ダラダラとメンバーを拘束する形式的な会議は「ブラックな会議」と言われても仕方ありません(写真:しげぱぱ / PIXTA)

「ムダな会議が多い」

「会議時間が長い」

「会議でアイデアが出ない」

会議についてムダなことが多いと感じている会社員は少なくないでしょう。一方、拙著『超ホワイト仕事術』でも詳しく解説していますが、やり方次第で、ムダを削減できるだけでなく、議論の成果を飛躍的に伸ばすこともできます。会議の「ムダとり」の方法と、短時間でクリエーティブなアイデアを生む会議の手法をご紹介します。

社内会議資料に「美しいチャート」は必要なし!

会議の「ムダとり」の1つ目は、「会議資料」です。社内の会議用に、時間をかけて、見栄えよくつくり込んだきれいな資料は必要ありません。

1993年、私はニューヨークのIBM本社で勤務していました。当時、経営不振にあえいでいたIBMは、外部からルイス・ガースナーを会長兼CEOに招きます。彼が真っ先に改革したのが、時間をかけた美しい資料を使用した経営会議でした。彼はそうした会議資料のことを「ファンシーチャート(装飾的な資料)」と呼びました。

IBMは米国発祥の会社のため、いかにも合理的だと思われがちですが、実は1911年創業の伝統ある会社で、時代とともに、いままでよかったことが逆に弊害になっていることがいくつもありました。その中で、ガースナーは真っ先に意思決定方法を改革したのです。

それまでの経営会議のスタイルは、1つの議題について責任者がまず25分、ファンシーチャートを使って説明・プレゼンを行う。そしてその後の5分で結論を出すというものでした。「5分間で結論を出せない人は、スマートなマネジャーではない」という、「麗しき誤解」を生み出す会議手法が、さまざまな部門で行われていました。要するに、事前に根回しされた会議という形式で意思決定がなされていたのです。

ガースナーは、一切のファンシーチャートを廃止・根絶し、代わりに、事前に「白書(ホワイトペーパー)」を準備させました。白書には、顧客のニーズ、競争環境分析、長期と短期の主要な課題や、今後どういうことをしていくかを10ページでまとめる。そして遅くとも会議の前日、できれば1週間前に参加者に配布することにしたのです。

参加者は事前に、その白書を読み込んで頭に入れたうえで、会議に参加します。1つの議題にかける時間は、同じく30分ですが、いきなり議論が始まって、30分かけて結論を出すというスタイルに変えたのです。

手間暇をかけた資料はほとんどの場合、会議に必要ないのではないでしょうか。議論の内容と、判断のための資料があればいい。「プレゼン」よりも「議論」に時間をかけるほうが望ましい。会議資料の作成のために優秀なメンバーの大切な時間を奪ってはいけないのです。

会議の出席人数は最小限に絞る

会議の「ムダとり」の2つ目は、「会議の出席者を厳選すること」です。以前のIBMの経営会議には、議論に直接関係があろうとなかろうと、経営会議メンバー全員が集まって意思決定していました。

ガースナーはこの経営会議を廃止し、CEOであるガースナーと、議論の当事者となる事業責任者だけに出席者を絞った会議を行いました。1対1に近い、「意思決定に必要な最小限の人だけが参加して物事を決めていく」というスタイルに変える。そのことによって、従来の形式的な会議から、実質的な会議に大きく変貌したのです。

ファンシーチャートの廃止と白書の導入、そして参加者の厳選によって、会議の質は高まり、時間が短縮され、コストも下がりました。

会社の方針の伝達や進捗報告などの会議は短時間にする。意思決定が必要な会議は参加者を厳選する。決定を当事者が認識し、共有して実行する。マネジャーは、会議の内容・時間・参加メンバー・結果を見直して会議のムダを徹底的に省いていくことが必要です。そして報告・進捗などの定例会議からイノベーションを生む会議に、比重を移していくことが求められています。

新規事業などのアイデア出しの会議は、会議全体のうち10%程度といわれています。その際、アイデアを出し合う「ブレインストーミング(ブレスト)」は、多くの会社が取り入れている手法でしょう。自由闊達にアイデアを出し合う……といえば聞こえはいいのですが、案外、行き詰まってしまうことも多いものです。

いくら「思いついたアイデアを、ほかの人のことは気にせずに、何でも自由に発言して。質より量だよ」と言われても、実際には、誰かの意見に流されたり、ほかの参加者に遠慮したりと、期待した成果が出ない経験をされているのではないでしょうか。

「沈黙の会議」

そこで、「沈黙の会議」と呼ばれる、「ブレインライティング」という手法を紹介します。これはドイツで開発された手法で、「6・3・5法」と呼ばれることもあります。短時間で、創造的なアイデアをつくり出すことができます。

原則として参加者は6名にします。6名が各々、3つのアイデアを、5分間で考えてメモ用紙に書き出します(だから「6・3・5法」です)。5分経ったら、隣に回します。次の5分は、回ってきたメモ用紙を見たうえで、さらに新しいアイデアを3つ考えて書き出します。これを30分間(5分×6クール)続けると、3案×6人×6クールで、108個のアイデアが出すことができます。


この間、参加者同士の会話、口頭での議論はありません。しかし、ほかの5人のメモが回ってきますから、「Aさんはこんなこと考えたんだ。へぇ。じゃあ僕はこうだ」という「沈黙の会議」になっているのです。

6回目には、Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんが書いたものが15個書かれたメモが回ってきます。それを全部読んで、そして最後の自分のアイデアを書くわけです。思いつくままに書き出すのではなく、ほかの人たちの考えを踏まえているところがミソです。しかも議論をしているわけではありませんから、アイデアに上下関係はなく、年齢も性別も職種も関係ない。全員が対等で、妙なバイアスがかかりにくいのです。

もう1つのいい点は、メモに書き出すことによって、30分経った時点で文書化されているということです。終了したら、誰かが編集します。似た傾向のものを集めたり、順序づけたりします。その並べ替えたメモ用紙をコピーすれば、そのまま議論の結果がまとまった資料になるわけです。

もちろん、パソコン上でも行えます。離れた場所にいるメンバー同士でもクラウドを利用すれば可能です。たった30分で108個の、創造性に富んだ、メンバー全員の価値が連鎖されたアイデアが出るのです。会議では、発言しない人ほど優れたアイデアを持っていることも多いもの。それを黙ったまま眠らせてしまうのは、とてももったいないことです。

マネジャーが、会議の参加者を厳選せず、手間をかけた資料をメンバーに準備させ、工夫された運営手法を取り入れないで、ダラダラとメンバーを拘束して行う形式的な会議は、「ブラックな会議」だと言われても仕方がありません。

優れたマネジャーの素地は誰にでもある

優れたマネジャーに、生まれつきのセンスや才能は必要ありません。最初から優れたマネジャーはいないと思います。でも、自らの力で、誰でも優れたマネジャーになることはできます。なぜなら、リーダーシップとマネジメントの素地は誰にでもあるからです。

社会人として経験を積み重ね、「謙虚さ」「誠実さ」「勇気」をもって、自分の潜在能力を高め、主体的に学び続けることで、バランスの取れた人間になることができます。私たちは誰でも、年齢や環境にかかわらず、自分を変えることができる力を持っています。意志と実行力さえあれば、誰でも優れたマネジャーになれるはずです。