3月1日に千葉市で開催した、リクナビの合同企業説明会「就活開幕LIVE 東京」の様子。就職戦線は売り手市場だが、変化も見られる (撮影:今井康一)

来春卒業予定の大学生の就職活動解禁から3週間。早くも「内定出た」の文字をSNSなどで目にしたり、「AI(人工知能)採用」なる未知のフレーズを時折、耳にしたりしているかもしれない。いくら売り手市場とはいえ、当事者である学生たちには不安を抱えながらの日々であろう。果たして2019年卒の就職戦線は、今後どのように進んでいくのか。今年のトレンドをまとめてみたい。


今年の採用戦線の最大の特徴は、企業の採用意欲が依然として強い点だ。リクルートワークス研究所が昨年秋に行った「ワークス採用見通し調査」によると、2019年卒の大学生・大学院生を対象とした新卒採用見通しは、「変わらない」が48.6%と半数近くを占めるものの、「増える」(15.8%)が「減る」(5.1%)を10.7%ポイント上回っている。2018年卒に引き続き、増加すると見込まれている。この傾向は特に大手で強く、従業員数5000人の以上企業の約2割が「増える」としている。

売り手市場だが、金融系に採用減の動き

ところがこれを業種別に見ると、その状況はまだら模様であることがわかる。増加基調が強いのは、飲食サービス業や小売り、コンピュータ・通信機器・OA機器関連、半導体・電子・電気部品。いずれも「増える」が2割を超えている。その一方、他と一線を画しているのが、金融業だ。証券は他業界同様の高い採用意欲を示しているが、銀行は「わからない」が半数超を占め、労働金庫・信用金庫・信用組合は「減る」が11.3%と、この調査の22業種の中で唯一、1割を超えていた。

メガバンクが採用数を減らすことはすでに報じられているが、学生の間でもその認識が広がっている。その影響もあってのことだろう。3月以降各地で開かれている合同企業説明会での学生の集まりが例年に比べて芳しくない、といった声を複数の銀行の採用担当者から聞いている。

しかし元々金融業は、求人倍率が0.2倍前後で推移してきた「超人気業界」。採用数減についても背景にあるのは、金融とITを融合したフィンテックの普及に力を注ぐ、という経営戦略がある。この流れはおそらく他の業界にも急速に波及していく可能性がある。

このタイミングであえて銀行を目指し、AIやIoTによってビジネスが大きく変わる最先端を実体験するという選択も、一部の積極的な学生の間では強く支持されているようだ。いずれにせよ、狭き門であることは変わらない、と見た方がよいだろう。

今年度の新しい話題として大きな注目を集めている「AI」。就職みらい研究所の『就職白書2018』を見ると、実際に新卒採用活動に導入している企業は、2018年卒では0.4%と極めて限定的だった。一方で、後の新卒採用活動における導入見通しについては、従業員規模5000人以上の企業の23.4%が「検討している」とするなど、大手を中心に急速に広がる兆しも見られる。

具体的な手法としては、AIを用いてエントリーシートや面接画像を分析するといったものが注目されているが、そうした企業の取り組みについて、ポジティブな学生は少数派だ。

就職みらい研究所では2018年2月、2019年卒予定の就活生に「エントリーシートの合否」をAIによって判断されるとした場合、どのように感じるかを尋ねてみた。すると、「とても良いと思う」が5.9%、「少し良いと思う」が14.8%で、計20.8%であったのに対し、「あまり良いと思わない」が33.5%、「全く良いと思わない」が15.9%で、合計49.5%となった。

つまり約半数がネガティブだった。同じく「面接の合否」をAIによって判断されることについても尋ねているが、「良いと思う」の合計が13.1%、「良いと思わない」の合計が67.2%となっており、エントリーシート以上に否定派が多かった。

「AI採用」に就活生が嫌悪感

企業が新卒採用活動へのAI導入に期待していることは、「マンパワーの削減」が73.7%と圧倒的に高いが、「合否の基準の統一」「自社に適した人材の発掘」「採用可能性の高い人材の抽出」がいずれも3~4割に上っており、「人の目によるエラーを解消する」という点においては、学生にもメリットがあるはずである。

