「数十年でクルマをすべて電気自動車に──「ガソリン車廃止」を目指す世界各国の思惑」の写真・リンク付きの記事はこちら

大規模で熱狂的なトレンドが世界に広がっている。英国、ノルウェー、フランス、オランダ、インド、中国などの国々や自治体はすべて、同じような誓約を表明した。今後数十年のうちに、ガソリン車への依存を止めるというのだ。

これは素晴らしいアイデアで、地球を救うものにさえなるだろう。世界の温室効果ガス排出量のうち、輸送関連が14パーセントに相当する。大規模災害につながる2℃の気温上昇を防ぐには、人類は2050年までに排出量を40パーセントから70パーセント削減する必要がある。

だからこそ、カリフォルニア州もそのトレンドに加わろうとしているのだ。カリフォルニア州大気資源局(CARB)のマリー・ニコルズ局長は2017年9月下旬、Bloombergの記事で、「知事から、『なぜわたしたちは、まだ何の取り組みも始めていなかったのか?』というメッセージを受けました」と、述べている。

「なぜ中国がこれに着手し、カリフォルニアがまだ手をつけていないのか、知事は確かに関心を示していました」。ニコルズによると、カリフォルニア州における非電気自動車の販売禁止は少なくとも10年後だという。

ただし、ちょっとした問題がある。「これらの国々にはいずれも、このような目標の達成度を確認するための政策フォローアップのシステムがありません」と、環境シンクタンクの国際クリーン交通委員会(ICCT)で電気自動車(EV)政策について研究しているニック・ラトセイは指摘する。

計画もない、設計図もない、実行力もない。これでは、各政府による宣言は、食事や運動を詳細に検討することなしに体重を100ポンド(約45kg)減らすと誓うようなものだ。

確かにEVは、この10年間で進化した。なかには高速でクールな車種もある。急速に向上するバッテリー技術と充電インフラのおかげで、EVはこれまで以上に長距離を走行し、より多くの場所に行けるようになった。ゼネラルモーターズ、フォード、BMW、ジャガーランドローバーなどの伝統ある自動車メーカーも、成長中のEV市場でEVメーカー(テスラ、日産)の仲間入りをしようとしている。

だがEVはまだ、世界の自動車販売において、ほんのわずかな割合を占めるに過ぎない。2016年は販売のわずか4.3パーセントだった。充電インフラは広まってきたものの、全域にはまだまだ達していない。さらに、マスマーケット向けのEVでさえ、安価とはいえない。

それでも、「宣言することが非常に重要なのです」と、ICCTのラトセイは述べる。

「各国の政府は、彼らがいま考えていること、そして政府の研究グループが政府に伝えていることを示しているのです。それは、交通をクリーンなものにして、気候変動による最悪の影響を回避するには、自動車を電気化する必要があるということです。ひとつのコンセンサスが明確に浮上していることが示されています」

公害の原因となるものを締め出そうとする国々、州、都市、市町村にとって、前向きなニュースではないだろうか。EV大国への長いプロセスは、地方自治体による奨励活動、自動車メーカーの国際的な連携、ノルマを伴う強力な国内プログラム、消費者教育の拡大などによって促進される。そしてそのような取り組みは、これから始まるのだ。

EVをとりまく“現在”

EVはガソリン車より高価かもしれない。だが世界中の政府は、EVを市民に広めるための様々な「アメ」と「ムチ」を用意している。

まず「アメ」の部分に関してだが、ノルウェーのEVオーナーは、市町村の駐車料金、消費税および輸入の際にかかる税金、トンネルやフェリーの料金が免除される(フィヨルドが多数ある国においては、トンネルやフェリーはコストに大きな影響がある)。電気および水素自動車は、無料で充電または補給可能だ。バス専用レーンの使用も許可される。交通渋滞におさらばだ!

このような取り組みの結果、現在では首都オスロにおける年間の自動車販売の4分の1以上がEVとなっている。もちろん、未来に対するこのような投資にはそれなりのコストがかかる。

「EVに関する消費税免除のために、ノルウェーは多額の費用を負担しています。一方で、EVの世界的リーダーとなるという目標が促進されているのです」と、カーネギーメロン大学で代替エネルギーを研究しているコスタ・サマラスは説明する。

上海では、2015年に販売された新車の11パーセントがEVだった。ここではEV購入者に対して4,400ドルの補助金が支給されている。だが、最もお得なコスト節約は、購入後にやってくる。

現在、中国の地方政府は、路上の自動車数を制限するために、ナンバープレートをオークションによって最高額の入札者に販売しており、その額は1万2,000ドルにまで上昇することもある。EVの場合は、このようなオークションを経ずにナンバープレートを入手でき、大金を節約できるのだ。

