女性初の衆議院議院運営委員会委員長が誕生した(2016年11月撮影:梅谷秀司)

第4次安倍改造内閣の女性閣僚は片山さつき地方創生担当相ただ1人だった。しかし、「女性が輝く社会」を標榜する安倍政権の今回の“隠し玉”は、高市早苗衆議院議院運営委員会委員長と野田聖子衆議院予算委員会委員長の起用ではないだろうか。

安倍晋三首相が2012年9月の自民党総裁選で勝利した際には、党三役のうち総務会長に野田氏、政調会長に高市氏を任命した。くしくも今回もこの2人を重要ポストに登用。衆議院予算委員長は議会の花形で、議運委員長は議会運営の要をつかさどる。いずれも女性初という快挙だ。

なかでも衆議院議院運営委員会委員長に高市氏を抜擢したことは極めて重要だ。

院内でナンバー3の地位

議院運営委員会は常任委員会の1つだが、その委員長は議長、副議長に次いで院内でナンバー3の地位にある。議院運営委員会が原則として法案の審議は行わず、議院や議事進行について全般的な役割を担うためだが、その審議や協議の主な案件は以下のとおりになる。

1)法規により議院運営委員会の所管と定められている事項
2)議院の運営に関する事項
3)国会法及び議院の諸規則等に関する事項
4)議長の諮問に関する事項
5)議員の海外派遣、外国議会の議員団の招待、儀礼等に関する件

その具体的内容は各委員会に各会派から何人の委員を割り当てるかに始まり、立法事務費の交付を受ける会派の認定、証人などへの旅費や日当の決定など多岐にわたる。

不逮捕特権を持つ国会議員が開会中に逮捕請求された場合、秘密会を開いて審議するのも議運委員会の役割だ。さらには議席と議員控室の割り当てや発言順位や割当時間の決定、議員の辞職や請暇(せいか)にかかわる事項など、その職務は非常に細かい。

加えて、与野党が対立して国会の審議が全面的に止まった場合でも、議院運営委員会は開かれる。特に同理事会は与野党が妥協点を探る場として、その役割は非常に重要だ。

議院運営委員会のメンバーは委員長以下25人で構成されるが、実際の協議を担うのは委員長と各会派を代表する9人の理事たちだ。協議を重ねても合意が得られない場合には、与党筆頭理事から委員長に判断を仰ぐことになるが、委員長職権で本会議を立てることを決することも少なくない。

こうした職責を担う議運委員長は当然ながら、与党側に偏しない公平さが必要とされるが、同時に極めて高い調整能力も求められる。国会改革に大きな功績を残した委員長も数多い。

たとえば1999年10月29日から2000年6月2日まで衆議院議院運営委員長を務めた大島理森衆議院議長は、国会審議の「国会審議活性化法」を成立させてそれまで大臣等に代わって答弁していた政府委員制度を廃止するとともに、イギリス国会の「クエスチョンタイム」をモデルとする「党首討論」を導入した。

配布文書のペーパーレス化を推進

10月24日に委員長に就任したばかりの高市氏も、改革の意欲を見せる。

「議院運営委員長は『議会制度に関する協議会』の座長であり、『国会法改正等及び国会改革に関する小委員会』委員長も兼任する。その立場から各会派の委員と十分に協議を行ったうえで、納税者の利益につながるコスト削減や議員立法の審議時間の充実などに努めたい」

そのために高市氏がまず取り組もうとしているのが、院内の配布文書のペーパーレス化だ。議員会館地下にある各議員室のポストには文書課などから大量の書類が届けられているが、その大半は閲覧すらされずにそのまま破棄されてしまうことがかねて問題視されていた。

しかし、長年の慣行や法規という障壁があった。たとえば衆議院規則第89条(「議長は、委員会において特に秘密と認めた部分及び第71条の規定により委員長が取り消させた発言の部分を除き、委員会の報告書及び少数意見の報告書を印刷して各議員に配布する」)など、ペーパーレス社会を想定していない法律が多々存在する。

そこで古屋圭司前委員長時代に、「報告書等」や「請願処理経過」など法規改正が不要な部分からペーパーレス化を決定。10月1日から実施している。

「法規改正が不要な文書のペーパーレス化だけでも、1300万円の印刷代を削減することができた。これから法律改正や環境整備が必要になる『官報』や『会議録』『質問主意書・答弁書』『請願文書表』『委員会報告書』『議案類』のペーパーレス化に取り組みたい」(高市氏)

衆議院で各議員に配布される文書すべてのペーパーレス化が実現すれば、年間の予算は7億円削減されることになる。「そればかりではない。文書を運搬・配布する職員の労力も省くことができる。ペーパーレス化は働き方改革でもある」と、高市氏は胸を張る。

将来はタブレットで投票も可能に

ペーパーレス化されると文書の代わりに各議員に貸与されるのは、電子データを見ることができるタブレットだ。

「議会での使用に限定するため、目的外のアプリを取り込むことができないようにするとともに、セキュリティ認証を厳格化しなければならない」

さらに高市氏は貸与されるタブレットに、将来的には投票機能をつける可能性も示唆した。

「記名投票の場合は自分の票を持って壇上に上がらなければならないし、起立投票も多いが、ケガをしていたり障碍をお持ちだったりで投票行動が困難な人もいる。国会をバリアフリー化することも必要だ」

高市氏の女性ならではの細やかな視点は、長らく男性主導社会だった国会をその細部から変革をもたらしていくだろう。初の女性議院運営委員会委員長の誕生は、そのきっかけとなるに違いない。