昨年10月発売号から巻頭の索引地図(左)が大きく変わった『JTB時刻表』(撮影:尾形文繁)

2017年10月25日、『JTB時刻表』が巻頭の索引地図を大きくリニューアルした。

これまでの索引地図は、JRの全路線と旧国鉄・JRの路線を引き継いだ、あるいは国鉄が計画していた路線を引き継いだ私鉄・第三セクター鉄道といった旧国鉄やJRに関連する路線については全駅を掲載し、私鉄も東京、大阪、名古屋、福岡などの都市近郊区間の駅は全駅記載していた。

だが、それ以外の鉄道の駅、たとえば大手私鉄でも栃木県内や群馬県内の東武鉄道の路線は主な駅しか掲載されていなかった。また、路面電車も主要停留所しか載っていなかった。今回のリニューアルでは、そういったこれまで省略されていた駅をすべて掲載したのだ。

すべての駅を記載したことでデザインがガラリと変わり、これまでの『JTB時刻表』を使い慣れた人にとっては、少々違和感を覚える今回のリニューアル。1967年、B6判からB5判に大型化する際に索引地図を作り直して以来、50年ぶりとなる大改定の裏には何があったのか。

『JTB時刻表』の編集部に伺い、大内学編集長と、索引地図担当の神野遊陸(じんの・ゆうりく)さんに話を聞いた。

「過去の経緯」で差をつけたくない

――なぜ、このタイミングで索引地図をリニューアルしたのでしょうか?

大内編集長(以下敬称略):『時刻表』をご購入していただいている方には、鉄道全体が好きな方が多く、以前からJRだけでなく私鉄の情報も充実してほしいという声もありました。地図を担当している神野にも、地図を変えて、私鉄の全駅を掲載したいという思いがありました。

神野さん(同):昔の国鉄という背景を知れば、第三セクターの路線が全駅掲載されている経緯がわかります。ですが、歴史を知らずに見ている人にとっては、愛知環状鉄道みたいに、第三セクターになってから延長したところが全駅掲載されているのに、全駅が掲載されていない新路線もある。

――沖縄とか北九州のモノレールは、全駅が載っていませんでした。

神野:そういうところに差をつけたくなかった。

――神野さんは24歳で、国鉄をまったく知らないJR世代。第三セクター路線だけ全駅載せているのには違和感を覚えるわけですね。


索引地図の改訂を担当した神野さん(左)と大内編集長(右)(撮影:尾形文繁)

大内:それと、気仙沼線と大船渡線のBRT化が「地図を変えなければ」という大きなキッカケになりました。駅が増えすぎて、地図に入れきれなくなって、「抜本的に地図を変えないとダメだね」ということになりました。北陸新幹線の開業で、富山地方鉄道と、あいの風とやま鉄道の見分けがつかなくなったのも大きいですね。そこで、一挙に索引地図を変えようという話になりました。

――これまでの地図のベースとなるものは、50年前に作られたもの。50年間、変えなかったということは、それだけ「変えるには大変な労力がいる」ということでは?

神野:最初はものすごく大変なことだと思ったのですが、「すべての駅を入れる」「地図全体の見づらいところの見直し」「私鉄が多くなったのでゴチャゴチャしている箇所の見直し」この3点をどうにかしたいと、地図会社の方や、他の部署の方と話をするうちに、「到底できない」から「やればできる」という感覚になりました。

地図のチェックは「写経」

――地図の改訂作業はいつから始めたのですか?

神野:検討を始めたのが半年前。具体的に動き始めたのは3カ月前からです。

大内:大変な作業を延々とやっているのに、神野は楽しそうにやっていましたね。旧字新字のチェックとか。JR九州の柳ケ浦駅の「ケ」の字が大きか小さいかのチェックとか、本当に大変な作業だったと思います。


北海道の索引地図。上が以前、下が改訂後。形が大きく変わっている(撮影:尾形文繁)

神野:瞑想に近いというか、写経をしているときのような、心を空っぽにする感じで文字をチェックしていました。小学校の頃から地図帳を見るのが好きなので、楽しかったのですが、絶対に間違えられない作業なので大変でした。

――で、2017年11月号から新しい索引地図になったわけですが、九州や北海道の形が大きく変わりましたね。

神野:九州は博多周辺の拡大図をやめたり、路面電車の路線図を入れました。その関係で形が変わったように見えますが、向きを変えると、九州っぽい形をしています。北海道は、前の東北のページと北海道のページで新幹線の線がつながっている感じを出そうとして、渡島(おしま)半島の形をグニャッと曲げることにしました。


静岡県部分の地図。左が以前、右が改訂後。私鉄の駅が細かく記載され、形も変わっている(撮影:尾形文繁)

大内:鉄道をよく知らない人は、目次の地図を見て、ページをめくった時、前のページの路線がどれとつながっているか、パッと見てわからない人が多い。そこで、あのような形で表現しました。電話やツイッターで「地形がぐんにゃりしていて違和感がある」という意見をいただきますが、地図が見づらいというものはないので、索引地図としての役割はしっかり果たしている地図かと思います。

――確かに。「地図の形がおかしい」ということで言えば、時刻表の索引地図の東北地方の地図を昔から横向きに入れていることも「おかしい」ことですからね。

大内:地図の形は変わっていますが、線形の特徴はキッチリと表現しています。大館の奥羽本線と花輪線の交差とか、新幹線と在来線がどことどこの駅の間で交差しているとか、唐津線と筑肥線の交差のところとか……。そこは昔から譲れないところです。そういうところはデフォルメをしていますが、正確性を今も昔も意識しています。

今後も情報は変わり続ける

大内:今回の索引地図のリニューアルで、いろんなことができるようになりました。

――どういうことですか?

神野:いちからデジタルデータで作成したので、修正しやすくなりました。今は、さらに読みやすい地図になるよう、利用されるみなさまからの声に応えて、細かい部分を修正しています。2017年12月号では、地図の地の色を変えたり、私鉄路線のラインを太くしたりました。また、駅名のフォントを太くしました。2018年1月号では、時刻を掲載しているケーブルカー路線の駅を全駅入れました。

大内:これまでは、50年前の地図を継ぎ足し継ぎ足しで修正してきたので、大きな修正を入れるのは大変な作業でしたが、デジタルなので、フォント替えや線の太さは一発で変換できますし、他の部分の修正も、以前より労力がかかりません。みどりの窓口の設置駅、指定券の自動券売機のみ設置駅の修正も楽になりました。

――今後も、索引地図は変わり続ける?

大内:情報を増やしていくことはつねに考えています。JR中心でしたが、私鉄の情報を拡充していくことを考えて、具体的に動き出しています。楽しみにしてください。

索引地図はもちろん、2018年3月のダイヤ改正号では、東海道・山陽・九州新幹線の「ひかり号」と「さくら号」の時刻の文字のフォントを太文字から細文字に変更するなど、さまざまな部分で見やすさを追求する細かな修正を行っている『JTB時刻表』。まるで横浜駅のように、つねにいろんな箇所を改良し、進歩しているこの雑誌が「完成形」となることは、おそらくないだろう。