青山にオープンしたウールリッチ旗艦直営店のメンズコーナー。主力商品である高級ダウンジャケットが並ぶ(記者撮影)

海外の高級ブランド店が集まる東京・青山。ここに9月末、秋冬用のアウターを中心とするブランド「WOOLRICH(ウールリッチ)」の旗艦直営店がオープンした。1階がレディース、2階がメンズの2フロアで、店内には10万円以上の値札が付いたミドル丈のダウンジャケットが数多く並ぶ。

ウールリッチは、アメリカ発祥の老舗アウターブランド。創業家による本国での事業は衰退したものの、イタリアのアパレル販売会社・WPラヴォリが10年ほど前に欧州・アジアでの権利を取得してブランドを再生。現在は同社傘下の英ウールリッチ・インターナショナル(WI社)を通じて事業を展開している。

WI社が手掛ける現行の商品はイタリアで現代風にデザインされたもので、高級アウターとして欧州で人気が広まった。日本でも有名セレクトショップなどで取り扱いが増えている。

アウトドア仕様の商品企画を任される

実はこの青山の旗艦店を運営するのは、アメリカのアウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス」など、アウトドアやアスレチックの衣料を国内で展開するゴールドウインだ。

同社は昨年7月、WI社の株式の2割以上を取得して経営に参画し、商品面でも協力することで合意。これに伴い、国内の販売元も従来の別の企業からゴールドウインに切り替わった。

「ウールリッチで新規にメンズのアウトドアラインを立ち上げたい。その商品企画を担当してもらえないか」。今回の資本業務提携は、WPラヴォリからのこんな打診がきっかけだった。WI社の経営に参画することを条件として、ゴールドウインはこの要請を受け入れた。

ゴールドウインは「ヘリーハンセン」や「カンタベリー」など、海外のさまざまな有名ブランドを国内で展開している。海外商品を単に輸入販売する代理店商売ではなく、各ブランドから国内での商標権やライセンスを取得し、同社が自らの手で日本人向けの商品を作っている。

中でも大成功したのが前出のザ・ノース・フェイスだ。本国では登山用の実用着が中心だが、日本版ノースは普段使いできるアウトドア仕様のファッションブランドとして大ヒット。特に20〜40代の男性の間で人気が高い。WPラヴォリが協力を仰いだのも、そうした日本版ノースにおける商品企画力を高く評価したからだ。

日本版ノース・フェイスの技術を駆使

新アウトドアラインは、ゴールドウインが設立した100%子会社のウールリッチジャパンが担当。素材の選定から細かな仕様決め、さらには協力工場を活用して製造も手掛けた。この秋冬シーズンから店頭に並び、グローバル展開商品として国内外で販売される。


ゴールドウインの本間取締役(左)とウールリッチジャパンの川田社長(右)。「ウールリッチ事業を通じて、海外展開のノウハウを得たい」と本間氏は話す(記者撮影)

「ファッションとアウトドア、両方の付加価値を取り入れたものにしたいというのがWPラヴォリからの要望。細部の作り込みまで徹底的にこだわり、ノースで培った技術をかなり投入した」。ウールリッチジャパンの川田慎二社長はそう話す。素材や縫製技術に精通している川田氏は、昨秋までノース事業の副部長を務めていた。

たとえば、新ラインにおける最上位モデルのダウンジャケット(定価は税込み12万円弱)。ブランドの顔ともいえる定番商品「アークティックパーカ」をベースにしたモデルだが、ゴールドウインの手によって、本格的なアウトドア仕様に仕上がった。

表地には防水透湿性に優れた米ゴアテックス社の厚手の生地を採用。中のダウンは2層構造とし、肌に近い内側には遠赤外線効果を持たせたハイテク天然ダウン、結露が生じやすい外装側には湿っても保温性が下がりにくい人工ダウン(化繊綿)を使った。しかも、冷気が入る縫い目を極力減らすため、袋状に織った特殊な裏地の中にダウンを入れるというこだわりようだ。

イタリアで企画された現行商品はファッション性を重視した細身の作りで、カジュアルなボタンや低い前襟が特徴だ。一方、アウトドア仕様は肩周りを広くし、手袋をした手でも開け閉めしやすいスナップボタンを採用。冷たい風をしのげるよう前襟は高くした。ほかの商品も動きやすさや耐久性、防寒性などにこだわったという。


写真右は現行の定番ダウンジャケット、「アークティックパーカー」。左がゴールドウイン企画の本格アウトドア仕様で、防寒性や動きやすさなどにこだわった(記者撮影)

WI社は最近、ウールリッチの創業家からアメリカ本国での事業権も取得した。今後、北米でも商品を本格的に販売する計画で、今回の新アウトドアラインを北米市場攻略の戦略商品と位置づける。商品企画の現場責任者を務めた野村剛司・ウールリッチジャパンMD部部長は、「日本で企画したアウトドアラインが海外でどこまで受け入れられるか。お客さんの反応がすごく楽しみ」と話す。

狙いは海外での実践経験

新アウトドアラインが成功してWI社の事業が拡大すれば、出資比率に応じた持ち分益の形でゴールドウインの業績にも貢献する。ただし、同社がそれ以上に期待するのが、「海外展開のノウハウ獲得」(取締役の本間永一郎・総合企画統括本部長兼グローバル本部長)だ。

ゴールドウインは海外売上比率が数%程度しかない、“超”がつくドメスティック企業。大黒柱のノースをはじめとする主力ブランドはいずれも海外他社のもので、一部を除き国内での使用しか認められていない。いつかは自社のオリジナルブランドで本格的に海外へ出ていきたい――。それが長年の悲願でもある。


新アウトドアラインは白地のロゴタグが目印。来春には薄手のウィンドブレーカーなど、春夏用の商品も数多く店頭に並ぶ予定だ(記者撮影)

そこで同社は今、社名を冠した「ゴールドウイン」事業の再構築を進めている。国内スキー人口の減少で縮小が続いたスキーウエアのブランドだが、ノース事業の元幹部を責任者に抜擢し、普段使いできる衣料の展開を一昨年に開始。スキーからアウトドア、普段使いまでをカバーする総合ブランドに発展させ、将来的には海外にも展開したい考えだ。

その実現のためにも、今回のWI社との資本業務提携は重要な意味を持つ。本間取締役は期待を込めながらこう言う。「ウールリッチ事業を通じて、世界のアウトドアファッションを舞台に実践経験が積める。これはたいへん貴重な経験だ。そこで得たノウハウや知見が、いずれ自社ブランドで海外に出て行くときに必ず役立つ」。

大黒柱である国内のノース事業はここ数年2ケタ成長が続き、ゴールドウインの足元の業績は絶好調。しかし、ノースの勢いが今後も長く続くとは限らない。長期的成長には海外でも稼げる企業になることが不可欠であり、ウールリッチ事業を通じたノウハウの獲得が、その大きな一歩になる。