107話はこんな話


潔(高良健吾)は、栄輔(松下優也)が持ちかけたオライオンとエイスの合併案を断る。


さくらとおリボン


君枝(土村芳)の描いているデザイン画におリボンを描き加えたさくら(井頭愛海)。
さくらは幼いころ、すみれ(芳根京子)がセーターにおリボンを編み込んでくれたものを気に入って大切に着ていたっけ。
「お父さんとお母さんのどこが好きなの?」と聞いた話を覚えてなかったさくらだが、おリボン愛の記憶はカラダに染み込んでいたのだろう。
そして、紀夫(永山絢斗)に「お父さんとお母さんのどこが好きなの?」とさくらが聞いた話を語られた場所は、さくらに聞かれてどこが好きかすみれと紀夫が答えた場所と同じ、キアリスの前の道だった。
こんなふうに丁寧に記憶を積み重ねていくドラマ「べっぴんさん」。
さくらは家族の愛情の思い出をたくさんもった幸せ者だ。
キアリスでバイトして、いろいろなことを知ったさくらは、五月(久保田紗友)をキアリスで雇ってあげてほしいと言う。人のことを考えられるまでに成長したのだ。

五月のこれから


明美(谷村美月)から五月が「妊娠してるんや」と聞いた栄輔は、ヨーソローで演奏中の二郎(林遣都)を見る。このときの目線がじつに饒舌に、彼の感情を語っていた。

エイスだって荷物もって働く以外の仕事もいくらでもありそうだけれど、すみれが「お腹が大きくなってもうちならお客さんも好意をもってくれる」と言うのは、たしかにそうで、若者服の店員よりも、赤ちゃん用品の店員のほうがいまの五月には合っていそう。
「絶対に忘れへん、こんなに優しくしてもろうたこと」とかつてない愛情に感動する五月。いままでどれだけ孤独だったのか、と思うと、ほんとうに良かったなあと思う。

やっぱり潔さんはかっこええなあ


エイスとオライオンの合併を「断らせてもらいます」と潔が言ったあと、建物の外のノイズが入り、それが栄輔の心情と重なる。
それにしても、合併というほど大きな話しだったのか。しかもオライオン、いま業績が不安定らしい。潔は本当にそういうことを口にしない。
「一足飛びの実感のない前進なんで前進やない。成功に苦労はつきもんや。苦労した分だけよろこびも大きくなるとわしは信じてる」とか「(目標は)先代の思いを引き継ぎ守ること。社員と家族が幸せであること」「一生を楽しく生きることです」とか「肌で感じて仕事がしたいんです」とか「(好きで世話していた栄輔が)あないにでっかくなった。うれしいやないですか」とかどこまでもでっかい男だ。栄輔が部屋を出て行くとき、ちゃんと頭も下げる礼儀正しさもあるし。

一方、目標は「日本中の男をおしゃれにすることです。これからの時代の男になりたい。それがわしの成功です」と言う栄輔は、「我々が進もうとしているのはどこまでも違う道ですね」と去っていく。どこまでも潔には叶わないことがよくわかっているのだろう。「やっぱり潔さんはかっこええなあ」とつぶやく。
栄輔は、すみれとさくらの一番になれなかったことで、男としてのコンプレックスを抱えてしまったのだと思う。

そして、玉井(土井ドンペイ)は「たった3分でおわりですやん」「行くときは行かなあかんねん」となんでそんなにイライラしてるのか。このひとも負けっぱなしの人生で、気持ちの落としどころを見つけられないでいるからに違いない。
栄輔も玉井も、この囚われた気分から早く解放されてほしい。
(木俣冬)