[画像] 常磐大学高等学校(茨城)「茨城大会準優勝から10年...。今度こそ甲子園出場を決める!」【後編】

 前編では、勉強強化に乗り出して、再建した様子を描きました。後編では、秋季大会の様子や春へ向けての課題について迫っていきます。

■前編「わずか1年半で強豪校へ再建!」を読む

秋はエース不在も強力打線と代役の活躍でベスト4!

 夏はベスト8まで勝ち上がり、秋は関東大会出場を目指した常磐大高だったが、夏のエース・平野 龍翔、2番手として投げていた田崎 誠也が故障してしまい危機的な状況に陥る。だが、逆にそれがチームがまとまるきっかけとなった。

川野邊 一眞選手(茨城県大会 準決勝より)

 夏の大会でも投げていた2年生右腕の川野邊 一眞が台頭し、さらに打線では打撃に専念した田崎、攻守の中心である正捕手の石川 大悟、俊足をウリとしたプレースタイル、さらにショートとして内野陣をまとめる主将の益子 佳大。夏の大会でつくば秀英の長井 良太から5打数3安打を記録した俊足巧打の外野手である1年生の竹川 大稀と、五十畑 亮汰(いかばた)の小山ボーイズ出身コンビ、そして急成長を見せたスラッガー・ワラス 開智を中心とした強力打線で勝ち上がっていった。

 県大会2回戦では常総学院と対戦し、新チームがスタートしてから伸びていた川野邊が好投した。川野邊は「スライダーが良かった」と振り返り、リードする石川も、「常総学院だからという焦りはなく、逆に常総学院を抑えたら、俺凄いじゃん!というポジティブな思考になりました。それがあったから常総学院打線を抑えることができたと思います」と語った。川野邊は常総学院打線を2失点に抑える好投を見せ、6対2で常総学院を破り二季連続でベスト8。海老澤 芳雅監督は、「川野邊はよく四球から崩れてしまうことがあるのですが、この日は最後まで丁寧さがありましたね」と川野邊の投球を労った。

 準々決勝の水戸葵陵戦では11対9と打撃戦を制し、準決勝へ駒を進めた常磐大高。これで目標とする関東大会まであと1勝となった。対する相手は昨夏の準優勝校である明秀学園日立。しかし対戦前、常磐大高に再びアクシデントが襲う。ここまで力投を見せていた川野邊の指に1センチの大きなマメができ、投げられない状態となってしまったのだ。

 海老澤監督は当初、川野邊に投げさせるつもりはなかった。しかし、「これで頑張ればエースになれると思ったんでしょう。私に志願をしてきましたので、いけるところまでという判断で先発起用を決めました」

 破壊力ある明秀学園日立との試合は当然、打ち合いになることが予想された。1回表、ワラスが満塁ホームランを打って4点得点。幸先よく先制したが、先発の川野邊はその裏、二死まで打ち取ったものの連続四球、そして安打を打たれて満塁のピンチを迎え、押し出し死球と適時打で3点を失い降板。投手が代わった後も、勢いづいた明秀学園日立打線を止めることができず、初回に7点を取られてしまう。反撃したい常磐大高は、4対8で迎えた6回表に田崎が2ラン本塁打を放ち6対8と2点差に迫ったが、反撃及ばず準決勝敗退。あと一歩で関東大会出場を逃してしまった。だが、主力投手が2人抜けながらも準決勝まで勝ち進んだことは、大きな自信となった。エース・平野、田崎が復調すれば、優勝を狙えると手ごたえを掴んだ大会にもなった。

主力選手が語る春へ向けての課題 

竹川 大稀選手、石川 大悟選手、ワラス 開智選手、田崎 誠也選手(常磐大高)

 春は関東大会出場、夏は甲子園出場を目標に置いている常磐大高ナインにとって、現在課題としていることは何だろうか?選手に伺ったところ、1人1人がしっかりと答えてくれた。主将の益子は「守備面で乱れて投手を盛り立てることができなかったので、キャッチボールのときから実戦を意識したキャッチボールを行っています」と語る。海老澤監督も、「やはり守備が大事となってきますので、グラウンドではノックが中心。選手たちはストレスがたまる練習だというのですが、我慢しながらやっていくことが大事です」と地道に守備力を鍛えている方針を明かしてくれた。

