満室でも予約することができた(画像:トリップドットコムのウェブサイトをキャプチャ)

中国の大手オンライン旅行代理店(OTA)であるTrip.com(トリップドットコム)を巡って、すでに満室のホテルを「1室のみ在庫がある」などと偽って販売している事案が全国で発生していたことがわかった。

トリップドットコムは、中国・上海に拠点を置く大手OTAのシートリップ・インターナショナル(シートリップ)が海外で展開するブランドだ。シートリップや提携する旅行会社が取り扱う宿泊施設や航空券などを販売している。提携ホテルは世界200カ国120万軒に及び、航空券は200万ルート、5000都市を網羅しているという。

事の発端はこうだ。業界団体でeコマース問題を担当している旅館経営者の永山久徳氏によれば、東北地方のとある旅館の予約担当者が、年末年始に客室が満室となったことから、部屋を販売していた複数のOTAで満室であることを示す設定に切り替えた。しかし、トリップドットコムでは1室だけ残っているという掲載が消えなかったというのだ。

休館日も予約できるようになっていた

情報交換を目的として参加していた、旅館関係者のSNSなどに状況を報告したところ、ほかの旅館でも同様に、トリップドットコムにだけ、満室の日でも空室が数室あるという表示がされ続けた。

たとえばある高級旅館では、数カ月前に満室で販売を終了した12月31日の予約が可能だと表示された。しかも2連泊、食事なしで10万円と通常の2倍以上の価格だ。数時間後、その表示はなくなった。つまり誰かがその価格で購入したということだろう。別の旅館でも、12月の休館日に2泊25万円と表示された。もちろんまったく身に覚えのない設定だ。


トリップドットコムのある旅館のページ。部屋の写真がまったく違う建物の写真になっている(画像:トリップドットコムのウェブサイトをキャプチャ)

試しに予約画面を進めていくと、「予約確定:●時間以内」という文言が表示された。つまり、旅行者は個人情報を入力した時点では予約が確定されておらず、「残り1室」という表示には何の根拠もないことがわかる。

掲載内容をみると、旅館側が設定していないプランが勝手に作られていたり、存在しない部屋の広さが登録されたりしている。挙げ句の果てには、部屋の写真が近所のまったく別の業態の店だったというケースすらあった。

トリップドットコムは、これらの機能を「オンリクエスト」機能と呼んでいる。宿泊施設側に送った文書によれば、「カスタマーよりリクエストがあった場合に、お宿様へ確認後、ご送客させて頂くという双方の機会損失を少しでも削減しようとする制度」であると説明した。

しかし、宿泊施設とトリップドットコムの間で契約の有無にかかわらず、この機能によって、通常価格の2倍以上という非常に高額、さらにキャンセル料は100%で販売しており、実際には宿泊施設側には手配の連絡をしていなかった。トリップドットコムは声明で、「オンリクエスト」での回答待ちなどの予約確定前の取り消しでは全額返金していると主張している。

伊豆地方のとある旅館の予約客は、「オンリクエスト」状態だったものの、予約確定メールを受け取ることができた。だが、宿に連絡したところ部屋は確保されておらず、慌ててトリップドットコムのコールセンターに連絡し、キャンセルを申し出た。

客とトリップドットコムのやりとり

だが、「予約確定しているのだから無料キャンセルはできない」として、「それ(チェックイン)までに(部屋を)用意するし、用意できなければ返金するからそれまで待て」という回答を得たという。これは実質的な「オンリクエスト」状態であるにもかかわらず、キャンセル料を収受していることになる。

予約確定までの時間を守らず、宿泊日直前まで放置するケースもあった。日本の宿泊施設では宿泊日に近づくに従ってキャンセル料が高くなるのが一般的で、キャンセル料がかからないギリギリにキャンセルする人も多い。つまり、トリップドットコムはそれらのキャンセルされた予約をほかのOTAで予約し、自社で受け付けた割高な予約とすり替えることで、その差額を儲けていたのではないかとみている。

もしトリップドットコムが部屋を確保できなければ、「予約は確定しなかった」として利用者に返金すればよく、予約が確定せずに不安になった利用者がキャンセルをすれば、100%のキャンセル料を得られることになる。さらに宿泊施設側はこれらの事実を知らないため、キャンセル料を徴収することなく、すべてトリップドットコム側の儲けとなる。トリップドットコム側にリスクはない。

