ひと口に「イージス護衛艦」といいますが、2018年現在、海自のそれには3タイプあり、見た目はあまり変わらないながらも実はかなり異なる仕様です。それは建造された時期の、日本をとりまく状況によって、求められる役割が異なるからでした。

海自のイージス護衛艦は第3世代に

 2018年7月30日、海上自衛隊のイージス護衛艦「まや」が進水しました。「まや」は2015(平成27)年度予算で建造されていますが、翌2016(平成28)年度予算でも「まや」の同型艦が1隻建造されており、この同型艦が2021年度に就役すると、海上自衛隊はこんごう型4隻、あたご型2席、まや型2隻の、計8隻のイージス護衛艦を保有することになります。


2018年7月30日に行われた護衛艦「まや」の命名・進水式(画像:海上自衛隊)。

 こんごう型、あたご型、まや型は一見するとよく似ていますが、建造された時期の日本を取り巻く環境によって、その仕様はかなり異なっています。

 海上自衛隊がイージス戦闘システムを搭載する護衛艦の建造を検討しはじめたのは、1980年代前半のことと言われています。

 東西冷戦が激化していた1970年代、海軍力ではアメリカに劣っていた旧ソ連は、超音速爆撃機から多数の超音速対艦ミサイルを発射して、アメリカや同盟国の艦艇を攻撃する計画を持っていました。

 海上自衛隊は1970年代末までに、長射程の対空ミサイルを搭載するミサイル駆逐艦「あまつかぜ」と、たちかぜ型3隻を就役させていましたが、この4隻の戦闘システムでは、旧ソ連が多数の超音速爆撃機を投入してきた場合、対処が困難であると考えられていました。

 このため海上自衛隊は、垂直離着陸戦闘機「シーハリアー」を搭載する軽空母を建造して、旧ソ連の爆撃機を超音速対艦ミサイルの射程圏外で迎撃し、日本に資源を輸送するタンカーや商船、およびこれらの民間船舶を護衛する護衛艦隊を守るという構想を検討しました。ところが、速度が遅く航続距離も短い「シーハリアー」では、旧ソ連の超音速爆撃機への対処には不安があることや、空母の導入が国内外からの理解が得にくいことから、同時に複数の目標を迎撃できる「イージス戦闘システム」を搭載する護衛艦の建造に方針を転換。1987(昭和62)年に、のちに1番艦の名前から「こんごう型」と呼ばれる、イージス護衛艦4隻の建造を決定しました。

司令部区画も搭載、こんごう型

 こんごう型の建造は1988(昭和63)年度から開始され、1993(平成5)年に就役した「こんごう」を皮切りに、「きりしま」、「みょうこう」、「ちょうかい」の計4隻が1998(平成10)年までに就役しています。


こんごう型1番艦「こんごう」(画像:海上自衛隊)。

 こんごう型ミサイル護衛艦は、イージス戦闘システムを搭載する、アメリカ海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦をモデルとしていますが、海上自衛隊がこんごう型に、艦隊の指揮を執る旗艦としての役割を求め司令部区画などを追加したことなどで、艦橋などの上部構造物がアーレイ・バーク級に比べて大型化し、それにともない排水量も増加しています。

 アーレイ・バーク級の上甲板は艦尾の部分が一段下がっていますが、こんごう型は海が荒れている時の船体の復元性が高く、船体のスペースを大きく取れる、前方から艦尾まで平坦にした遮浪甲板を採用しています。また防御力を強化するため煙突やマストを、燃えにくい全鋼製とするなど、アーレイ・バーク級からかなりの部分に変更が加えられています。

 就役時のこんごう型は弾道ミサイルの迎撃能力を備えていませんでしたが、1998(平成8)年に北朝鮮が「テポドン1号」の発射実験を行い、同国の弾道ミサイルが日本にとって大きな脅威となったことから、日本政府は1999(平成9)年にアメリカとのあいだで弾道ミサイル防衛の共同研究に着手し、2003(平成13)年にアメリカ海軍が開発を進めていたイージス弾道ミサイル防衛システム(BMD)の導入を決定。こんごう型4隻には弾道ミサイル防衛に使用する、「スタンダードSM-3」ミサイルを運用するための改修が施され、現在は4隻とも弾道ミサイル迎撃能力を備えています。

