「彼氏はいるけれど結婚したいのか、したくないのか自分が分からない」「相手のことを大好きだと言える確信が持てない」「自分にピッタリな人に出会えない」ーー仕事はバリバリこなせても恋愛ごとになると自信を失ってしまう、そんな女性が多いようです。

そこで、以前『友達のフェイスブックにイライラするのはなぜ? 脳科学者と心理学者が解説する「嫉妬」と「妬み」の正体』で悩める女性に助言をいただいた、脳科学者・中野信子さんに再び解決策をお聞きしました。

恋愛はただ好き、心が動く、という感覚が動かしているというのが当然だと思っている人が多いでしょう。でもそこには心ではなく、体と現代の文化が私たちを揺り動かす要素が詰まっていたのです。

みなさんの初恋はいつでしょうか? 幼少期なのか、中学生になってからなのか。誰かのことを好きだと自分の気持ちに気付いたその日から、世界は輝きだしていたと思います。人に優しくなれたり、おしゃれをするのが楽しかったり。

ただこの恋は脳科学の面から推理していくと、ただの“現象”に過ぎないというのです。だとしたら、失恋時の悲しい気持ちもぜんぶきれいに消化することができる……?

脳科学者である中野信子さんにお話を聞きました。

脳科学者の中野信子さん

恋愛はかつて「貴族の遊び」だった 

ーー前回、「近年は恋愛の基礎になる教科書がない。恋愛を頑張って行なう必要性が彼女たちにはない」というお話を聞いてから「好きになって、付き合って、結婚する」という恋愛を思い描くのは、時代遅れという気がしてきました……。

むしろ、それは新しい考え方なんですよ。日本でも結婚制度ではお見合いが当たり前でしたよね。恋愛結婚が始まったのは戦後からでしょうか。海外のお話ですが、ルイ王朝時代までさかのぼると、結婚をした後に恋愛が許されるという時代もあったくらいです。

結婚は家の財産を守るための手段であり、共同経営者を探すようなものですよ。そして恋愛は貴族の遊び。高次なものです。しなくても生きていけるし、無理にすることはない。

ーーそこまで話のスケールが壮大になるとちょっと想像の範疇から離れますよね(笑)。では、脳科学の面から考えていくと……恋愛とは?

快楽のスイッチの一つです。まず、人間のやる気スイッチと言われるドーパミン*が出てきます。その興奮性や快楽に対して、恋愛という名前をつけて楽しむ感覚が恋愛です。次にこの人は仲間で大事にしようとする気持ちが生まれて、愛情ホルモンと言われるオキシトシン*という物質が出てきます。

最終的に人間はその「好きだ」と思った相手と一緒にいられるように頑張るのですが、ただ楽しむだけということを考えると、アイドルや韓流スターを見て追っかけているほうが充足度は高そうですよね(笑)。

*ドーパミン……快感、やる気を司ると言われている神経伝達物質。
*オキシトシン……脳下垂体後葉から分泌されるホルモンの一種。別名、幸せホルモンと言われることも。

恋愛が充実すると太る傾向にある?

ーーでは、個人差があるとはいえ、楽しさを感じたときに脳に良い効果はあるのでしょうか?

うーん、あるかなあ(笑)。女性ホルモンが増えて肌がきれいになるとか、瞳孔が開くようになるから目が大きく、キラキラしてくるので外見がきれいに見えるメリットはあるようですね。あと、恋愛初期は痩せます。

ーーそれは朗報です。

初期はドーパミンによる興奮が続くから痩せるんですよね。でもそのまま時間が過ぎていくと、オキシトシンが強く出るようになるので太るリスクは高まります。要はマンネリ時期のことです。

ーーそれは……悲報ですね……。では太らないようにするためにはどうしたらいいんでしょうか?

難しいことですが、ずっと初期のようにときめいていないといけないですね。例えば、会う頻度を減らして新鮮さを失わないように努力してみるとか。語弊はあるかもしれないけれど、そういうゲーム性みたいなものが恋愛の楽しさでもあります。

ーー近年は、恋愛や結婚をしなければ「負け」という風潮もありますが、本来はゲーム性がある娯楽が恋愛であって、本来は人生で最重要事項ではないと。

恋愛は「してもしなくても同じ」「ゲーム性のあるもの」と言われたらプレッシャーは減りますよね。(恋愛が)できない、しないという人は、人生の落伍者でもなんでもありません。劣等感なんて感じる必要はまったくないのです。

恋愛は成長過程のひとつで、勝手に“みんながするもの”という先入観が植えつけられていた人も多いのではないでしょうか。でも実はもっとオリジナリティに溢れていていいもの。ちょっと考え方をゆるめてみたら、あなたが抱えていた悩みは解決に向かうのかも。

次回は若者たちの絶対的コミュニケーションツール「SNS」が恋愛に及ぼした影響についてお話を聞きます。

小林久乃