-年の差婚-
40代のリッチな夫に、20代の美しい妻。
多くの人は思うだろう。打算で結ばれた男女。
そこに「愛」などあるはずはない、と-
山中塔子、30歳。6月に急死した彼女の夫、資産家の山中修也とは、22歳の年の差婚だった。
-夫を、愛してはいませんでした。
塔子の告白をきっかけに、保険調査員の小林真奈(30)は、夫婦の関係者に話を聞いていく。
塔子が「唯一愛した人」だという古賀佳文(36)や、山中の秘書、松浦芽衣子(39)。キャラの濃すぎる証言者たちが語る、信じられない「年の差婚夫婦」の裏側。
山中の秘書の話によれば、塔子はかつて港区界隈では有名な食事会荒らしだったという。
年の差婚は、塔子の策略だったのか-
港区“お食事会荒らし”の正体
小林真奈(30)は生まれて初めて3日連続で欠勤した。
ベッドから起き上がろうにも、体が鉛のように重い。原因は分かっている。
-人を愛しすぎるとどんな罰を受けるのかしら
山中の秘書、松浦芽衣子の言葉が、遅効性の毒のようじわじわと真奈の全身をむしばんでいた。
実際、秘書が山中の死に関与していた可能性は低い。人間ドックの数値を見る限り、ここ数年で血圧やコレステロール値が悪化している傾向はなく(むしろ微差ではあるが良くなっている)、愛人関係にあったという証拠もない。
ただ、嘘ではないだろうと思った。
伏し目がちに語り始めた秘書の瞳が、だんだん湿り気を帯びて輝き始めるのを真奈は見逃さなかった。
そして「愛してる」と口にした瞬間の表情。
18年という長い年月誰にも明かさず、じっと心に溜めていた澱を一気に放出した、忘我の顔。人は演技であんな顔はできまい。
それにしても、塔子といい、塔子の元彼の古賀といい、秘書の松浦といい、この件の関係者はなぜ揃いも揃って様子がおかしい人たちばかりなのだろう。
だから今回の聴取相手の「ふつうっぽさ」にはなんともホッとさせられる。
堀あずみ、29歳。3年前まで六本木のIT企業に勤めていたが、現在の職業はヨガインストラクターだ。
有村架純によく似た愛らしい顔にはほとんど化粧っ気がなく、シンプルなコットンワンピースからのぞく華奢な手足はまるで少女のように見える。
5年前に塔子とともに港区のお食事会を荒らしまくっていたという“小悪魔A”が、彼女だ。
かつての婚活仲間が語る、素顔の塔子とは
堀あずみ(29)が見た、美貌の妻の素顔
小林さん、ここ来たことありますか?
トコちゃんの話をするんだったら『ファイヤーキングカフェ』しかないと思って。
懐かしい、ちょうどここの窓際の席!
トコちゃん…あ、塔子さんのことですけど、当時、トコちゃんは代々木上原、あたしは東北沢に住んでて。金曜の夜とか、それぞれに男とデートしたあとここで待ち合わせて、結果報告大会したんです。26時の閉店をすぎて店員さんに追い出されるまでずっと。ほんとに楽しかった。
どうしてるかな、トコちゃん。山中さんと結婚してからは1度しか会ってないですね。
トコちゃんと初めて会ったのは5年前、24歳のとき。あたしは食事会の数合わせで呼ばれて。あとは誰がいたのか忘れちゃった。
二次会のカラオケだったかな。トコちゃん美人だからみんな話しかけようとするんだけど、なんかズーンとしてて暗いんですよ。だから他の人は勝手に盛り上がり始めて。悪いなあと思ってあたしが「歌わないの?」ってデンモク渡しに行ったのね。
そしたらトコちゃん、急にワッて泣き出したんですよ。「あなたの香水、好きだった人が名前をつけたやつなの」って。
これこれ、ちょうどいまもつけてる“コンフィデンシャル・ラブ”っていう香水。めっちゃいい匂いでしょ?
