街に「火の用心」が聞こえてくる季節になりました。火事の中でも特に起こりやすく激しいのが「天ぷら火災」です。今回の無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』では著者で科学者のくられさんが、メディアで取り上げられている「天ぷら火災にはマヨネーズ」が本当に正しいのか、他のものでは効果があるのかを実験し、写真入りで詳しく解説しています。

天ぷら火災の科学

天ぷら火災にはマヨネーズ。そんな話を聞いたことはないでしょうか。ある程度リテラシーのある人なら、かなり知られている話だと思います。

かいつまんで説明すると、天ぷら火災を起こしている油にマヨネーズを入れると速やかに鎮火するというものです。読者の中にも、天ぷら火災がもし万が一起きたら、マヨネーズがあれば止められる…と思っている方も多いかも知れません。

さて、この話は本当なのでしょうか。確かに、実際にテレビ番組などでは、天ぷら火災にマヨネーズを入れて鎮火する映像が流されていいます。あたかも「マヨネーズさえあれば万能!」と、そう思わせるような作りです。

この辺は、シナリオありき、ねつ造、やらせは当たり前の地上波テレビ番組のこと。何度も取り直し、編集して綺麗に消えた映像だけを流されていたかも…という疑いも沸いてきます。

そこで、今回は実際に天ぷら火災を起こし、それにマヨネーズが使えるのかどうかを検証します。また他の台所にあるものでも鎮火できないのか、本当に消火器はいらないのか?火災を科学の目で冷静に見つめ直していきましょう。

天ぷら火災の仕組み

天ぷら火災はどのように起こるのでしょう?

天ぷら油はコンロの火によって際限なく加熱することができます。実験では100ml、200ml、300mlの油をそれぞれ加熱しました。すると、100mlでは2分台で発火するのに対し、200mlでは6分、300mlでは11分以上かかります。温度を赤外線温度計で計測したところ、370〜410℃前後で発火している模様です。

消防白書(2010年)によると、天ぷら火災は時間帯を問わず起きています。また、必ずしも天ぷらでの火災ではなく、お弁当などの総菜作りで、フライパンなどで少量の油で揚げ物を行う際などに火災発生、というケースもありました。

食用油として一般的に用いられている植物油は、熱源で加熱され続けると際限なく温度が上がります。鉄と同じくらいの熱伝導率を有し、熱が水より上がりやすいのです。

さらに水の100倍近くエネルギーを溜めることができるため、一旦着火してしまうと、コンロの火を消すことができても、自分の熱で発火、温度上昇を繰り返すので、自然鎮火しにくいといえます。

また水より軽いせいで天ぷら火災に水をかけると、水が突沸し火災が拡大します。また不安定な鍋(フライパンなど底の浅い鍋)だと、水をかける際にひっくりかえり、炎を床にぶちまけることにもなりかねません。こちらはマヨネーズが云々よりもずっと有名な禁忌ですね。

さらに近年の自然派思考(といっても香油を料理にドバドバ使うとかいう論外さんはさておくが)で、揚げ油にはオリーブオイルやコーン油を使うだとか、さらに少量で済ませるためにフライパンで揚げ焼きにする事例も増えたように思います。これらは他の植物油より100℃近く引火点が低いため、発火点に至らずともコンロの火を拾って発火しやすいといえます。

さて、やってはいけない例や、話の発端になった「マヨネーズ鎮火」も含めて、実際に火災が消せるのかを見ていきます。それぞれ実験は、200mlの油を小型フライパンで加熱。発火し2分経過したところで、いわゆる台所で対処できそうな天ぷら火災の消火方法を実際に検証してみます。

コップで水をかける

まず絶対に行ってはいけないという天ぷら火災へのコップでの水かけ。実際に水を入れてみると、閃光と同時に非常に強い爆発が起こり、それにより拡散した油に引火、炎の勢いが一気に強くなることが確認されました。天ぷら火災にはコップで水掛けを絶対にしてはいけないことを再確認(笑)。





マヨネーズを投げ込む

今回の本題とも言えるマヨネーズによる鎮火を試してみました。おもむろにマヨネーズをボトルごと投入。ガワであるボトルは速やかに溶け、中身のマヨネーズが広がると一時的に火は大きくなります。その後マヨネーズが鍋の中央に偏り、火の勢いは衰えるものの、最終的には鎮火にまで至りませんでした。





写真では安全に配慮して、窒息消火を行った後に中央に寄ったマヨネーズを撮影しています。

この検証結果を踏まえると、マヨネーズの投げ入れでは、必ずしも速やかには鎮火しない場合もある、という事がわかりました。もちろん鎮火に至る場合もあるでしょうが、正直なところ信用できるとは到底言えません。テレビが恣意的に映像を編集して放送していた可能性は少なくないでしょう。

中性洗剤を投げ込む

台所にあるものですぐに手に取れるものとしては、食器洗い用の中性洗剤が挙げられるでしょう。この洗剤を燃えさかる炎に投入したところ、一時的に炎は伸びるものの、見事に鎮火に成功しました。

とはいえ、たまたま成功したかも知れない…という疑いはあるので、2回ほど繰り返して検証。結果として、いずれも油の1/4程度の量で十分に消火できる事が確認できました。







もちろん消火器とまではいきませんが、緊急時にはマヨネーズなどより中性洗剤の方が鎮火できる可能性が高い、と言って良いでしょう。なお、ボトルごと投入しても同様の効果は見込めると思いますが、フタを取っておかないと、中の空気が膨張して中身がまき散らされてしまい、消火効果を失う可能性も否定できません。もしもの時には注意しておきましょう。

水濡れタオル

自分が一番信用している消火方法の一つとして挙げるのが「水濡れタオル」です。鍋の上を十分に覆う事ができるサイズのタオルを水で濡らし、炎上中の鍋にかぶせる、というもの。これは有機化学の実験中に出た火災を鎮火するために用いられる事の多い手法なのですが、天ぷら火災の場合も、一瞬で鎮火できるという優秀さを見せました。



ただし、失敗すると燃えさかる鍋をひっくり返す他、炎にかなり近づかなければならないので、そもそも炎に慣れていないと難しいという欠点もあります。火災で動転している時に取る手法としては危険もあるので、一概に最良の方法とも言えません。

というわけで、鎮火実験でした。前にも触れたことですが、自分は火をよく扱います。なので、撮影時には毎度毎度、かなり厳重に注意を払って、消火器などの準備をした上で行っている事です。くれぐれも火災には気を付けましょう。

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