ところが、否定派の学生たちからは、「AIには面白さやユニークさを感じ取れないと思う」「変なバグで落とされたらと考えると怖い」「表情や声がAIで完璧にわからないと思う」など、その技術水準への不安が指摘されている。また「最終決定は人に決めてほしい」「機械に判断されたくない」など、感覚的な嫌悪感も少なくなさそうだ。

一方の肯定派からは、「一定の基準で公平に判断してくれる」「早く評価がなされそう」「少なくとも圧迫面接は減りそう」「緊張しなさそう」という声も寄せられており、今年、一定程度浸透することによって、学生の認知が変わる可能性もある。

就職・採用戦線の中で、年々存在感を増しているのがインターンシップだ。『就職白書2018』では、2019年卒採用で、「採用直結と明示したインターンシップからの採用」を実施している企業は10.2%、という結果が出ている。通年採用(26.3%)やリファラル採用(14.3%)よりも低い数字だが、インターンシップを実施している企業の約9割は、実施目的として「仕事を通じて学生に自社を含め、業界・仕事の理解を促進させる」を挙げており、採用広報的な効果も期待しての実施であることがうかがえる。

最も多いのは、インターンシップに参加した学生に対する、イベント案内だ。いわゆる通常の企業説明会に招かれるケースも少なくないが、特に最近目立つのは、インターンシップ参加者にフォーカスした限定イベントである。

期間は1日から数カ月とさまざまだが、就業体験済みの学生は、企業にとって“話の早い”学生で、通常の説明会から“まずは1合目の情報提供”につき合わせるのは、お互いに効率が悪い。そこで予備知識のある人に向けた場を別途用意している。これは、インターンシップに参加した学生にもメリットがあり、実際そのほうが学生の参加率も高くなるようだ。

もっとも、インターンシップに参加したからといって、すぐにその企業に囲い込まれるわけではない。別のインターンシップを案内されたり、定期的なメールでのフォローを受けたり、中には社員やリクルーターを紹介される学生もいるが、採用選考にチャレンジするかどうかは、学生の意志に委ねられている。

では、インターンシップを経験した学生のインターンシップ参加企業への入社意向は、どうだろうか。「入社したい」と「どちらかというと入社したい」を合わせると実に82.3%にも上る。やはり元々その企業や業界、仕事に興味があってインターンシップに応募しており、実際に職場などで業務を体験することで、「やってみたい」「これならやれるかも」という気持ちが増すのであろう。

3分の2はインターンシップと選考方法異なる

受け入れる企業側も回数を重ねる中で、よりその仕事の本質が伝わるよう、プログラムにも工夫を重ねている。ただ漫然と現場に放り込まれて、従業員の1人として作業を淡々とこなすというようなインターンシップでは人が集まらない、という現状も後押ししているのだろう。

実際に2018年卒学生のうち、インターンシップ参加企業に就職した学生は22.3%(『就職白書2018』)。インターンシップに参加した企業でないが、同業種の企業に入社する予定の学生も合わせると51.4%に達し、半数以上がインターンシップに参加した業界に就職している。

短期決戦の傾向が強い現在の就職戦線においては、複数業種を志望することが難しくなっており、予備知識のある業界への就活を優先する動きは2019年卒でも続くだろう。

一方で、3月から4月にかけては、会社説明会なども積極的に開催され、学生にとっては、幅広い業種を知る機会にあふれた時期でもある。「よく知らないから」という理由だけで選択肢から外すのはもったいない。ぜひ、インターンシップに行けなかった業界でも気になる会社があるなら、視野に入れてみてはどうだろうか。

また就職に比べると、インターンシップの受け入れ枠は、まだまだ圧倒的に少ないのも事実だ。インターンシップに落ちたからといって、その企業への就職の可能性が閉じられたわけではない。インターンシップと採用とで選考基準が異なる企業は67.3%(『就職白書2018』)にも上る。興味があるならばぜひチャレンジしてほしい。