元彼、同じ会社のコピーライターらしくて。「嫌いになろうとするほど思い出して好きになる」って言ってた。
不思議でした。こんなにキレイで賢い人が、15歳の女の子みたいに失恋でぐちゃぐちゃになって大泣きしてるなんて。
結局ね、なかなか泣きやまないから「ちょっと抜けようか」って連れ出して。それがきっかけで仲良くなりました。
◆
知ってましたよ。当時、あたしたちが“お食事会荒らし”って呼ばれてたのは。
気付いちゃったの。トコちゃんと2人でいると、成功率がハンパないんです。
トコちゃんは大人っぽいモデル系であたしは正反対のタイプだから、引き立て合うのかな。2人でいろんなお食事会、行きまくりました。
“TOKYO GIRLSの小悪魔婚活ブログ”も…いま見ると恥ずかしいですね、あたしが誘って始めました。2人でアカウントを共有して更新していくんですけど。
ほら、ああいう頭いい子って、なんか目的があると頑張れたりするじゃないですか。
恋愛はゲームだ。いい男を見つけて有利な結婚を勝ち取るための戦略だ、って割り切ることで、トコちゃんもちょっとずつ自分を取り戻しているんだろうなと思いました。
ついに明かされる、塔子が22歳差婚を選んだ理由
トコちゃんてね、ほんとは恋愛苦手だと思います。
家に遊びに行ったとき、笑っちゃったんだけど、すごい量の本が積んであるんですよ。「10日で彼を落とす方法」みたいな恋愛攻略本から、英語の心理学系の難しい本までたくさん。真面目なんですね。
見た目の派手さとクールな雰囲気につい騙されちゃうけど、ほんとのトコちゃんは、傷つくのが怖くて泣いてる15歳の女の子。もしくは、必死で本を読んでモテようとしてるガリ勉のオタク。
あたしには、そう見えました。
え?いきなり心理テスト出されたんですか?
あはは、トコちゃんらしいなあ。自分の気持ちを言葉にするのが怖いから逃げちゃうんですよね。
「愛とか恋で全部の価値をはかる人が信用できない」って言ってたんでしょ。きっとね、トコちゃんが一番信用できないのは、自分自身なんだと思う。
女ってなんていうか…不利ですよね。
体の構造的に受け入れる方だから。恋愛になると、っていうか体の関係になると、どうしてもコントロールが効かなくなっちゃう。どんなに賢くて強い人でも、同じ。
だからね、22歳も上の人と結婚するって聞いたとき、あたし全然おどろかなかったです。トコちゃんは恋愛よりも自分の心を守ることを選んだんだな、って思いました。
◆
そうそう、山中さんとトコちゃんが初めて会ったとき、あたしもその場にいたんですよ。食事会でもパーティーでもなくて、投資のセミナー。おかしいでしょ。
婚活ブログ立ち上げて半年ぐらいかな。色々あって、もう一生独りかもっていう妙な不安に襲われて「女性のための資産形成」みたいなセミナーにトコちゃん誘って参加したんですよ。そのゲストスピーカーが山中さん。
若い頃「白シャツ王子」って言われてたんですよね。その日もパリッとしたシャツ着てて、おじさんだけどまあまあかっこいいなと思いましたけど。
セミナーの後の懇親会で、山中さんとトコちゃんが話し込んでるのが見えました。後から聞いたら、その日に山中さんがつけてた香水が外国の珍しいやつで、トコちゃんがその名前を当てたんだって。すごいよね調香師って。
でね、山中さんが帰り際にいきなり言ったの。「塔子さん、君はおれと結婚するべきですよ」って。
半年後にほんとに結婚しちゃうんだから、すごいよね経営者って。
◆
え、あたしですか?それがまだ独身なんです。
トコちゃんが結婚してからかなあ、なんか急に、どうでもよくなっちゃって。
さっき「頭いい子は目的があると頑張れる」みたいな話したじゃないですか。あたしも同じだったのかも。
あたしの目的は、トコちゃんに負けないこと。
仲は良かったけど、どこかで張り合ってる部分もあって。トコちゃんよりもいい男と結婚してやる、っていうのがモチベーションだったのかもしれません。
でもトコちゃんが選んだ人は…なんていうか、斜め上すぎて。すっかり張り合う気が失せちゃいました。山中さん、あんなに早く亡くなるなんて思わなかったけど。
会いに行けばいいのにって?やだなあ、今さら会ったって、話すことなんてないって。元々、学校も職種も違うし、婚活仲間っていう共通点がなければ会うはずもなかったんです、あたしたち。
トコちゃんも、独身時代の知り合いとはあえて距離をとるようにしてたと思いますよ。
一昨年くらいかな、青山のファーマーズマーケットで偶然会ってお茶したんですけど。そこでトコちゃんが変なこと言ってたの。「監視されてるから会えない」って。
トコちゃんと結婚する前から山中さんのところに通ってる家政婦さんみたいな人がいるらしいんだけど、その人にずっと見張られてるような気がする、って。
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塔子は監視されていた!?山中家の家政婦が語る、年の差夫婦の結婚生活
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