右手首痛で本来の力を発揮できず、ベスト8で敗退した錦織圭 錦織圭は昨年準優勝したマイアミの地から、最終日を待たずして去ることになった。

 マイアミオープン準々決勝で、第2シードの錦織(ATPランキング4位、3月20日付け、以下同)は、ファビオ・フォニーニ(40位、イタリア)に4-6、2-6で敗れて、2年連続の決勝進出は実現せず、マスターズ1000初タイトルはまたもやお預けとなった。アンディ・マリー(1位)とノバク・ジョコビッチ(2位)が不在という好機も活かすことはできなかった。

「ドローを見てもわかるとおり、すごくチャンスではあったので、もったいないとしか言いようがないですね。この大会は感覚もよかったですし、それだけに余計に悔しさというか、やりきれない思いが少しあります。ただ、ケガは100%予防できるわけではないので、しょうがないという気持ちもあります」

 準々決勝を戦う前に心配されていたのは、4回戦でメディカルタイムをとってマッサージを受けた錦織の左ひざだった。しかし、この日の試合直前練習で誰もが、様子がおかしいと感じたのは錦織の右手首だった。ヒッティングパートナーとのラリーでは、1球も全力で打てず約20分で切り上げた。

 それでも、4回戦から合流していたマイケル・チャンコーチはあきらめなかった。中尾公一トレーナーに右手首のテーピングを巻き直しさせて、錦織に球出し練習をさせようとした。結局、球出し練習は2〜3球で錦織が拒絶し、試合ができるかどうか疑問符が付いた。


「そこまで大事ではなかったので、試合をやってみて判断をする形にしました。そんなに悪化しなかったので最後までやりました。なかなかサーブとフォアをそこまで打つことができず、この相手に勝つのは難しかったですね」

 フォニーニも右ひじを痛めていたため、直前練習をキャンセルしていた。準々決勝では、ともに100%のコンディションでのプレーではなく、お互い際どい球は深追いしなかった。

 特に右手首に痛みを感じていた錦織は、サーブとフォアハンドストロークではほとんどのショットでプロネーション(手首の内転ひねり動作)を使わずに、ラケット面をボールに当てるだけで打った。また、ドロップショットやサーブ&ボレーを多用して、ショートポイントで切り抜けようともした。時折力を入れて打ったが、痛みに顔をしかめる場面もあった。

 錦織が右手首に痛みを覚えたのはフェデリコ・デルボニスとの4回戦だったという。振り返れば、4回戦のファイナルセット第1ゲームで、錦織がダブルフォールトを4回もしていたが、あの時すでに右手首の痛みが発生していたと見るべきなのだろう。錦織本人にも原因がわからず、準々決勝当日になっても痛みは引かなかった。

 準々決勝での錦織のミスは22本だったが、振り返ればデルボニスとの4回戦では33本のミス、フェルナンド・ベルダスコとの3回戦では48本のミス、とにかく今大会では錦織らしくないミスの多さが際立った。

 約3年前からトップ10に定着し、最高4位まで上がった錦織はイージーミスの少ないことが彼の強さのひとつだった。しかし、マイアミではミスによってプレーにアップダウンが生じ、最終的にはフィジカル問題によって、錦織の才能あるテニスは影を潜めてしまった。


 錦織が右手首の腱鞘炎を発症したのは2014年の11月。初めて出場したATPワールドツアーファイナルズからは右手首にテーピングをしてプレーするのが彼のルーティーンとなった。さらに2015年のツアーファイナルズでも、右手首が100%ではない状態でのプレーを強いられた。

「(今回の右手首の痛みは)急に出てきたので正直びっくりしています。いつもあるやつなので、これからも気をつけながらやっていきたいと思います」と語る錦織だが、一時的によくなっても、またぶり返す可能性があるのではないだろうか。

 錦織のキャリアは10年目を迎え、今年28歳になることを踏まえれば、今までのプレーの中で蓄積されてきた疲労によって体のあちこちが傷んでもおかしくはない。ましてや身長178cmの錦織は、ツアーの中では小柄で決して体が頑丈な方ではない。

 ここわずか半年で、左でん部(16年ジャパンオープンと17年ブリスベン大会)、左わき腹(16年ツアーファイナルズ)、左腰(16年オーストラリアンオープン)、左ひざ(17年マイアミ大会)など体の左側に問題が多く発生していたが、そこに右手首も加わった。あらためて錦織は、今回の事態をいたずらに楽観視せず、自分の体から発せられるサインとしっかり向き合う必要がある。そして、チーム錦織による体のケアも一層、念を入れなければ、今後のキャリアに影響を及ぼしかねない。

 錦織はマイアミ大会後にATPランキングが4位から7位に下降する。4月からは体力的には一番過酷なヨーロッパクレーシーズンが始まり、例年どおり4月24日に開幕するATPバルセロナ大会から出場する予定だ。「このあと、しっかり体調を戻す」と語る錦織だが、健康な体あっての非凡なテニスなので、万全を期して再始動してほしい。

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