長谷川健太監督の狙いは明白だ。球際の競り合いで無類の強さを発揮し、ハードワークをも身上とする今野と井手口で浦和ボールをもぎ取り、乾坤一擲のカウンターを発動させる。槙野の強引なドリブル突破を遠藤が止め、こぼれ球を今野がゲット。再び遠藤からアデミウソンへつなぎ、自陣から実に60メートルものドリブル突破の末に西川の牙城を破った17分の先制ゴールは、まさに青写真どおりだった。

 その後もしっかりとブロックを作り、浦和を焦れさせ、あわよくばカウンターから追加点を奪おうと誘いこむG大阪が、ボールを相手に持たせながら優位に試合を進める。浦和を支えたのは「必ずチャンスが来る」と檄を飛ばした男たち。それが鹿島アントラーズ時代に6個ものタイトル獲得を経験しているFW興梠慎三であり、リスクマネジメントを徹底した遠藤航を中心とする最終ラインであり、槙野をして「持っている男」と言わしめた李忠成だった。

「ミシャには『点を取って来い』と言われました。あのコーナーで取れる感じがしたので、待っている時にレフェリーを呼んで、自分から『今、ここで代えてくれ』と言いました。ボールが来い、来いと思うよりも、ボールが来る、来るという感じがしたので」

 ゴールだけでなく大会MVPをも獲得した李忠成が、有言実行とばかりに言葉を弾ませる。そして、振り出しに戻った試合は、15分ハーフの延長戦に入っても一進一退の展開が続く。迎えた後半終了間際。G大阪がビッグチャンスを迎える。途中出場のMF藤本淳吾の縦パスに同じく途中出場の呉屋が抜け出し、ペナルティーエリアの中で体勢を崩しながら右足を振り抜いた。

 強烈な弾道はブロックに飛び込んできた遠藤の股をかすめ、微妙にコースを変えて右ポストに命中。真横にコースを変えて、ゴールライン上を転がっていく。カバーしていたDF森脇良太は胸中に「思い」と「願い」を交錯させながら、必死にボールを追った。

「頼むから入らないでくれという必死な“思い”と、相手が詰めて来ないでいてくれという“願い”で必死にかき出しました。ライン上のホントにギリギリでした。あれを危機一発と言うんでしょうね。追加副審さんがしっかりと見ていてくれました」

 アデミウソンに代わって投入されていた長沢は、わずかに詰め切れなかった。同大会の準決勝から導入されている追加副審(AAR)もライン上を凝視し、ノーゴールを確認している。昨シーズンのチャンピオンシップ準決勝は、同じく延長後半の終了間際にDF丹羽大輝のバックパスがG大阪ゴールの左ポストに当たり、そこから仕掛けられたカウンターから最後はDF藤春廣輝に決勝ゴールを決められた。

 ほぼ同じ時間帯で決勝点を献上しかねない絶対的な窮地を、守備陣の踏ん張りで脱した。この森脇も、広島と浦和で4シーズンずつペトロヴィッチ監督に師事している。だからこそ自ら「俗に言う勝負弱い浦和レッズ」と位置づけた昨シーズンまでのチームを乗り越えた先につかんだタイトルの価値は分かっている。

「素晴らしい監督であることは間違いないんですけど、タイトルを取れなかったことで若干それが薄れるし、周囲が見る目も違ってくる。ここまで積み上げてきたレッズのスタイルは、監督も含めてもっと称賛されておかしくない内容だと思うし、だからこそ自分たちに足りないのは、あとはタイトルだけだった。これを機にレッズが殻を破ることができるというか、いい戦いをしながら最後の勝負どころでことごとく負けてきた過去を払拭したことで、次のタイトルというものにより近づけたのかな」

 両チームのサポーターの歓声と悲鳴が交錯したPK戦。トレードマークの笑顔を一時的に封印し、呉屋のPKを弾き返して雄叫びをあげた西川もまた、大分トリニータから2010シーズンに移籍した広島で、ペトロヴィッチ監督の下で新境地を開拓した。