アメリカ空軍や航空自衛隊のアグレッサー隊は、それぞれのなかでも最精鋭が集う部隊といわれます。ところがアメリカではその任務について、民間委託もあるといいます。どのような任務に就く、どのような部隊なのでしょうか。
最強ゆえに敵となる!
アメリカ空軍や航空自衛隊には、「アグレッサー」と呼ばれる部隊があります。アグレッサーとは「侵略者」という意味で、戦闘機の訓練において敵を演じる専門の部隊です。アメリカ海軍では「アドバーサリー(敵)」とも呼ばれています。
このアグレッサー部隊ですが、最強のパイロットが集まる精鋭部隊といわれています。一体どのような部隊なのでしょうか。
航空自衛隊の精鋭部隊と名高い飛行教導群のF-15DJ(2017年、石津祐介撮影)。
戦闘機のパイロットはいくつもの適性試験を経て狭き門から選ばれた、いわばエリートです。彼らは実戦に備え、技量を高めるために日々訓練に励んでいます。
そのエリート揃いである実戦部隊に、厳しい稽古をつけるのがアグレッサー部隊のパイロットです。彼らは仮想敵国をイメージした敵機を演じ、訓練において様々な戦闘パターンをシミュレートしていきます。実戦部隊で鍛えられた精鋭のパイロットも、その実力差を見せつけられるといいます。そのため、アグレッサー部隊には技量と指導力に秀でた優秀なパイロットが集められます。
現在、アメリカ空軍のアグレッサー部隊の機体はF-16です。かつてはF-15も所属していましたが、すでに退役しています。ネバダ州のネリス空軍基地とアラスカ州のイールソン空軍基地に所属しており、「レッドフラッグ」のようにアメリカの同盟国なども参加する大規模な空戦演習や各地のアメリカ空軍基地など、さまざまな訓練で敵役を演じています。
最強ゆえにカラーリングも独特、結果大人気!
アメリカ空軍アグレッサー部隊の機体カラーリングは仮想敵国の戦闘機を模しており、特にロシア機をイメージした機体が多く存在します。主翼にはロシアの国籍マークである赤い星が描かれているなど、敵役になりきっています。
ネリス空軍基地のエアショーでは、このアグレッサー部隊のF-16が敵役で会場に侵入しF-15がスクランブル発進して追い払うというデモが行われ人気を博しています。最後にはナレーターが「ダスビダーニャ(ロシア語で『さようなら』)」と締めくくり、ショーを盛り上げます。
アメリカ海軍のアドバーサリー機、F-5E。
エアショーで敵役を演じるアメリカ空軍アグレッサー部隊のF-16C。
航空自衛隊のアグレッサー機、独特のカラーリングで人気。
航空自衛隊のアグレッサー部隊は、「飛行教導群」と呼ばれる部隊で石川県の小松基地に所属しています。2016年6月に宮崎県の新田原基地から、F-15の部隊が2部隊所属する小松基地へ移動したのは、より中国への対応を強化したものと見られます。
この部隊のパイロットは精鋭揃いで知られており、実戦部隊が配備されている全国各地の航空自衛隊の基地に、巡回教導を行います。
アグレッサー部隊で使用されるF-15は独特のカラーリングが特徴で、様々な色や模様で描かれています。その卓越した技量と派手なカラーリングから、航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」と共に人気があることでも知られています。
アグレッサーを民間委託? その目的と可能な理由
敵役を演じるアグレッサーですが、アメリカでは民間のアグレッサーが存在します。アメリカのバージニア州にある民間軍事会社ATACは、アメリカ軍から仮想敵業務を請け負っており、神奈川県の厚木基地や沖縄県の嘉手納基地にも訓練で飛来します。
厚木基地に展開するATACのホーカー「ハンター」(2015年、石津祐介撮影)。
ATACが使用する機体は、なんと50年前作られたイギリス製のホーカー「ハンター」で、主にジャミングポッドを用いた電子戦などを行います。ほか、格闘戦用にイスラエル製の「クフィル」も所有しています。軍用ではなく民間機登録なので、アメリカを表すNで始まる機体記号が記されています。
アメリカにはほかにもアグレッサー業務を請け負う民間軍事会社があり、フロリダ州にあるドラケン・インターナショナルでは主にA-4「スカイホーク」を使用しています。同社もATACも共に、所有する機体は旧式の戦闘機ですが、クフィルやA-4は優れた運動性を持つ機体ですので、空中戦の仮想敵役には十分と言えます。そしてパイロットには、空軍や海軍の経験者が採用されています。アグレッサーをこのような民間企業に委託することで、専門的な訓練をより低コストに抑えることができるといいます。
一線を退いた旧世代の戦闘機が、今度は民間でアグレッサーとして活躍しているというのは、何とも興味深い話ではあります。