●4つの機能を強調
日本マイクロソフトは2017年4月11日、Windows 10 Creators Update公開に合わせたプレスセミナーを都内で開催した。4つの機能を向上させたCreators Updateによって、すべてのユーザーに想像力の可能性を届けると語る。既にCreators Updateを適用したユーザーも多いと思うが、ここではプレスセミナーの内容を紹介しよう。

Windows 10 バージョン1507から数えて3度めの大型アップデートとなるCreators Updateは、米国時間2017年4月11日(日本は12日未明)からWindows Updateを通じて配布を開始する。

日本マイクロソフト 業務執行役員 Windows&デバイス本部長 三上智子氏は、「一部の企業から更新タイミングに関するフィードバックをいただいた。今回はアップデートプロセスを制御し、サーバー側の配信も調整を行っている」という。また、Windows 10 バージョン1607でも設定可能な「アクティブ時間」の設定を行うことで、Windows 10の自動再起動を抑止するなど、企業ユーザーにも一定の配慮を見せた。

さて、Creators Updateの新機能については既にWindows 10大百科で語っているため、重複点は割愛し、日本マイクロソフト関係者の発言や新たな施策について紹介しよう。

日本マイクロソフトはCreators Updateを、ユーザーフィードバックに基づいた「基本機能の向上」、ごく一部に限られた3Dを多くのユーザーに解放する「3D」、PCゲームの可能性を広げる「ゲーミング」、そしてHMD(ヘッドマウントディスプレイ)などを通じて複合現実を可能にする「Mixed Reality」の4つを主な新機能として紹介した。3D機能については今後Office 365でも強化し、プレゼンテーションにも3D機能が利用可能になる。

今回「Windows Mixed Reality」というキーワードを改めて提唱したが、これはMRのプラットフォーム化を目指すためとのこと。「日本での(パートナー製HMDの)発売時期は未定だが、HMDをPCにつなげるだけでMRを体感できるので注目してほしい」(三上氏)と可能性を強調した。

法人向けの強化ポイントとしては、各所に散らばっていた情報をダッシュボード化した「Windows Defenseセキュリティセンター」や、Azure Active Directory経由で認証を行う「Windows Hello for Business」、マルウェアなどに感染したデバイスをネットワークから遮断する「Windows Defense Advanced Threat Protection」を紹介。「Windows Analytics」は、アプリケーションの互換性情報を提供するUpgrade Readinessや、適切に更新プログラムが適用されているかを把握できるUpdate Complianceといった機能で強化する。

プレスセミナーの会場では、Creators Updateの新機能に関するデモンストレーションが、日本マイクロソフト Windowsプロダクトマネジャー 春日井良隆氏によって披露された。今回は写真を中心にお送りするので、気になるポイントをご覧になっていただきたい。

ゲーム体験については、新たなポイントとして「ゲームモード」と、ゲーム配信機能である「BEAM」について、日本マイクロソフト Xboxゲーミング戦略本部 プロダクトマネジャー 森洋考氏が説明。ゲームモードはMicrosoftも明確にしておらず、森氏の説明も「CPUやGPUといったリソースをPCゲームに対して優先的に割り振る」と、これまでと同じものだった。直接尋ねたところ、OS側でゲームモードを有効にした場合は前述のとおりだが、やはりPCゲームのプロセスに対して、割り込み処理が優先的に割り当てられるという。

本来、Windows 10上のプロセスは多くのスレッドが存在し、環境や起動済みアプリケーションによって大きく左右される。

そのため、数値的には明確にできないものの、フレームレートのピーク値が高まり、平均フレームレートも改善されるそうだ。一方で、PCゲーム側のゲームモードもやはりプログラムの構成によって左右されるが、UWP(ユニバーサルWindowsプラットフォーム)アプリケーションに限らず、古いWin32製アプリケーションも改善される可能性が高いという。加えてゲームモード対応のAPIを利用することで、最適化の度合いも増すそうだ。

この辺りは、Microsoftが開催するBuild 2017や、日本マイクロソフトのde:code 2017でより明らかになるだろう。BEAMについては、以下の写真をご覧いただきたい。

●新しい施策は2つ
今回新たに発表した施策は2つある。1つめはUWP版「pixiv Sketch」のリリースだ。ピクシブは月間利用者数4,000万人、累計投稿作品数7,000万作品を数える、お絵かきコミュニティサービス。同社は「最近の10代はスマホやタブレットで絵を描くケースも少なくない。投稿環境の整備と投稿後のリアルタイムコミュニケーションを実現するため」(ピクシブ 代表取締役社長 伊藤浩樹氏)と、pixiv Sketchの開発理由を説明した。今回は特に、ペンデバイスの筆圧感知部分を強化し、繊細なタッチでイラストを描きやすくするドロー機能と、他ユーザーの投稿やレスポンスをリアルタイムで把握できるタイムライン機能を実装。今後も日本マイクロソフトと連携を深めつつ、サービスの向上を目指す。

もう1つは、DMM.make 3Dプリントの3Dオブジェクト(拡張子「.3mf」)への対応だ。同サービスはプロ向けデザインワークから趣味のフィギュア作りまで、ネットから申し込めるというもの。その造形に用いる3Dデータの対応形式として、「ペイント3D」の標準形式である.3mfを新たにサポートする。

DMMは「ペイント3Dは小中学生でも簡単に使いこなし、制約が多いほど面白い使い方を発見する」(DMMホールディングス 代表取締役 松栄立也氏)と、新たな可能性に注目していると述べた。会場にはペイント3Dで作成したデータを造形したオブジェクトを並べていたが、「2,000円程度」(松栄氏)で作成できるという。

●日本語フォントとレンダリングの現状、そしてPC展示も多数
ここで、関係者からうかがったいくつかの情報を紹介したい。筆者は以前、本誌にも寄稿している山田祥平氏とともに、日本マイクロソフトの春日井氏へ日本語フォントのレンダリング改善を求めたことがある。春日井氏も非常に前向きで、米国本社へ強く呼び掛けると約束してくれたが、残念ながらCreators UpdateにいたるまでのWindows 10 Insider Previewでは、その一端をうかがうことはできなかった。

春日井氏によれば、その取り組みは継続中。Creators Updateは多くの機能を新実装もしくは改善しているものの、そこには優先順位がある。Windows 10インストールPCの台数が上位ではない「日本」の優先度は、必然的に低くなってしまうようだ。春日井氏は同様の取り組みを今後も続けていくと語っていたので、我々日本のユーザーとしてはゆっくり待ちたいところである。

機能実装という点では、Windows 10 Mobileに搭載される予定だった3Dスキャンアプリケーションも見送られている。三上氏は「満足のいくユーザー体験まで、製品の完成度を高められなかった」と述べた。Creators Updateでは、タスクバーにユーザーをピン留めしてコミュニケーションの促進を図る「People Hub」も見送られているが、3Dスキャンアプリケーションと同様に完成度の面で問題があったという。なお、Windows 10 Mobile向けCreators Updateは4月中のリリース予定だが、「本当は一斉にリリースしたい」(三上氏)ものの、UWPにおけるシェルの相違が障害となり、優先度の高いPC版が最初にリリースされるとのことだった。

今後も、日本マイクロソフトは「Windowsエリア」における店頭デモンストレーションや、開発者向けカンファレンス「de:code 2017」を5月23〜24日に開催し、6月にはインサイダーを対象にした「Windows Insider Meetup 2」を予定している。4月12日から始まるWindows Updateに備えて、バックアップなどの環境整備を進めておくとよいだろう。

阿久津良和(Cactus)

(阿久津良和)