弾道ミサイル防衛の色を濃くしたあたご型

 こんごう型4隻の就役によって、海上自衛隊は4個の護衛隊群に各2隻のミサイル護衛艦を配備する体制を確立しましたが、たちかぜ型ミサイル護衛艦が2000年代に耐用年数を迎えることから、新たなミサイル護衛艦の建造が必要となりました。その結果として建造されたのがあたご型ミサイル護衛艦です。


あたご型2番艦「あしがら」。マストの形状やヘリ格納庫など、こんごう型とは異なる部分が見て取れる(画像:海上自衛隊)。

 2007(平成19)年に「あたご」、2008年に「あしがら」の2隻が就役したあたご型は、こんごう型の基本設計を流用していますが、後方に傾斜させてレーダー波をそらしやすくした形状のマストなど、ステルス性能を向上させるための変更がなされています。また、こんごう型には無かったヘリコプターの格納庫も設けられています。

 レーダーはこんごう型のSPY-1から、低高度を飛翔する小型目標の追尾・補足能力が向上したSPY-1D(V)に、イージス戦闘システムも、就役当時最も新しいバージョンだったベースライン7.1Jが採用されています。

 またMk.41「VLS」(ミサイル垂直発射装置)の配置がこんごう型とは逆に、前部に8基(64セル)、後部に4基(32セル)となっているほか、敵の艦艇を攻撃するための対艦ミサイルはこんごう型の「ハープーン」から国産の「90式艦対艦誘導弾」に変更されています。

 あたご型の主砲はこんごう型と同じ127mm単装砲ですが、こんごう型のオート・メラーラの54口径砲127mm単装砲よりも砲身が長く、その分だけ射程も長くなった62口径の「Mk.45 Mod4」を搭載しています。

 あたご型は就役当初から弾道ミサイルの捜索・追尾能力を備えていましたが、就役時にはSM-3ミサイルの運用能力は備えていませんでした。しかし北朝鮮の弾道ミサイルの脅威がさらに深刻となったことから、2011(平成23)年にSM-3の運用能力を付与する事が決定され、2016(平成28)年から改修工事が行なわれています。

最新鋭艦、まや型の特徴は?

 まや型はあたご型をベースに開発されていますが、当初から弾道ミサイルの迎撃能力を備えているほか、味方の航空機や艦艇と情報を共有できる「CEC」(Cooperative Engagement Capability、共同交戦能力)も備えています。


アメリカ海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ラッセン」の主砲「Mk.45 Mod4」。あたご型とまや型も同じ主砲を搭載している(竹内 修撮影)。

 艦艇に搭載されるレーダーは、水平線以遠の艦艇や、洋上を超低空で飛行する巡航ミサイルのような目標を補足することが困難です。「CEC」は航空自衛隊も導入する「E-2D」などの航空機が搭載するレーダーが捉えた水平線以遠の艦艇や超低空を飛行する巡航ミサイルなどの目標情報を受け取って艦艇から攻撃を行なえるようにするもので、近年中国やロシアが開発・導入を進めている、超音速巡航ミサイルへの対処の切り札となることが期待されています。

 こんごう型とあたご型はガスタービンエンジンのみを使用して航行しますが、ガスタービンエンジンは低速航行時には燃費が悪いという難点があります。このためまや型は、燃費性能の向上と航続距離の延伸を図って、低速航行や巡航時にはガスタービンエンジンが発電した電力でモーターを駆動してスクリューを回転させて航行し、高速航行時にはモーターに加えて別のガスタービンエンジンを駆動させる、「ガスタービンエレクトリック・ガスタービン複合推進」と呼ばれる推進方式を採用しています。

 北朝鮮のみならず、中国、ロシアといった弾道弾保有国に囲まれた日本にとって、イージス護衛艦はもはや不可欠な存在となっています。また前にも述べたように海上自衛隊のイージス護衛艦は元々、資源の乏しい日本にとって不可欠な資源を輸送する海上交通路「シーレーン」を守るために建造が決定した護衛艦で、シーレーン防衛の要という役割は、いまも失われていません。

 こんごう型は既に就役から20年以上が経過していますが、今後も長期に渡って運用する必要があることから、1番艦「こんごう」を皮切りに寿命延長工事が行なわれており、まや型の2番艦が就役する2021年度以降には、4個の護衛隊に各2隻のイージス護衛艦が配備され、日本の海と空を守っていくことになります。

【写真】「こんごう」から発射される迎撃ミサイルSM-3


「こんごう」に搭載された、弾道ミサイルを迎撃するSM-3ミサイル。写真は2007年にハワイで実施された迎撃訓練の様子(画像:アメリカ海軍)。