日本がW杯出場を決めたオーストラリア戦。勝ち負け以外で一番顕著だったのが、ボール支配率の差だ。日本が38.4%だったのに対し、オーストラリアは61.6%。支配率と結果は必ずしも一致するわけではないが、支配率でこれほど劣勢だったチームが勝利を飾るケースも珍しい。

 せめて45対55ぐらいでないと、フロック、出会い頭の勝利と言われかねない。実際、日本が浅野拓磨のゴールで先制点を奪ったその2分ほど前、オーストラリアはビッグチャンスを迎えた。ゴール前を固める吉田麻也の左足を経由してポストに当たることになったマシュー・レッキーのシュートだ。これが決まっていれば、結果は違っていた可能性がある。

 オーストラリアと前回最終予選(4年前)で対戦した時は、57.3%対42.7%で日本だった。ハリルホジッチの就任前と後で、日本サッカーの傾向は大きく変わった。縦に速いサッカー。技術がそれに伴わなければ、ボールを失う確率は必然的に上昇する。サッカーの見た目も、その分だけ悪くなる。

 オーストラリアで行われた2015年アジアカップ。アギーレ時代の話だが、例えばそのイラク戦などは、少なくとも見映え的には最高の試合だった。結果は1−0ながら、1−0に伴うネガティブな感情は一切なし。3−0で勝ったような完勝だった。

 支配率は61.1%対38.9%。ハリルホジッチ就任前は、オーストラリア、イラクといった同格ないし若干格で上回る相手に対して、支配率60対40を示すのが当たり前だった。就任後、それが逆になった。それで強さが増したと言うわけでもない。何となく見映えが悪くなり、何となく弱くなった。選手のポテンシャルの問題もあるが、大きなウエイトを占めるのはやはり監督采配だ。

 縦に速いサッカーは言い換えれば、横を使わないサッカーだ。サイドチェンジが少ないサッカー。展開力に乏しいサッカーだ。

 サイドバックが活躍しにくいサッカー。ハリルジャパンの場合はそうした傾向も垣間見える。オーストラリア戦。長友佑都は確かに先制点のシーンに絡んだ。ディフェンスラインの裏に、意表を突くクロスを入れ、浅野拓磨のゴールをアシストした。しかし、試合を通してコンスタントに活躍したかといえばノーだ。そもそも、関わる絶対的な回数が少なかった。

 長友以上だったのは、右サイドバックの酒井宏樹。11人の中で最もプレイに参加する機会が少なかった選手と言っていい。昔、野球でよく言われた、ライトで8番(ライパチ)を連想させる悲しい存在に見えたほどだ。

 縦に速く進みすぎて、追いつかないという側面もあるが、それとともに見逃せないのは、スタート位置の低さだ。

 4バックと称される布陣の実際は2バックだ。最終ラインで常時、構えるのはセンターバックの2人。両サイドバックの平均的ポジションは、それより1つ上、守備的MFとほぼ同じ高さになる。

 長友、酒井宏樹はそうした世界のスタンダードと比較すると明らかに低めだ。従来のサイドバック像そのものになる。

 サイドバックは無理さえしなければ、ボールを奪われにくい。片側がタッチラインなので、相手は一方からしか迫ってこない。プレッシャーを四方から浴びる真ん中より、奪われる危険は少ない。その1つ上で構えるウイングやサイドハーフにも同様なことが言えるが、サイドバックの方が構える位置が低い分、リスクは低い。つまりサイドバックは、ボールの支配率に大きな影響を及ぼすポジションであると同時に、最も自由が与えられているポジションでもあるのだ。

 サイドバックをいかにして有効に使うか。サイドバックが活躍した方が勝つと言われる理由だが、サイドバックの種類は主に2種類に大別される。槍型と中盤型。直線的かジワジワ型か。かつては、ロベルト・カルロス、カフーに代表される直線的な動きをする槍型がスタンダードだった。ハリルジャパンで言えば酒井宏系になるが、基本ポジションが高くなった現在は、ジワジワ上昇する中盤型の方が理に適っている。