東大は、どのような力を持った学生に赤門をくぐらせているのでしょうか(画像:ニングル / PIXTA)

「勉強しているはずなのに、成績が上がらない」「どれだけ本を読んでも身に付かない」。受験生に限らず、勉強熱心なビジネスパーソンでも、このような悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
「かつての僕は、まさにそうでした」。2浪、偏差値35という崖っぷちから1年で奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏は、自らの経験を振り返って言います。「でも、ちょっとした工夫で、劇的に改善したんです」。
教科書、参考書だけでなく、あらゆる本の読み方を根本から変えた結果たどり着いた、「知識を増やすだけでなく『地頭力』も高められる」「速く読めて、内容も忘れず、かつ応用できる」という読書法を、新刊『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』にまとめた西岡氏に、「東大が求める頭の良さ」を解説してもらいました。

実はあまり知られていないのですが、東大は入試で「ある能力」を求めています。東大のアドミッション・ポリシーの中で、「入学試験の基本指針」として3つの力が挙げられているのです。

第一に,試験問題の内容は,高等学校教育段階において達成を目指すものと軌を一にしています。
第二に,入学後の教養教育に十分に対応できる資質として,文系・理系にとらわれず幅広く学習し,国際的な広い視野と外国語によるコミュニケーション能力を備えていることを重視します。そのため,文科各類の受験者にも理系の基礎知識や能力を求め,理科各類の受験者にも文系の基礎知識や能力を求めるほか,いずれの科類の受験者についても,外国語の基礎的な能力を要求します。
第三に,知識を詰めこむことよりも,持っている知識を関連づけて解を導く能力の高さを重視します。

注目してもらいたいのが第三の「持っている知識を関連づけて解を導く能力」です。


東大のアドミッション・ポリシーを読むまで、僕はこの能力のことを、まったく意識したことがありませんでした。

偏差値35の僕が東大を目指しはじめたときに東大のホームページを見て、「は? なんだこの能力?」と思ったことを覚えています。

でも、勉強していく中で、この能力は学びの根本となる、非常に重要な能力だと気付いたのです。

今日は、これを知っておけば学習が非常に効率的になる、「持っている知識を関連づけて解を導く能力」についてお話ししたいと思います。

関連づければ簡単!?東大の入試問題

いったい東大は、どんな形でこの能力を問うているのでしょうか? 実際に体感してみましょう。これは、僕が東大に不合格になった年の入試問題です。

日本国内で取引されるかぼちゃは、北海道産のものとオーストラリア産のものが多い。オーストラリアからかぼちゃが輸入されている理由を答えなさい。(2015年 地理 第2問 一部改変)

少し簡単にしていますが、おおむねこんな問題です。さて、みなさんは答えられますか? また、この問題で東大がどんな知識を関連づけさせたいのか、わかりますか?

この問題を見たとき、次のように考えてしまう人がいます。

「オーストラリア産かぼちゃが多い理由なんて、今まで聞いたことがないから解けない」「この問題は、かぼちゃの生産についての知識を問う問題なんだな」

試験会場の僕も、そう感じてしまいました。

実はこれが落とし穴なんです。問題が解けないとき、知らない情報が出てきたときに、「自分は知識量が足りないから」と考えてしまうと、いつまでたっても問題が解けないのです。

この問題が解けたという東大生に話を聞くと、「かぼちゃの生産」について事前に知っていた学生は、ただの一人もいませんでした。では彼ら彼女らに、どんな知識があったのか?

