世界バドミントン連盟(BWF)公認「ヒューリック・ダイハツJAPANパラバドミントン国際大会2017」が9月7日から10日まで、町田市立総合体育館で行なわれた。日本での開催は初めてで、世界29カ国から188人がエントリー。普段はあまり国際大会に参加しない中国の立位クラスの選手らも出場しており、世界選手権を超える最大規模での開催となった。


日本初開催の国際大会で、女子車いすWH2で優勝した山崎悠麻選手

 パラバドミントンは「車いす」と「立位」のカテゴリーがあり、障がいの状態により全部で6つのクラスに分けられている。パラ競技では少ない「低身長」のクラスがあるのも、特徴のひとつだ。日本からは36名が出場し、男子立位SL3(下肢障がい)の藤原大輔(LINE)、女子立位SU5(上肢障がい)の鈴木亜弥子(七十七銀行)、女子車いすWH2の山崎悠麻(調布市役所)が、それぞれシングルスで優勝した。いずれも、格上やこれまで未勝利だった選手に逆転勝利する活躍で、日本人の最後まであきらめない粘りのプレーが深く印象に残った。また、選手層が厚く、群雄割拠の様相を呈する男子立位SU5では、シングルスで浦哲雄(グリーンスタンプ)が2位に入った。

 大会期間中は、一般の観客に加え、初日と2日目だけでも地元の小学生のべ780人が観戦に訪れた。また、週末には選手が所属する企業の応援団も会場に駆けつけ、観客席からは大きな声援が飛んでいた。勝利の瞬間、観客席に向かって両手で大きくガッツポーズを作った藤原は、観客のサポートにこう感謝する。

「こんなに応援してもらえるとは思っておらず、試合が楽しかった。ホームの大会の力を感じたので、3年後の東京も頑張りたいです」

 BWF公認のパラバドミントンの国際大会は世界各地で開かれ、今年度はこの日本大会を含め、10大会が開催される。選手は一般のバドミントン選手と同様に、この国際大会を転戦してランキングポイントを獲得していく。それを考えれば、地元開催は長い移動もなく、コンディション管理がしやすいというメリットがある。日本の喜多努監督は、「地元の利を理解し、なぜ勝てたのか、その要因をしっかりと分析していく必要がある」としながらも、「決勝に進出した4種目のうち3つで優勝したことはよかった」と評価する。

 そのなかで男子車いすの日本勢は奮闘したが、ベスト8にとどまった。逆に、圧倒的な強さを見せたのが、強豪国の韓国だ。大会前の合宿で喜多監督は、「技術もチェアワークも、日本と韓国との間には大きな差がある」と話していたが、やはり韓国勢に上位進出を阻まれた。

 日本では病院で車いすバスケットボールに出会う人が多いといわれるが、韓国のキム監督によると、韓国では小児麻痺の人やケガなどで車いすに乗るようになった人が病院でリハビリをする際、バドミントンを勧められることが多いそうだ。そのため、必然的に競技人口が増え、強い選手が出てくるのだという。もちろん、そういった環境の違いは大きいが、喜多監督は「世界の頂点を目指すなら、日本の選手一人ひとりが今一度、競技に取り組む考え方を根本的に変えていかなければいけない」としている。

 大会開幕直前の9月4日、国際パラリンピック委員会(IPC)が2020年東京パラリンピックの実施種目を「537」と発表した。そのうち、初採用のパラバドミントンの実施種目は「14」と、手厚い配分となった。BWFパラバドミントンオフィサーのシャーミ・サブロン氏は、「新競技で14種目採用は誇れる。6つすべてのクラスが実施対象になっており、素晴らしいこと。東京大会以降はさらに増やす努力をしたい」と語っている。

「東京パラリンピック」という目標は、選手の競技者としてのモチベーションをさらに向上させ、全体的な競技力のレベルアップにつながっている。日本でも競技に専念するため、アスリート雇用で企業に就職する選手が増えるなど、競技や選手を取り巻く環境は大きく変化している。

 日本は、海外の強豪国との交流に力を入れているところだ。車いすはタイや韓国で合宿を行ない、立位はインドネシア代表を日本に招いて合同トレーニングキャンプを実施するなどしてきた。さらに今夏、コート8面が整備されたパラバドミントン専用の体育館が東京都・西葛西に完成。今大会の日本代表強化指定選手による直前合宿もこの体育館で行なわれた。日本障がい者バドミントン連盟(JPBF)によると、10月にはさっそく中国の車いすの選手を呼び、合同合宿を開く予定もあるという。

 日本代表のスタッフに目を移せば、喜多監督は2015年にJPBFの強化担当理事に就任。それまでは2004年アテネオリンピック代表コーチや、小椋久美子さん、潮田玲子さんの『オグシオ』ペアも在籍した三洋電機のコーチや監督などを歴任してきた。その経験を生かしてパラバドミントンの選手育成に注力している。

 また、日本代表としてアテネオリンピックのシングルスに出場し、現在はジュニアナショナルチーム(U-16)コーチの森かおり氏を立位クラスのコーチとして今年4月に招集。森コーチは8月のペルー国際大会から遠征に帯同し、今回の事前合宿と日本大会でも選手をサポートした。

 森コーチは「選手のモチベーションは高いけれど、メンタルや体のケアなど、アスリートとしての基礎知識は、まだこれからと感じる」という。特に強化指定選手は、注目される中で進化をしなければならない。「勝敗にこだわるのも大事だけれど、そこに至るまでのアプローチが重要になってくる。自分の経験で、共有できることは伝えていきたい」と語る。

 今年11月には、2年に一度開かれる世界選手権(韓国)、来年10月には4年に一度開かれるアジアパラ競技大会(インドネシア)が開催予定だ。日本代表は、このビッグイベントに向けて、課題の洗い出しと修正に取り組んでいく。注目を浴びつつあるパラバドミントンだが、バドミントンをやっている人でもその存在を知らない人はまだ多く、一般的な認知度は低いと言わざるを得ない。

 喜多監督は、「パラバドミントンの普及につなげるためにも、東京パラリンピックの実施種目から外れたクラスも強化していく。ベースを広げて頑張っていきたい」と話している。

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