ゼロ年代の日本の格闘技界では、会場(ならびにテレビ)で流れる「煽りV」と呼ばれる映像がファンからの注目を集めていた。もはや、試合とは別の見どころとして成立していた人気コンテンツ。

こうした映像では、大言壮語を吐ける選手が絶好の被写体となる。立ち技系では、世間からの衆目を集めるためキャラに徹して憎まれ口をたたき、試合への注目度を高めていった“反逆のカリスマ”魔裟斗がいた。
そして総合では、歯に衣着せぬ発言を連発して我々の興奮度を高めていった五味隆典がいる。「判定? ダメだよ。KOじゃなきゃ」「俺にはわかる。夜も寝れねえはずだ」といった語録たちは“火の玉ボーイ”の異名にあまりにふさわしく、それでいて試合はスカ勝ちの連続。どれだけ、我々が興奮のるつぼへと叩き込まれたことか。

魔裟斗の体がパッキパキ!


本日、TBSで放送される『史上最大の限界バトル KYOKUGEN2016』にて、元K-1世界王者・魔裟斗と元PRIDE世界王者・五味隆典の一戦が完全生中継で放送される。
魔裟斗は昨年に山本“KID“徳郁との再戦に勝利し、今年は同番組へ二度目の出場。一方、五味は2009年における魔裟斗引退試合の相手として取りざたされるも実現には至らなかったという経緯がある。

そんな2選手による前日計量が、昨日にTBSで行われた。










結果、五味隆典は74.9kg、魔裟斗は74.8kgという体重で、契約体重の75.0kgを当然クリア。
五味の方は現役バリバリなので言うまでもないのだけど、魔裟斗の体もパッキパキ!


魔裟斗の魔裟斗たるゆえんを感じた気がします。

「今まで総合の選手とやって全部負けてない。でも五味選手は、これまでで打撃ナンバー1」(魔裟斗)


ここからは、両者別々に囲み会見が行われました。まずは、魔裟斗から。


──前日計量終えて、今の気持ちを教えていただけますか?
──前日計量終えて、今の気持ちを教えていただけますか?
魔裟斗 まあ、もう調子いいんで。今年の8月から(準備を)始めて、途中辛かったですけどもようやくここまでたどり着いて、ケガもなく、コンディションもベストなんで。後は明日やるだけだって感じです。
──昨年に引き続き大晦日のリングに立つということになったんですけど、決めたきっかけはございますか?
魔裟斗 去年やって「格闘技、好きだな」って自分で再確認したっていうことが一番大きいですね。後は今日気付いたことなんですけど、18歳でデビューして20週年なんだと(笑)。20週年を迎えられて嬉しいなと。
──じゃあ、20週年は是非とも勝利で。
魔裟斗 そうですね、はい。
──魔裟斗選手から見て、五味選手は?
魔裟斗 同じ時代に、僕がK-1を代表して、彼はPRIDEを代表してきた選手なんで「闘ったらどっちが強いのかな?」と思ってたファンの方も多いと思うんで。それが明日実現するんで、僕もすごく楽しみにしています。
──明日の試合、どの辺りがポイントになると思いますか?
魔裟斗 パンチでアグレッシブに来ると思うんで、パンチをもらわないことかなと。
──全国の格闘技ファンに向けて、明日の試合の意気込みをお願いします。
魔裟斗 この試合に向けて半年間、五味選手と闘うことを考えて生活してきました。コンディションはバッチリで、最高の試合をするんで楽しみにしていてください。がんばります。


──すごい体を作ってきたと思うんですけど、体の出来自体はいかがですか?
魔裟斗 いや、もうかなりいいですよね。去年も良かったですけど、ほぼ完璧に近いですね。この2日間は全く動きもしなかったですし、体の疲れもとれて。体脂肪が低いほうが動きはキレるんで、なるべく筋量・パワーは落とさず絞ってきました。
──五味選手を間近に見て、どんなことを感じましたか?
魔裟斗 本当、体格は同じくらいだなと。まあまあ、全然やりやすいかなと。
──殺気は感じましたか?
魔裟斗 いや、特に。
──裏番組でも格闘技があるんですけど、そちらは意識されていますか?
魔裟斗 いや全然、これは別物ですから。はい。
──今、キックボクシングやK-1が盛り上がっていますけど、そちらの最前線に戻りたいという気持ちは?
魔裟斗 いや、それは「世界のトップを目指せ」と言われたら無理なんで。やるんだったら世界のトップを目指さないと意味ないんで、そこは目指さないです。目指せないですから。でも、その幻想を作るのは大事なことかなと思います。フフフフ。
──明日、自分のここを見てほしいという部分はございますか?
魔裟斗 う〜ん。まず、入場した時の体を見てほしい。37歳ながらがんばってるなというところを(笑)。明日は5Rなんですけど。5Rやるのは最後の引退試合ぶりなんですけど、たぶん5R行っても大丈夫だと思うので、しっかり準備してきたというところをみんなに見てもらいたいですね。
──現役時代、PRIDEは意識されてましたか?
魔裟斗 いやあ、全然別物だと思ってたんで。ただ、僕は総合格闘技の選手と4〜5戦やってますけど全部負けてないんで、今回も大丈夫だろうと思ってます。(コメントを終えて帰りかけるも立ち止まり)……あ、でもアレですね。総合格闘技の選手で言えば、打撃は今までやってきた中でナンバー1とは思ってます。

