[画像] スウェーデンの新聞社、「ネイティブ広告」で野心的挑戦:編集権の独立を保ちつつ広告制作と連携

スウェーデン全国紙「エクスプレッセン(Expressen)」などを発行するボニアー・グループ(Bonnier Group)は、編集権の独立を保ったままで体制を再編し、広告制作部門と編集部門をより緊密に連携させる挑戦をはじめている。

ボニアー・グループはシブステッド(Schibsted)と並ぶスウェーデンの2大メディアグループで、米国や英国など15カ国で事業を展開。同国内では5つの主要紙を所有している。

ブランド・スタジオの役割



ボニアーのネイティブ広告を制作しているのは、スタッフ38人を擁する「ボニアー・ニュース・ブランド・スタジオ(Bonnier News Brand Studio、以下ブランド・スタジオ)」。同社営業部内にあるこのチームは、同社5紙すべてのネイティブ広告を販売・運営している。5紙とは、全国紙「エクスプレッセン」「ダーゲンス・ニュヘテル(Dagens Nyheter)」、経済紙「ダーゲンス・インダストリ(Dagens Industri)」、ローカル紙「ヘルシンボリ・ダーグブラット(Helsingborgs Dagblad)」「シズベンスカン(Sydsvenskan)」だ。これら5紙全体の週間ユニークユーザー数は、メディア調査会社のオルベスト・コンスメント(ORVESTO Konsument)によると、500万に上るという。スウェーデンの総人口が1000万人弱であることを考えると、悪くない数字だ。

ブランド・スタジオは、2013年の設立以来、この5紙の編集部とは独立した形で業務を行っている。ただし広告を紙面の雰囲気に合わせるために、ネイティブ広告の90%を編集部と同じコンテンツ管理システム(CMS)によって公開している。5紙にまたがるキャンペーンをクライアントから依頼された場合は、ネイティブ広告のデザイン、スタイル、トーンを各紙のスタイルに合わせて微調整する。5紙すべてに広告を出稿すると、キャンペーンの規模は広がるが、コストは割高。このため、140社に及ぶクライアントのなかでこのオプションを選ぶ企業は、年間1割程度だという。

このモデルはこれまでうまくいっていた。実際、アンナ・アルビドソン氏率いるブランド・スタジオは、ボニアーのデジタル売上の10%をもたらしてきた。だがいま、売上増をめざして、実験をはじめている。

新しい実験を行なった結果



ブランド・スタジオは10月初旬、各紙編集部とより緊密に連携しながらネイティブ広告を制作する取り組みをはじめた。まずは「エクスプレッセン」との連携から着手している。具体的には、ブランド・スタジオのスタッフが、「エクスプレッセン」のすべての編集会議に参加し、その日の主要ニュースを把握。これから執筆・公開される記事の内容、本数、公開予定日時を確認する。今後は、編集部が利用しているリアルタイムのオーディエンスデータにもアクセスできるようになる予定だ。狙いは、刻一刻と変わるニュースをキャッチし、そのなかに占める各紙のクライアントのポジションを知ることにある。

効果は早くも上がっているようだ。スウェーデンの著名ジャーナリストで、ポッドキャストやテレビ番組のパーソナリティも務めるアレックス・シュルマン氏が10月8日、「エクスプレッセン」上にて、ブランド・スタジオの最大口顧客でもある同国郵便大手のポストノード(PostNord)を痛烈に批判。この記事はソーシャルメディアで急速に広まり、ポストノードには顧客からの苦情が殺到した。しかしブランド・スタジオのスタッフが編集部に出入りしていたため、ポストノードは、「エクスプレッセン」のサイトと紙面にネイティブ広告を出稿し、早くから批判に対処することができた。

ポストノードのコミュニケーションマネージャーは、そのネイティブ広告のなかで、不満を抱いている顧客に謝罪したほか、シュルマン氏が同社のサービスで何らかの問題に遭遇したことはなかったことを強調した。この広告記事の平均滞在時間は55秒で、ブランド・スタジオのネイティブ広告の平均時間である35秒を上回っていた、とアルビドソン氏は述べた。

「データインフォームド」の制作



「編集部が掲載する記事と、我々が制作するネイティブ広告とのあいだには、厳格な線引きが行われている」と、アルビドソン氏は語った。「この取り組みの目的は、データの分析結果とジャーナリストのノウハウをうまく組み合わせる方法を確立し、より適切なネイティブ広告を、よりリアルタイムに近い感覚で制作することにある。我々が信じているのは、データドリブンではなく、データインフォームドだ」。

アルビドソン氏によるとキャンペーンの成功を測るうえでは、クリック数よりも動画再生完了率、スクロール深度、滞在時間といった指標が重視されるという。「広告コンテンツのマネージャーを編集部に向かわせるのは問題だという人もいるだろう。だが、ディスプレイ広告市場の収益モデルのほうが、はるかに問題だ。扇情的な見出しをつけてクリックを誘うことでページビューを稼ぎ、広告在庫を作り出しているのだから。一方、ネイティブ広告はエンゲージメントを生み出し、読者に価値をもたらす。我々は長期的な視野で取り組みを行っている」。

ブランド・スタジオが制作している動画の数を考えると、このような取り組みはとくに重要だ。このチームによるネイティブ広告の内訳を見ると、全体のうち40%は、長尺または短尺の動画広告であり、ドキュメンタリーやフィクションドラマのスタイルを混ぜ合わせて制作されている。ボニアーによると、このような動画の再生完了率は平均で60%だという。同社はテレビチャンネルを所有しており、「エクスプレッセン」もまた独自の動画チャンネルを持っているため、ブランド・スタジオはそれらの動画チームとリソースを共有している。

アルビドソン氏のチームは5紙すべての編集部に連絡窓口を設けており、この5紙に出稿されるネイティブ広告を制作する際に、各紙に合わせてトーン、デザイン、雰囲気を調整するようにしている。ブランド・スタジオはいまのところ、「エクスプレッセン」の編集会議に1名のスタッフを参加させているに過ぎない。だがこれがうまくいけば、この戦略をほかの各紙にも広げていくだろう。また最近、連続スクロール可能なネイティブプロダクトの開発でも、やはり「エクスプレッセン」と連携。人工知能(AI)の活用により、ニュース記事のコンテキストに合わせてネイティブ広告を配信していくという。

Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)