女性誌『Suits WOMAN』で注目を集めた「貧困女子」。これは普通の毎日を送っていたのに、気がつけば“貧困”と言われる状態になってしまった女性たちのエピソードです。

今回お話を伺ったのは、現在、営業代行会社の契約社員として働く木田美幸さん(35歳)。現在の手取りの月収は17万円、東京都練馬区にある古いアパートで、知人とルームシェアしています。美幸さんはぽっちゃり体形で、目が細くうりざね顔をしており、昔の和風美人といった雰囲気。顔中にそばかすが散っており、それを隠すようにファンデーションを塗っています。ヘアスタイルはバサバサのセミロングで、セルフカラーをしているのか、かなり明るい茶色なのですが色むらがあります。毛先のダメージも目立っており、35歳という実年齢よりも、5歳ほど年上に見えます。

インタビュー場所に現れた瞬間に、据えたようなタバコの匂いが。美幸さんは15分ほど遅れてきたのですが、「すみません、ちょっと一服してきます」とあいさつもそこそこに、喫茶店が入っているビル内の喫煙所に行ってしまいました。その後姿を見送ると、クリーム色のニットの背中にもたっぷりと肉が付き、紺色のピンストライプのパンツのお尻は四角い形をしています。持っているのは、茶色のクロワッサン型の合皮のバッグです。

3分ほどして戻って来た美幸さんに、学歴と仕事について伺いました。

「大学は一応出ていますが、音楽系だし、そんなに有名なところではありません。就活が全くできず、バイトして過ごしているうちに、あっという間に13年が経ってしまいました。今の仕事はテレアポです。私、パソコンが使えないので、できることってこれしかないんですよね。時給で払われるし、好きな時に出勤できるからいいんです。今いる会社では、カード会社の名簿で、富裕層に向けてサプリや投資商品を売っています。前の会社より給料が半分以下になったけど、まあ気に入っています」

給料が半分以下になる前は、ある有名な保険会社にいた……

「有名な保険会社で給料がいいので応募して、1年くらいいたかな……そこはホントにすごいスパルタでした。ノルマがこなせないと、受話器と手をガムテープで巻かれるんです。保険のテレアポって社名を言った瞬間“かけてくるなバカ”とか“忙しい所かけてきやがって、お前が死ね”とか言われるんですよ。私は暴言に慣れていたし、成績も悪くなかったので、ガムテ+受話器はありませんでしたが、新卒で入った子が泣きながら電話していたり、うつで会社に来られなくなったりするストレスで、不眠症になりました」

暴言に慣れるとは、どういうことですか?

「母親が完璧主義で、お手伝いで失敗すると“死ね”とか“クズ”など言われまくっていたからです。失敗の内容は、食器の絵を正面にして配膳しなかったなどささいなことなんです。だから、今でも箸置きと箸の向きや、食器の向きや位置はすごく気になります。母親と結託している姉からも暴言を受けていたので、自分を守るために、心をすぐにシャットダウンできるんですよ。この特技がテレアポでは役に立ちます」

受話器にガムテープ……問題になりそうですが、今でも行なわれているのだとか。

「テレアポではよく見る光景です。そうじゃないとみんな営業電話なんてかけませんよ。電話の通信履歴は管理されていて、テキトーな電話番号にかけてサボっている人は、即刻ガムテの刑です。でも、これをされるとみんな病むんですんよね。今の会社はそんなことはされないのですが、前の会社はホントに苦しかった」

美幸さんの声は、テレアポをしているだけあって、滑舌が良く聞きやすいです。

「それは、昔、舞台子役をしていたからです。これでも天才子役と言われていたんですよ。小学校1年生の時に、姉のオーディションの付き添いで試しに受けてみたのですが、私だけが合格してしまって。小学校5年生くらいまで、いろんな舞台に出ており、そこそこ役もついていました」

当時の夢は、NHK教育の子供番組の“歌のお姉さん”になることだったといいます。

「でも、あきらめましたよ。初潮を迎えたころからブクブクと太り出し、背も子役にしては高くなってしまったので、クビになる前に自分から辞めました。母は期待とお金をかけていた私が夢破れて家にいるから暴言を繰り返すし、姉は私だけが受かった嫉妬から、嫌がらせをしてくるし。家にいて心が休まらず、小学生にして円形脱毛症になってしまったんです」

美幸さんはワードとエクセルが使えないことと、人間関係が苦手なので、いわゆる一般事務の派遣社員ができないと語ります。

仕事のストレスからパチンコにハマり、作った借金の総額はいくらなのか……〜その2〜へ続きます。