[画像] 『怪物の直接対決』大谷翔平(花巻東)vs 藤浪晋太郎(大阪桐蔭)2012年センバツ1回戦の投げ合いを語り尽くす!

 歴代の日本人投手の中でストレートの速さが突出しているのが大谷 翔平(日本ハム<関連記事>)と藤浪 晋太郎(阪神)だ。甲子園に最初に登場したのは大谷の方で、花巻東高2年の2011年夏、1回戦で帝京高と対戦、先発に代わって4回途中からマウンドに立ち、5回3分の2を投げ、被安打6、奪三振3、与四球4、与四球1、失点3で負け投手になっている。

荒削りながらも突出した才能を発揮していた藤浪と大谷

藤浪 晋太郎(大阪桐蔭時代)

 これより約1カ月前の7月9日、大阪大会1回戦で大阪桐蔭高が強豪、関大北陽と対戦し、4対0で快勝している。全国屈指の1回戦と言っても過言でないカードのため、会場は大阪で最も多く観客を収容できる京セラドーム大阪が充てられ(3万6154人)、大きな評判を呼んだ試合だ。この試合で藤浪は9回を投げ抜いて3安打完封で関大北陽を退け、奪三振は驚異の14個。見逃し1に対して空振りは13で、結果球はストレート4に対して変化球は9を数えた。

 大谷は甲子園の帝京戦でストレートの最速が150キロを計測し、これは下級生のものとしては田中 将大(駒大苫小牧高<関連記事>)と並ぶ甲子園史上最速記録である。この夏は座骨関節の骨端線損傷で岩手大会は1試合(1回3分の2)しか投げておらず、完調からは程遠いデキ。そういう状態でも150キロを投げたところに大谷の底の知れない凄みがある。

 一方の藤浪は京セラドーム大阪のスピードガン表示が使われていなかったため関大北陽戦の球速は不明。スライダーにまったくタイミングが合っていない各打者の様子を見るとストレート待ちの指示が出ていたことがわかる。ヤマを張らなければ対応できないほどこの試合の藤浪はストレートが走り、大阪桐蔭高のバッテリーはストレート待ちの裏をかいて勝負球にスライダー、チェンジアップを選択。それが14奪三振という結果に出ている。

 2年時に全国レベルの迫力を見せていた2人が甲子園で対戦したのは翌2012年春の選抜大会1回戦だ。大谷は前年の故障を持ち越し、新チームになってから公式戦の登板がなく、それに対して藤浪は8試合に登板して57イニングを投げ、防御率1.74、奪三振率10.11を記録している。この差が試合になってはっきり出た。2回裏、先頭の大谷が2‐2からの116キロスライダーを捕手寄りのポイントで捉え、そのまま押し込んで右中間にソロホームランを打ち込んで先制。4回にも大谷の死球からチャンスを作り、7番打者のタイムリーで2点目を挙げ、5回を終わって花巻東高が2対0でリードする展開。

注目の大谷と藤浪の対決を振り返る!

 大谷は投手として5回まで被安打2、奪三振6、無失点。数字だけ見れば万全のように思えるが、四球2、死球2を見れば思うようにボールをコントロールできない様子がはっきりわかる。ストレートは4回に最速150キロを計測するがこれを6番打者にレフト前に運ばれ、6回には2つの四球と内野安打、二塁打をつらねられ2対3と逆転され、7回には4番田端 良基に2ランを打たれて突き放される。

 藤浪もストレートが初回から150キロを計測している。速さは大谷と同じだが、藤浪のリリースは大きな手でボールを真下に叩きつけるようで、その分低めへの伸びやコントロールが大谷を上回っていた。また前年の関大北陽高戦はスライダーの他にチェンジアップも威力を発揮したが、この日の変化球はスライダーがほとんど。そして、くるとわかっていても花巻東高の各打者はスライダーに対応し切れなかった。12奪三振の内訳はストレート4、スライダー6、不明2で、空振りが9個。ストレートのタイミングでスライダーを振らされている様子がよくわかる。

大谷 翔平(花巻東時代)

 大谷はピッチングこそ万全でなかったが、バッティングは素晴らしかった。二刀流の現在、大谷の最大の特徴は思い切りキャッチャー寄りでボールを捉え、外寄りは逆方向のレフト、内寄りは右中間方向に打ち分ける技術の高さにあるが、この甲子園大会ですでにその良さを備えていた。

 2回のソロホームランは初球が外角に外れる148キロのストレート、2球目が外角に外れる103キロカーブ、3球目が内角に食い込んでくる134キロのスライダーで空振り、4球目が外角に外れる145キロのストレート、5球目が真ん中低めに入ってくる116キロのスライダーで、大谷はこれを見逃さずに右中間スタンドに放り込んだ。藤浪と森 友哉(西武<関連記事>)のバッテリーは外角主体で、なおかつ緩急を交える徹底警戒ぶりで、それでも大谷はこれを捉えてホームランにした。勝負で敗れても投打の凄みを十分に見せつけた大谷と、勝負に勝ち、潜在能力の高さを見せつけた藤浪。5年前、2人の超高校級が演じた火花の飛び散るような鍔迫り合いは今も強く記憶に残っている。

 なお、全試合に登板して防御率1.58を記録した藤浪を擁する大阪桐蔭高はこの大会を制し、さらに夏の大会も制して、98年の横浜高校以来、14年ぶりとなる春夏連覇を達成した。

 (文=小関 順二)

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