「俺がRIZINで一番意識してたのは神取さんだった」(五味)


続いて、五味隆典の囲み会見を。


──前日計量を終えて、今の気持ちを教えていただけますか?
五味 今の気持ち……どうかな? 早くごはん食べたいな。まだ食べてないんで。
──約10年ぶりの大晦日の闘いになると思うんですけど、大晦日の闘いで意識していることはございますか?
五味 こういった機会を与えていただいたのは、すごくうれしいですけどね。対戦相手は魔裟斗選手ということで、悔いなくやろうと思ってます。
──五味選手から見て、魔裟斗選手はどういう選手ですか?
五味 う〜ん、ファイターですよね。この年齢になってもやるんですから、試合が好きなんでしょう。根っからのファイターという感じですね。まあ、お互い様ですけど。
──五味選手から見て、明日の試合のポイントとは?
五味 今できる、今の年齢でできる精一杯のことを全力で二人でやれたらいいんじゃないかと思ってますね。でね、判定決着ないんですけど、それを狙ってたら簡単に倒されちゃうと思うんで、あくまでもKO狙いにいってそれでやられる分にはいいですし、テレビ、会場で観てくれる人に楽しんでもらえるような試合をしたいですね。記憶に残るようなね。
──明日の試合に向けて、全国の格闘技ファンに一言お願いできますか。
五味 目一杯、全部出すつもりやるので楽しみにしてください。
──今回のオファーを受けた理由は?
五味 UFC200の大きな大会に出て、まぁ結果は出せなかったんですけど、新しいことにチャレンジするのもいいかなっていうのもありますし。この年で新しいことにチャレンジできるっていうのもすごくいいことだし。今、練習の中心がボクシングや走り込みが中心だったので、やってみてもいいんじゃないかと思ったんですね。
──魔裟斗選手が現役時代の頃は、意識はされていましたか?
五味 格闘技を引き上げていた選手ですからね、中量級K-1という舞台でね。まあ自分は総合という舞台だったので、打撃と総合両方盛り上げてたんじゃないですかね。両方行き来すればいいかってもんでもないし、実際、KID選手のようにやられた選手もいますしね。
──魔裟斗選手が引退試合をする時に、一回五味選手が名乗りを上げたことがあったじゃないですか。その時に実現しなかったから、今回受けたっていう理由も?
五味 ん、ナニ(笑)!? え〜とねえ、いや、もうその時は俺は日本の格闘技に興味なかったんで、うん。まあ、また格闘技が盛り上がってきたところで、魔裟斗選手も2年連続でやるっていうので(魔裟斗と闘う)最後のチャンスでしょうし。俺も、これだけの最高の舞台で全力出せればそれでいいと思ってるので、明日思い切ってやってみて先のことはそれからですね。
──3分5Rはなかなか経験がないと思うんですが、それについての不安はありますか?
五味 う〜ん、やっぱりルールに制約が出るほどキツいのはありますよね。特にね、蹴りは俺が一番苦手なところでもあるから。インターバルはムエタイと同じで2分ですか。そういった意味で、制約があって逃げ道のないキックボクシングの選手は尊敬しますね。総合は自分がやってきたことだから休みどころもわかるし、攻められてても休みどころってあるしね。そういったものが全く真逆になるんで、ちょっとしんどいですけどね。まあ、条件は全く一緒ですから、やれるだけ思い切ってやりますよ。
──大晦日は、やっぱりKOですか?
五味 う〜ん(熟考して)……まあ全力出して、全部出すってことですね。


──格闘技が盛り上がってきて、かつて五味さんが死闘を繰り広げたマッハさんや川尻さんが同じ日に別のリングではありますけど闘います。そういったところは意識するというか刺激をもらう部分はありますか?
五味 うん、とにかく総合の選手は元気ですよね。年齢層もすごい高いし。だから、38歳で「現役じゃない」とかね、そういうことはあんまり言いたくないしね。もちろん、魔裟斗選手が頂点極めた選手っていうのはありますけどね。まあ、総合の選手はとにかくタフ。俺が一番、RIZINの方で意識してたのは神取さんだったから。
(報道陣 笑)
五味 本当、期待してたから俺! (神取が欠場したのは)ちょっと残念だし。52歳っていうね、ケガとか事故がなきゃいいなと思ってたくらいだから、ちょっと残念だったんだけど。(山本)美憂さんだってそうだろうし……すごいよね40代50代、俺まだ30代だから。まあ今回いい試合して、来年も盛り上がってたら来年も総合で出れるようにがんばりますよ、うん。とにかく、悔いなく全部出し切ろうと思ってます。

一度引退した魔裟斗にかつてのようなビッグマウスを期待するのは違うと思うのだが、立ち技にチャレンジする五味からも挑発的なセリフを引き出せず。「大晦日はKOですか?」という記者からの質問は、おそらく「スカ勝ちですね」の回答を期待したものだろうけど、五味から返ってきたのは「全力を出す」という言葉であった。また、現在の五味が年齢を強く意識していたのも印象的であった。
とは言え「全部出す」「記憶に残る試合をする」と語ってくれているので、エキシビジョン的なものには決してならないはず。会見後、関係者にルールを細かく再確認する五味陣営の様子からも真剣味はありありと伝わってきます。


一方、魔裟斗の真剣味は言わずもがな。彼の体を見れば、全てを察することができるでしょう。

年齢を強く意識していた両選手でしたが、この2人、同学年です。
(寺西ジャジューカ)