12月3日午後の記者会見の席で、自身の「クレプトマニア(窃盗症)」罹患を明らかにし、涙ながらに万引きについて謝罪した元マラソン選手の原裕美子さん。元日本代表ランナーという注目度もありメディアで大々的に報じられましたが、「クレプトマニア」とは一体どのような病なのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんが自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で詳しく紹介しています。

盗まずにはいられない病

万引きをしたとして12月3日に有罪判決を受けた、マラソン元日本代表の原裕美子さんが会見を開き、涙ながらに謝罪しました。

原さんは2005年の名古屋国際女子マラソンで初マラソン、初優勝という快挙を成し遂げ、世界選手権でも6位入賞というキャリアを持つアスリートです。

ところが、2018年2月、群馬県のスーパーでキャンディなど約380円相当を万引きした罪に問われ、逮捕・起訴。実はその約3か月前の2017年11月に、原さんはコンビニで万引きをしたとして、執行猶予つきの有罪判決を受けていたのです。

「(監督から)食べないで痩せるという指導もありました。日に日に私は食べ物に対する執着心が強くなり、食べては吐く、を繰り返す摂食障害に悩まされました。(モノを)盗ったら捕まる。捕まったらこの苦しみから解放される。苦しい生活から離れたい。それしか考えられなくて…」

当時の心境をこう振り返った原さんは、「クレプトマニア(窃盗症)」。

摂食障害をきっかけに「クレプトマニア」を発症し、2度に渡って万引きをしたと告白したのです。

クレプトマニアはギリシア語の「kleptein」(盗む)に、狂気を意味する「mania」をつなげた用語で、何らかのストレスの回避あるいは発散の方策として、衝動的になされる精神疾患のひとつです。

つまり、「モノが欲しいから盗む」のではなく「モノを盗むときの興奮」により「不安」を消すのを目的とする、いわば「窃盗のための窃盗」です。

窃盗をする直前の緊張の高まり、窃盗に成功したときの快感、満足、または解放感が味わいたい――。精神的な葛藤に直面する度に、「あのとき」の感覚を求め、万引きを無意識に繰り返してしまうのです。

窃盗は決して許されるものではありませんが、原さんのように摂食障害をきっかけに発症するケースが度々報告されており、男女比で言う1:3で女性に多いことがわかっています。

…切ない、というか、なんと言いましょうか。窃盗にあったお店にすれば「病気だろうとなんだろうと盗みは盗みだ!」と、憤るでしょうが、窃盗症がWHOも定義する精神疾患である以上、専門家による治療が不可欠です。

そのためにも「窃盗症」「クレプトマニア」という病の存在を、世の中に広めるのは大切なこと。今回の原さんの会見を機に一人でも多くの人が知ってくれればいいなぁ、と心から願ってやみません。

日本ではこの数年、高齢者の万引きの割合が大幅に増え、クレプトマニアである可能性が専門家から指摘されているという現実もあります。

孤立した高齢者が、寂しさから窃盗に走る。窃盗への興奮だけでなく「誰かにかまって欲しい」という気持ちがそうさせるのです。

病気は個人に宿るものですが、それを発症させる「社会の病」もあります。

繰り返しますが、窃盗はれっきとした犯罪ですし、絶対に許されるものではありません。

でも、そういった罪を犯す人の中には、「社会に心を蝕まれた」人たちも一定数存在します。「罪を罰する」だけではなく、「病を治療する」。「辞められない罪」との向き合い方。社会の問題として考えることも大切だと思うのです。

みなさまのご意見お聞かせください。

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