一方、こうした宮澤を支えた妻・庸子はというと、一般的な政治家夫人とはいかにも一線を画したそれだった。当時の宮澤派幹部のこんな証言がある。
 「庸子夫人は体があまり丈夫でなかったこともあるが、表舞台はもとより舞台裏でも一貫して“政治”に首を突っ込むことはなかった。宮澤の選挙の応援に顔を出したのも、昭和28年に初めて参院選に名乗りを上げたときだけで、以後、一度として後援会への出席なども含めて姿を見せていない。
 また、我々が宮澤邸に行っても夫人はまず顔を見せない。酒や肴の用意などは、すべて3人の書生がやっていた。これは、宮澤夫妻の“暗黙の了解事項”で、政治をやるのは自分、妻はタッチしなくて結構、束縛はしないという徹底した“欧米流合理主義”に徹していた」

 ナルホド、夫妻の結婚の経緯からして、芸人のタカアンドトシならぬ「欧米か」というものだった。実は意外、宮澤の“ナンパ”から始まったそれだったのだ。
=敬称略=
(この項つづく)

小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材48年余のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『決定版 田中角栄名語録』(セブン&アイ出版)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。