トリップドットコムは宿泊施設に向けた文書の中で、「本来お宿様と直接契約が無い旅行会社が、契約商品であると偽り、当該商品をCtrip側に掲載していること」を原因として、「法外な金額を掲載している」として第三者の旅行代理店の行為であると主張。

一方でその旅行代理店の名前は明かしておらず、実在するかもわからない。「本来の趣旨を理解していない悪意ある会社に対しましては、随時摘発し永久的に取引停止の処置を行います」とした。

利用者としては、「残り1室」という文言に釣られて予約時点で宿泊施設が確保できたと考えていれば、宿泊日直前のキャンセルによって、すぐに代わりの施設を探さなければいけなくなる。タイミングによっては宿泊施設が確保できないということもありうる。

予約ができていないことを知らずに宿泊施設を訪れてしまったらさらなる不幸が訪れる。夜、やっとの思いでたどり着いた宿泊施設で満室と告げられたところで、年末年始などの繁忙期に近隣の宿泊施設が確保できる可能性は極めて低いだろう。

泊まれたとしても、宿泊施設が10万円という値付けをした部屋を25万円で購入していることになれば、利用者が受けられるサービスは10万円の値段に見合ったサービスになる。部屋や料理に不満が出るケースもあるだろう。そういった評価はクチコミサイトなどに、宿泊施設が知らぬままに登録される。

今年のゴールデンウィークやお盆期間のネット上のクチコミを見ると、「数日前にホテルの都合で一方的にキャンセルされた」「ホテルに着いたが記録がなく、勝手にキャンセルされていたようだ。とんでもないホテルだ」「予約が入ってないと言われ、追い出されて泊まるところがなくなった。ひどいホテルだ」など、ホテルを非難する書き込みが急増している。

メールや確認画面を要確認

その多くがこのサイト経由であると書かれているのだが、ユーザーはまさかサイトが空販売していた部屋をつかまされていたとは知らず、部屋が用意されていないことをホテルの責任だと誤認しているのだ。また、サイトが高額販売していることで「ぼったくりホテル」だと誤解されてもいるだろう。ホテルの信用低下による被害、フロントで対応する労力は全国規模で甚大なものとなっている。

業界団体にあたる、東京都ホテル旅館生活衛生同業組合と日本旅館協会東京都支部は12月5日付で、会員に注意喚起文を送付。「既に満室になっている宿の大晦日の日の客室が販売されている事実が確認されました。その後、この週末だけで有馬温泉、城崎温泉、湯布院、鬼怒川などでも同様の事が起きている事が確認されています」と説明。

さらに、「宿には通知されず、お客様からはカード事前決済で宿代を収受しています。よって当日までに宿が気がつかないと満室の場合大変な事になります」と続けている。宿泊料金が通常の数倍の値付けとなっていることから、宿泊施設の信用問題につながるとしており、宿泊施設側による確認を呼びかけた。

観光庁も、業界団体関係者らから事情を聴取したうえで、12月6日付で「海外OTAを利用する際はご注意ください!」と題した注意喚起文をウェブサイト上に掲載している。

旅行商品の価格を比較できる、いわゆる「メタサーチ」を運営する企業の中には、トリップドットコムの接続を取りやめるケースも出てきたほか、旅行商品を提供していたパートナーも在庫の供給を停止するなど、影響は広がっている。

トリップドットコムの発表内容では、現在予約確定済み、もしくは「オンリクエスト」で予約中の人の予約が、本当に取れているのかはわかっていない。恐ろしいことに、このまま年末年始を迎えた場合、「ホテルに行ったのに部屋がなかった」というトラブルが全国各地で発生することもありうる。

多くのユーザーが通知メールや予約確認画面を確認せず、予約手続きは完了していると誤認したままホテルを訪れるケースがあれば、お正月に家族が旅先でホテルに泊まれず、代わりの宿泊施設も見つからず路頭に迷う姿も想像できる。

事態を重くみた全国旅館生活衛生同業組合連合会と日本旅館協会は、当初から予定していた各OTAとの情報交換会のうち、シートリップとの会合ではこの問題に対する説明を求める予定だ。