by Michael Candelori

アメリカの独立公益公社であるニューヨーク州都市交通局(MTA)はニューヨークの地下鉄やバスを運営しており、1日の利用者数は数百万人を超えるなどニューヨーカーにとってなくてはならない公共輸送の要です。そんなMTAは慢性的な赤字が問題となっており、「MTAは死のスパイラルに突入した」とまで指摘される事態になっています。

New York City subway and bus services have entered 'death spiral', experts say | US news | The Guardian

https://www.theguardian.com/us-news/2018/nov/20/new-york-city-subway-bus-death-spiral-mta-fares

MTAは2018年11月、財政の危機的状況により「大幅なサービスカットか運賃引き上げが必要になる」と警告しました。1日あたり数百万人ものニューヨーカーたちが利用する公共交通機関のサービスカットや運賃値上げは、多くの人々に悪影響を与えるものとなります。

2018年1月にMTAの危機的状況を打開するために迎え入れられたAndy Byford氏は、就任して早々に財政難という大きな問題に直面しています。Byfold氏は役員会議で「このままMTAが最悪の状況へ突き進むことは決して受け入れられるものではありません」と語り、どうにかして運賃値上げやサービスカットを行い、この状況を切り抜けたいとしています。

MTAは利用者数の減少によって運賃収入が減っており、財政状況の悪化に歯止めがかかりません。ニューヨークの地下鉄に関するウェブサイト「Second Avenue Sagas」を運営するBenjamin Kabak氏は、「MTAは『死のスパイラル』に突入しました」と語り、人々がMTAを信頼せずに利用を控えれば控えるほどMTAの収益は減少し、十分なサービスが提供されないまま運賃が値上げされてしまう状況に陥っていると指摘しました。



by iwishmynamewasmarsha

この状況を打開するため、MTAは2019年3月までにベースとなる運賃を2018年11月時点の2.75ドル(約310円)から3ドル(約340円)に値上げするか、ベースの運賃はそのままで定期券を購入した際に得られるボーナスを削減することを検討しています。また、年間約4100万ドル(約46億円)相当のサービスを削減することも議論されており、地下鉄やバスのルートにおける始点から終点までの運行時間を長くし、始発の運行時間を遅らせる案も視野に入れているとのこと。

仮にこれらの改革が承認されて実施したとしてもMTAは多額の赤字が見込まれており、2022年までに10億ドル(約1100億円)近い負債が積み重なると予測しているそうです。これらの赤字を解消するためには、最終的にさらなるサービスカットを実施し、運賃を15%値上げする必要があるとMTAは述べています。

さらにByfold氏はニューヨークの地下鉄が慢性的に遅延する問題に対処するべく、第二次世界大戦以前に作られた古い信号機を新型に置き換える等の改革によって、混乱した交通システムを改善するという野心を持っています。このByfold氏の計画にはおよそ400億ドル(約5兆5000億円)がかかる見込みですが、現在MTAが抱える赤字にこの計画費用は算入されていません。



by Jason Eppink

ニューヨークの地下鉄が遅れやすいという問題は以前よりも深刻化しており、2017年の電車遅延本数は2012年の3倍にのぼったとのこと。その後2018年秋には若干の改善が見られたそうですが、それでも運行されている電車のうち3分の1が遅延しており、これによってニューヨーカー全体で年間3億ドル(約330億円)ほどに当たる労働時間を無駄にしていると推測されています。

ニューヨーク州知事を務めるアンドリュー・クオモ氏もこの問題を重大視しており、マンハッタン中心部へ入るドライバーに対し「渋滞税」を導入することを検討しています。また、MTAはUberやLyftといった配車サービスの競争過熱によって乗客が配車サービスへ流れ、公共交通機関の利用者数減少を招いていると主張しています。

Byfold氏は「ニューヨーカーたちは『MTAのサービスが悪い』と言います。しかしその原因は資金が不足していることにあり、運賃の値上げが実現されなければさらに状況は悪くなります。ここで改革を行う以外の選択肢はありません」と語りました。



by Wendy