オッズは極端に傾くほど番狂わせが起こり易い。それがサッカーの世界だ。
 
 歴史を辿れば、日本代表は期待値と結果が反比例しがちだが、ベルギーも比例して来たとは言い難い。無欲で臨んだ1980年EUROは準優勝、86年メキシコ・ワールドカップはベスト4に進出したが、最も成熟した4年後の90年イタリア大会ではラウンドオブ16で散っている。FIFAランク上位に定着した最近でも、前回ブラジル・ワールドカップ、2年前のEUROと連続してベスト8止まりだった。

 
 ベルギーの個々のタレントには疑いがない。ネームバリューで比較すれば、イングランド戦でプレーをしたセカンドチームでも、楽々と日本を凌駕する。国際的な観点からすれば、3戦全勝で悠々とグループリーグを突破したベルギーと、ギリギリでノックアウトステージに滑り込んだ日本の顔合わせは、最も興味の薄いカードかもしれない。
 
 しかしだからこそ日本にも付け入る隙がある。ベルギー国民の興味は、既に対ブラジルに向かっている。ロベルト・マルチネス監督がどんなに手綱を引き締めても、このムードは選手たちにも伝染する。ベルギーは自信満々でピッチに立ち、極力省エネでブラジル戦に備えたい。だがベルギーが優勝候補に挙げられるのは、圧倒的な攻撃力がクローズアップされるからだ。逆にスムーズに攻撃のスイッチが入らなければ、確実に焦燥が広がる。
 
 日本は昨年11月に対戦し0-1で敗れた。ベルギーは他にも何度か決定機を作っているから、この惜敗を額面通りに捉えるのは危険だ。しかもベルギーは、GKティボー・クルトワ、FWエデン・アザール、DFヴィンセント・コンパニと3人の攻守の要を欠いていた。ただし日本も、MFのメンバーが一変し、それ以上に組み立ての質が高まった。
 
 一方で前回の対戦でも、日本は攻略のヒントを得ている。相手3バックのサイド、または裏を狙い、俊足の浅野拓磨を走らたり、酒井宏樹とのコンビでチャンスを築いた。今大会でもチュニジアに、右サイドで速い連携を許した時には混乱に陥っていた。
 
 ベルギーと2度対戦している大迫勇也は、まったくやり難さを感じていないはずで、変貌したMFがテンポの速いパスワークで揺さぶればチャンスは開ける。サイドの攻防で優位に立ち、ベルギーを5バックの状態に下げてしまう状況が続けば、カウンターの起点となるケビン・デ・ブルイネの効力も半減する。2ボランチの守備への意識は希薄なので、柴崎岳、長谷部誠のミドルシュートが決着をつけるかもしれないし、乾貴士が得意ゾーンからネットを揺する可能性もある。
 
 カギになるのは、いかに日本の時間を増やせるかだ。拮抗した時間が長引くほど、ストレスを溜め込むのは楽勝が予想されているベルギー側になる。ハリル時代にはなかった俊敏な連動で、相手を驚かせる回数が増える度に勝利への道は広がる。だが反面、攻撃の天才を揃えたベルギーに先制を許し、日本がリスク覚悟で攻撃に出なければならない状況に陥れば大敗もある。背後にスペースを作ってしまったら、とてもベルギーのスピード豊かな破壊力は止められない。

文●加部 究(スポーツライター)