴だ。これまでの代表戦ではディフェンスこそ安定していたが、これといった特色を出せずにいた。「情けない話ですけど、今の自分は代表に来ると苦しい思いがあり、大事なところで決める、というレベルには至っていない」と、もどかしさを吐露していたのは9月のWindow4の頃だった。

 だが、9月のカザフスタン戦では、渡邊と八村の陰に隠れながらも要所で決めて8得点。「今までの自分をリセットするわけじゃないけど、初めて代表に入った時の気持ちのように『空いたら打つ』というメンタリティで臨んでいます」と心構えから変える姿勢を見せていた。そしてリーグ開幕直前に、Bリーグ王者として出場したアジアチャンピオンズカップにて、準優勝ながらMVPを獲得。「アルバルクの中では代表経験があるので、余裕が出てきて落ち着いてやれました」と確かな手応えを感じ始めていた。

 迎えたWindow5では、田中にとって代表戦におけるターニングポイントになりそうな場面が訪れた。司令塔の富樫勇樹が右足首を捻挫、篠山のファウルトラブルにより、後半にポイントガード(以下PG)を務めることになったのだ。アルバルクでもそうだが、田中はピック&ロールを仕掛けるときはボールハンドラーになることが多い。自身も「ゲームの起点になることはアルバルクと同じ役割だから、今回も余裕が出てきたんだと思います」と、仕事をやり切ったことに安堵の表情を見せた。

 そして田中同様、どうしても代表で結果を出したかった選手がいた。今季からオーストラリアリーグに参戦している比江島慎だ。

 オーストラリアの所属チーム、ブリスベン・ブレッツで比江島は、「正直なところ、もっと試合に出られるかと思っていた」と、開幕からほとんどコートに立つことができていない。明らかに足りないのは語学力であり「コミュニケーション不足」(比江島)だと痛感している。

 加えて「ブレッツでは点を取ることもそうですけど、PGをやることも求められている」という状況では、日本代表で色んなことがやれることを再度アピールする必要があった。「ブリスベンのコーチには『Window5でやって来い!』と言われているので、ここで自信を取り戻したい」との覚悟で臨んでいた。

 比江島が真価を発揮したのはカザフスタン戦の後半だ。14点、4リバウンド、2アシストのスタッツを叩き出し、苦境において何でもこなすエースぶりを見せつけることができた。

 ブレッツでは司令塔になることも求められていると言うが、だからといって、日本で点取り屋の比江島が現状PGを任される機会はない。だが田中同様、比江島も周囲を生かすことができ、今回でいえばファジーカスを使ったピック&ロールは機能していた。2人とも2014〜2016年の長谷川ジャパン時代はPGを経験したこともある。だが当時は、スピードアップする中でのボールプッシュを課題とし、ゲームメイクに専念するあまり、リバウンドに入るのを忘れてしまうことを指摘されていた。

 今回、アクシデントによりPGを務めた田中は、以前よりは速い展開作りができていた。だが、もっとディフェンスプレッシャーの強い国を前にしてスムーズにやれるかといえば「まだ形だけのPGだと思う」と本人の採点は辛い。

 それよりも「1番(PG)でも2番(SG)でも、状況に応じて判断のいいプレーをすることが大切」と、代表における役割がつかめてきたところだ。それこそが、アルバルクでやることと同様、田中に求められている良さなのだろう。

 ここまでの戦いを終えてラマスHCは、「比江島も田中もPGをやる能力が十分あるし、試合の中で数分PGとして起用する可能性を探っているところ。今は様々な可能性を広げていきたいし、日本のスタイルを構築しているところだ」と現状を評する。

 ここまでの日本は、5回の予選を通じてラマスHCが日本人選手の特性を知るところから始まり、個々の能力を引き出しながら、ようやく各自が役割を見つけるところまで来た。

 Window5を終えて比江島は「雄太と塁がいてもいなくても、いろんな組み合わせの中で勝てる自信がついてきて、勝ち方がわかってきた」と語っている。ウイング3人のステップアップに今後はファジーカス、渡邊、八村が融合することで、さらなる高みを目指せる可能性が見えてきた。まだ完全体ではないところに、成長していく面白さもある。最終決戦となる来年2月末のWindow6でも個々のレベルアップを求めたい。その成長こそが世界への扉を開き、ワールドカップ本戦へとつながる。