「ムチ」の部分に関しては、ロンドンを見てみよう。

2020年に、ロンドンの中心部は「超低排出ゾーン」となる。厳しい排出基準を満たしていない自動車がこのゾーンに入った場合には、料金が課せられる(ナンバープレート読み取りカメラが、すべての車両が条件に準拠しているかを確認する)。上海も商業車両に関して、同様の計画を実施している。

最後に、ガソリン車を禁止する前にEV販売数を刺激したいと思っているカリフォルニア州のような場所を見てみよう。同州では、EV所有を実現可能にするための充電インフラを拡大している。

シリコンヴァレーの交通量の多い中心地であるサンノゼ市は、すでに世界で5番目に充電インフラが整った場所であり、100万人あたりの充電ポイントの数は500カ所に上る。サンフランシスコは100万人あたり450カ所だ。

素晴らしいことだが、まだ十分ではない。ICCTのラトセイは、「コストは人々がEVを購入しない唯一の理由ではありません。利便性の問題もあるのです」と説明する。

幸いにもカリフォルニア州では、ディーゼル排出不正スキャンダルをめぐるフォルクスワーゲンからの賠償として、充電施設政策に8億ドルの予算が入る予定だ。

その資金は直接カリフォルニア州大気資源局の金庫に入り、今後10年かけてばら撒かれる。カリフォルニア州では、ゆっくりだが確実に、EVを所有しやすくなっていくはずだ。一方、同州におけるガソリン車の永久的な禁止も促進されるだろう。

EVの未来を考える

現在の取り組みは、不完全とはいえ不可欠なものだが、ガソリン車廃止のために必要な長期間の取り組みを終わらせるものではない。中国は正しい方向に向かって進んでいる。世界最大の自動車市場であり、2016年に販売されたEVの3分の1が販売された中国では10月初頭、待望のEV計画が発表された。

この計画は、積極的なキャップ・アンド・トレード型の政策を促進するもので、海外および国内の自動車メーカーに対し、2020年までにゼロおよび低排出自動車の製造台数を増加させることを義務付ける(これは、自動車メーカーにEVの製造、またはEVを製造している企業からクレジットを購入することを強制する、カリフォルニア州のZEV規制に似ている)。

このような政策は結果を生み出している。ゼネラルモーターズは10月2日(米国時間)、2023年までに新しい完全電気自動車を少なくとも20モデル導入し、最終的には非電気自動車を段階的に廃止していくと発表した。

ボルボも、(ほぼ)電気へと移行しようとしている。BMWもだ。このように収益性の高い市場を無視できる余裕のある大手自動車メーカーは存在しない。

今後の道

この種の取り組みを成功させるために、慎重さが必要とされるのは、最も弱い立場にいる市民に悪影響を及ぼさずに実行するということだ。この場合は、通勤や買い物、公共施設への移動のために、手ごろな内燃エンジンに依存している、主に地方に在住する低所得者たちだ。改革が国の最も貧しい世帯にまで浸透するには、長い時間がかかる。

カーネギーメロン大学のサマラスは、「ガソリン車を禁じれば、たしかに路上を走るEVの台数は増えるでしょうが、それにはほかのコストも伴うでしょう。低所得者人口の移動性とアクセスが確実に改善されるようにする必要があります」と述べる。それはつまり、公共交通機関への投資を意味する。それも大規模なものだ。

また、EVを運転するために必要なことについて何も知らない人たちを対象とした消費者教育も大切だろう。悩ましいことに、そのための簡単な答えはない。「自動車購入者は非常に多岐に渡っています。すべての消費者の要求に応えることは非常に困難です。誰でも、適切なブランド、評判、コスト、利便性のある車が必要なのです」と、ICCTのラトセイは語る。

だからこそ、米国のほかの州や政府機関では、ガソリン車の禁止が提案されていないのだろう。だが、カリフォルニア州の影響力は無視できない。同州は、ガス排出に関するリーダーとして長い歴史をもっている。

連邦議員たちが1963年の排ガス規制法をめぐって激しく戦っていたとき、カリフォルニア州は、環境基準よりも、かなり先を行くものであると認識しつつ、独自のより厳しい規制を作成することを可能にする条項を加えた。

カリフォルニア州の無公害車(ZEV)命令には、ほかにも9つの州が署名している。つまり、この規制が米国の自動車市場の4分の1以上を制御しているということだ。

たとえカリフォルニア州がガソリン車を禁止しようとして連邦政府から特別な許可を得られないとしても、車両規制法に手を加えたり、ガソリン車を州の高速道路から締め出すことなどによって、なんとか上手くやる可能性はある。

それでもなお、さらに多くのアイデアが必要だ。化石燃料を大量に消費する車両を禁止することは不可能ではない。だが、それらをゼロにするには、多くの戦略が必要とされる。そしてゲームは始まったばかりだ。RELATEDダイソンが電気自動車をつくる計画は、それほど「非現実的」でもない──革新的家電メーカーが秘めた可能性