『日清のどん兵衛』CMが消費者を動かしたCMに選ばれました

2017年がまもなく幕を閉じる。年末になると、今年1年を振り返るまとめのニュースが話題となる。「ユーキャン新語・流行語大賞」に選ばれたのは森友学園問題で話題になった「忖度(そんたく)」と、“ Instagram ”に投稿するために写真にこだわる「インスタ映え」。北朝鮮のミサイル発射で「Jアラート」が発令され、今年の漢字は、「北」になった。

そういえば、プレミアムフライデーが実施されたのは今年、藤井聡太四段と加藤一二三九段の活躍による将棋ブーム、大谷翔平選手のメジャー移籍、安室奈美恵の引退報道など、いろいろな事があった。

さて、CMはどうだったのだろうか。CM総合研究所が1年間のCMの総まとめとして毎年開催している「BRAND OF THE YEAR」から振り返ってみよう。

『au』がCM好感度で3連覇

この1年間に東京キー5局から放送されたCMの総数は、およそ153万回、1日に平均すると4200回ということになる。商品やサービスの総数7350銘柄の中で、年間CM好感度ナンバーワンとなったのは、KDDIの『au』であった。

おなじみの「三太郎」シリーズは桃太郎(松田翔太)、浦島太郎(桐谷健太)、金太郎(濱田岳)、かぐや姫(有村架純)、乙姫(菜々緒)、鬼(菅田将暉)といった仲間の輪に、乙姫とかぐや姫の妹として織姫(川栄李奈)が加わってパワーアップ。「次はどうなる?」という視聴者からの期待に応え続け、見事に3連覇を成し遂げた。

2位の『NTT DOCOMO』は、堤真一、綾野剛、高畑充希が“得ダネ”を追う新聞記者を演じるシリーズに、今年大ブレークしたブルゾンちえみをいち早く起用した。また営業開始25周年を記念してMr.ChildrenとコラボしたCMも評価が高かった。

3位の『SoftBank』はジャスティン・ビーバーとピコ太郎との夢の共演や、10年目の「白戸家」シリーズがついに終了か、と思わせる展開で注目を集めた。上位を独占した携帯3キャリアのほか、『ワイモバイル』や『UQ』などもトップテン入りし、携帯キャリアに格安スマホを加えた「スマホ系5強」の競争が2017年のCMシーンを席巻した。


そんな中、ランキングで異彩を放つのは、『Amazonプライム』。昨年の赤ちゃんと犬の心の交流を描いた「ライオン」篇、子馬と女性調教師の「ポニー」篇、そして祖母の笑顔と孫の優しさが胸を打つ「モーターバイク」篇と立て続けにヒットを飛ばしている。CMで描いた情緒的なストーリーが老若男女を“ほっこり”させ、Amazonのブランドイメージを醸成することに成功した。

ランキングとは別に、CM総合研究所では毎年CMのヒットが業績の向上に貢献した「消費者を動かしたCM展開」を選出している。今年は93銘柄あり、その中から特に「今年らしさ」「創造性」「影響力」等の観点に優れたCM展開として、10銘柄を特別賞として選出した。


『日清のどん兵衛』と湖池屋が特別賞

今回はその代表として、2社のブランドを紹介したい。

まずは日清食品の『日清のどん兵衛』。41年目を迎えたロングセラーブランドであるが、和風どんぶりのジャンルは若者からは「上の世代の食べ物」という印象をもたれがちだ。そのイメージを一新しようと、「どん兵衛を食べる男」星野源ときつねうどんの化身「どんぎつね」役の吉岡里帆が演じる不思議なストーリーの新シリーズに挑戦したという。

立ち上げのWeb施策や、同じ「きつね」つながりで実現したアニメ『けものフレンズ』とのコラボなど、ユニークで新しいことに挑戦する日清食品らしさを感じられる展開でヒットとなった。

日清食品ホールディングスの執行役員宣伝部長の鈴木均氏は「CMの世界観を生かし、テレビCMだけでなく紙媒体やインターネットの広告やネットニュースに取り上げられ、多様なメディア展開を実現した。結果として戦略ターゲットに据えた高校生・大学生の若者の喫食率が男女で大きく増加した」とその効果を解説した。

もうひとつは、2017年2月に新発売した湖池屋の「KOIKEYA PRIDE POTATO」。

近年の湖池屋は、菓子市場の低価格化と新製品の競争激化で苦戦、新商品のヒットからも遠ざかっていた。『カラムーチョ』『ポテトチップスのり塩』などの商品名と比べて、社名の「湖池屋」の知名度が弱いことも課題であった。そこで、商品の新発売にあわせて漢字の「湖」のロゴを全面に押し出し、コーポレートイメージを刷新した。CMで「♪100%日本産のいもを〜」と力強く歌い上げているのは、“歌うま現役女子高校生”の鈴木瑛美子。CM初出演ながら、あまりの歌のうまさで話題となり、Webでの再生回数は100万回を大きく超えた。メディアにも多数取り上げられると、当初想定の販売量を発売後約1週間で完売し、菓子業界でのヒットといわれる年間販売金額20億円を発売5カ月で達成したという。

湖池屋マーケティング本部マーケティング部 部長の柴田大祐氏は「この1発のCMに湖池屋の社運を懸けた。社員一同やってよかったと考えている」と当時の決意を語った。老舗企業である「湖池屋」の企業ブランドや商品の価値を再発見し、それを思い切ったCM表現で具現化し、リブランディングに見事に成功したCM展開であった。

歌うま女子高生の鈴木瑛美子の力強い歌声は話題になった。

以上の2社以外にも、テレビCMを通じて売り上げにつながった企業の成功事例を見るにつけ、改めて消費者の購買行動に「テレビCMは効く」と感じている。

CM好感度調査から見える消費者マインドの“好感ど真ん中”にあるワードは「おもしろい」。

「面白し」が語源とされるこの言葉は、「面」が目の前を意味し、「白い」は明るくてはっきりしていることを指すと辞書にある。「興味深い」「滑稽な」「快い」「風流な」「好ましい」と実に意味の奥が深い言葉である。このキーワードは、CM総合研究所が調査を開始した30年前も消費者マインドの中心にあった。世の中は大きく変わっても、「おもしろい」ことは人の心を動かすということであろう。

2018年のCM動向は

行く年の後は、来る年2018年のCM動向を少しだけ占ってみたい。

2月には平昌冬季五輪が開催される。世界が注目するスポーツ大会は最強コンテンツのひとつだ。羽生結弦、高梨沙羅選手はすでに複数企業のCMに起用されているが、日本人選手の活躍次第では新たなスターが誕生するかもしれない。

注目キーワードとして挙げられるのは「AI技術のビジネス化」。すでにロボット、家電、医療、自動車などあらゆる分野でAI技術を搭載したビジネスの競争が始まっている。なかでも注目したいのはスマートスピーカー。先行する『Amazon Echo』を追って、日本でも発売が相次ぎ、『LINE Clova』や『Google Home』はすでにCM展開が始まっている。

消費者マインドを寡占化している通信業界については、まだしばらくこの趨勢は続きそうだ。『au』の「三太郎」シリーズは毎年、正月早々に新CMをスタートして話題を集めているが、はたして2018年はどうだろうか。新しい「白戸家」となった『SoftBank』の展開や、『NTT DOCOMO』の新しいゲストも気になる。

通信業界以外にも、特に三が日には、企業が気合を入れたスペシャルなCM作品が多く放送される。テレビ番組だけでなく、テレビCMにも注目が集まりそうだ。