「南半球は季節が逆」という知識だけです。

みなさんがかぼちゃ好きかどうか僕にはわかりませんが、かぼちゃって、年間を通して食べられますよね? 煮物やサラダ・スープなど、春夏秋冬いつでも食べるものだと思います。

でも農産物は、一つの地域だけでは(たとえば北海道だけでは)、一つの季節でしか生産できませんよね? かぼちゃは秋から冬にかけて収穫できますが、春や夏に食べたい需要もある。

だからこそ、オーストラリアなんです。オーストラリアなら、日本とは季節が逆ですから、日本が春や夏のタイミングで収穫できるのです。これがこの問題の答えです。

この問題をはじめ、東大の入試問題では「すごく単純な知識をうまく使えば解ける問題」が多数出題されています。

「豊富な知識量」≠「頭がいい」

勉強してもまったく成績が上がらない時期が長かった僕は、「頭がいい」とはどういう状態なのかをずっと考え続けてきました。知識があっても東大の問題は解けないし、本を読みまくれば頭がよくなるわけでもない。じゃあいったい、どういう人が「頭がいい」のだろうか、と。

それを知るために、東大に入ってから東大生にインタビューやアンケートなどの調査をし、たどり着いた結論が、この「持っている知識を関連づけて解を導く能力」でした。

いくら知識が多くたって、頭でっかちに「か、かぼちゃについての知識あったっけ……?」と考えていては意味がありません。それでは、いくら知識が多くてもいつまでも問題は解けませんし、知識を活かすこともできない。

それよりも、最小限の知識でもいいから、適切に活かすことのほうが重要なのです。

先程から僕は「知識」という言葉を多用していますが、活かせない知識は「知識」でも「教養」でもなく、ただの「情報」なのではないでしょうか。

多くの情報に触れること自体には何の意味もない。逆に、情報過多で不自由になってしまうこともある。それよりも、少ない知識でもいいから、それをちゃんと使いこなせるようになること。そういう能力が「関連づける」力であり、頭のよさの源泉なのではないでしょうか。

「関連づける力」=「つなげる力」

「関連づける」をよりわかりやすく言うならば、「つなげる」ということだと思います。

たとえば、「オーストラリア」→「南半球」→「季節が逆」とつなげられれば、先程の問題は簡単に解けたはずです。または、普段食べている野菜の原産地を、一度でも自分の持っている知識とつなげて考察してみた経験のある人なら、解けるはずです。

こんなふうに、科目や分野にかかわらず、何かと何かをつなげて思考を深めることができる状態が「頭がいい」ということなのではないでしょうか。

東大の授業も、「つなげて考える」ことを念頭に置いた授業が多いです。「ゴジラが東京タワーを壊した回数から、日本人とアメリカ人との建設物に対する考え方の違いを考えてみよう」とか、「日本食がなぜ美味しいかを考えることで、化学を深く理解できる」とか、そういう「卑近なものとつなげて考えることで、新たな学問的知識を得る授業」を僕は東大で受けています。

そして東大生もまた、自分の持つ知識を「つなげる」ことで、より多くの知識を得ています。たとえば僕は、よく授業後に友達と感想を言い合うのですが、そこでは毎回、最近話題のニュースと絡めて意見を言う人がいます。「さっきの行動経済学の話は、オリンピックのボランティアにも応用できる話だよね」とか、「さっき勉強した思想は、トランプ大統領を例に考えると理解しやすいと思うんだ」とか。

ニュースや日常の出来事など、どんな些細な身の回りのことでもいいから、まったく関係ないと思われるような情報と情報とをつなげ、それを学問の出発点とする力がある人が、勉強ができる人なのです。

だからこそオススメしたいのが、身の回りのことから自分の知識をつなげてみようとする勉強法です。

以前「東大の入試問題は難しすぎると思う人の盲点」でも紹介させていただきましたが、「正しいバスの時刻表を選べ」という前代未聞の問題が東大で出題されたことがありました。

この問題も「つなげる力」を聞いています。「都会では朝は通勤ラッシュだ」とか「過疎地域ではバスの本数が少ない」とか、そんな身の回りの当たり前の知識を、時刻表とつなげることができれば答えを導けるものでした。「バス停の時刻表」でも「かぼちゃ」でも、実はなんでも学問の入り口になるのです。

「頭がよくなりたい」と考えると、私たちは「知識量を増やす」ことに重点を置きがちです。しかし、実は大切なのは「つなげられる知識」を増やし、「つなげる」ことを実践すること。難しい本ばかりたくさん読むのではなく、簡単な本を何度も読んだり、日常から学ぶ姿勢を忘れてはならないということなのかもしれません。