思わず無駄にハンドルを切りたくなる4WSを初搭載

今では消滅してしまったが、ホンダを代表するミディアムクーペというか、スペシャリティカーがプレリュードだ。当時スペシャリティカーとはいい換えればデートカーとも呼ばれ、実際にバブル時期にはライバルのS13型シルビアともども、女子大生を乗せてデートしているのが街のあちこちで見られたものだ。

クルマとしては、ただ軽薄なだけではない。斬新なメカ満載で、電動サンルーフやABSなどを他車に先駆けて採用。

2代目では世界初の4輪ダブルウイッシュボーンとして、走り好きの度肝を抜いた。

そして斬新な技術の真骨頂が、3代目プレリュードが採用した、4WSだ。4WSとは、四輪操舵のことで、つまりすべてのタイヤが切れるというもの。素人考えでも、全部の車輪が切れたらいいのでは、などと思うものだが、それを実用化したホンダは凄かった。もちろんプレリュードが世界初である。

ちなみにマツダもカペラに採用し、4WS戦争とまで呼ばれたほど。ただし1カ月ほどの違いで世界初を逃している。ただ、こちらは電子制御で、その後の4WS勢はホンダも含めて電子制御化しているので、先見の明はあったといっていいかもしれない。

逆をいうと、プレリュードに最初に採用されたのは、なんと機械式の4WSだった。リヤを操舵するためには、当然のことながら長いシャフトが必要。フロントのステリングギヤボックスから、センターシャフトを後ろに設置したギヤボックスにとおすという荒技が採用された。

その動きも大胆で、目に見えて切れているのがわかるほど。イメージとしては「ぴょこん」といった感じで、突然大きく動くのが特徴。しかも最初はフロントと同じ同位相で、途中から逆位相に転じるという複雑な動きを機械式で成し遂げていたのはさすがホンダ。当時のクルマ好きは、無駄にステアリングを切って、自慢したものである。

ただし、4代目で電子制御へと移行。

さらに5代目ではデフで左右のトルク配分を変えて曲げやすくするATTSが登場し、4WSは消えてしまった。

他社では日産のハイキャスなどがあったが、飽きっぽいのもまたホンダの特徴といったところだろうか。

(文:近藤暁史)