 チームの目標実現に対して、秋は故障で投げられなかった平野に対する期待が大きい。平野はリハビリ期間で自分のフォームを見つめ直し、下半身を中心に鍛えて、体全体で投げられるフォーム作りに取り組んだ。新フォームには手ごたえを感じており、故障も少しずつ癒えている。この冬、現在のMAXである135キロから145キロまで速くすることを目標にしながらも、コントロール重視の投球をすることには変わりない。

「やはり常総学院や明秀学園日立のような強豪校を抑えるには内外角に出し入れができるコントロールが大事ですし、変化球の切れ、精度も大事になってきます。僕がモデルにしているのは金子 千尋投手(オリックス<関連記事>)。金子投手のような投球ができれば理想です」と目標の投手像を掲げながら、レベルアップに励んでいる。

 正捕手の石川は、「平野は僕のサインを首を振らず投げてくれる投手で、コントロールは良い投手ですし、組み立てがしやすい投手です。僕は平野のことをとても信頼しています」と期待を込める。また攻守の中心である石川は自身の課題についてこう語った。「打撃は田崎、ワラスと比べると打率も低かったですし、本塁打も打てなかった。もっと打率を高めて勝負強い姿を見せていきたいです。捕手としては、ピンチの時にテンパってしまい、精神力の弱さが秋に出てしまいました。春までに、ピンチでもしっかりと投手を支えていける強さを身につけたいです」

 そのために視野を広く持てる選手になろうとしている。秋は主将の益子に頼りすぎたところがあった。「副主将なのに、自分は選手と一緒に動くところがありました。そうではなく、これからは周りを見て、指示を出したり指摘したり、激励ができる選手になっていきたいです」と副主将として自覚を持つことを話した。

 また昨秋、県大会で2本塁打を放ったワラスは「狙い球を逃さない確率を高めて、もっと本塁打を打っていきたいです」と意気込みを語った。またワラス同様県大会2本塁打を放った田崎は、投手としての復帰を目指しつつ、現在ショートの練習にも励んでおり、選手としての幅を広げる取り組みを行っている。

2017年は常磐大高の年に!練習風景(常磐大高)

 そしてチーム内では、五十畑 亮汰、竹川 大稀の1年生コンビに対する期待が高くなっている。海老澤監督に、2人についての評価を聞いてみた。「彼らは小山ボーイズ出身で、2015年のジャイアンツカップではクリーンナップを打ち、ベスト4に導く活躍を見せました。さらに竹川はU-15代表をしていた選手です。多くの学校から引く手あまただった2人ですが、ご縁もあって、わが校に来ていただきました。竹川は秋では2番を打ちましたが長打力がありますし、いずれはクリーンナップを打ってほしい選手です。4番を打つ五十畑は一発を打つ長打力がありますし、右打者でありながらライト方向へロングが打てる選手。穴も少ないですし、他校からすれば怖い打者でしょう」

 1、2年生に能力が高い選手が揃い、さらに目的意識をもって取り組んでいることが伺える。最後に今年の夏にかける益子主将の熱い意気込みに注目していただきたい。

「秋は準決勝で敗れ、あと一歩で関東を逃しました。うちでは、質のある練習にするために1つ1つの練習に時間を区切って練習をしています。そのためこの冬は無駄な時間を減らすために、練習と練習の間の時間の無駄をなくすことにこだわって、さらに質の高い練習に取り組んでいます。その積み重ねで、春は関東大会出場、そして優勝。そして夏は絶対に甲子園出場を決めたいです!」

 常磐大高が茨城大会決勝に進んだのが10年前。常総学院に3対8で敗れ涙をのんだ。ここから地区予選敗退する苦しい時期もあったが、それを乗り越え、決勝敗退から10年後となった、まさに節目といえる年に常磐大高は再び甲子園を狙えるチームに成長した。「今の最上級生は、僕の指導方針が最も浸透した世代です」と海老澤監督が話すように、海老澤監督とともに歩んできた最上級生たちが、2017年を常磐大高の年とする。

(取材・文=河嶋 宗一)

オススメ!第89回選抜高等学校野球大会特設サイト