クラブとしては2007年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)以来となるタイトル獲得。だが、歓喜の輪の中心に誰よりも早く飛び込もうと、無我夢中でピッチを駆けていった浦和レッズMF柏木陽介は違和感を覚えた。

 どう見ても人数が少ない。悲願のタイトルを手にしたというのに、いったいどうしたのか。振り返ると、メンバー入りした選手の半数近くがベンチの前で狂喜乱舞していた。

「(PK戦で勝負を決めた)シュウちゃん(西川周作)とワタル(遠藤航)をほったらかしにしたら、それは失礼やろ」

 埼玉スタジアム2002で行われた2016JリーグYBCルヴァンカップ決勝。延長戦を含めた120分間の死闘は1−1のまま決着がつかず、もつれ込んだPK戦の末に浦和が5−4で宿敵・ガンバ大阪を撃破した直後の、ちょっと“稀有”な光景に柏木は思わず我が目を疑った。

 PK戦でG大阪の4人目、ルーキーFW呉屋大翔のPKを右足で止めたGK西川、そして最後の5人目として登場して、冷静沈着に相手GK東口順昭の逆を突くキックを決めた右隅に決めたDF遠藤航。PK戦のヒーローの周囲に集まってこなかった浦和の選手たちはその時、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の下に殺到していた。

 ピッチに投入された76分に、ファーストプレーで柏木の右CKに頭を一閃。起死回生の同点ゴールを叩き込んだFW李忠成も、PK戦の決着を見守っていたセンターサークル付近から、気がついた時には「ミシャ」の愛称で親しまれる58歳の指揮官を目指していた。

「それがミシャの偉大さじゃないですかね」

 決勝を前に、右肋骨の骨折を押して強行出場するキャプテンのMF阿部勇樹が「ゴールに対して貪欲になるな。MVPを狙いに行くな。いつもどおりの自分たちで、いつもどおりの戦いをしよう」と檄を飛ばした。もっとも、DF槙野智章は「ただ一人、それを無視した選手がいた」と苦笑しながら舞台裏を明かす。

「ゴールを取りたい、MVPになりたいと言ったのがチュンくん(李忠成)なんですね。僕より先輩ではありますけど、『何でこの人、分からないんだろう』と思いました。でも、やっぱり“持っている男”ですね。交代で入ってきた時の目つきと放たれるオーラは、見ていてすごかった。やっぱり口は出すものなんだなと、改めて思いましたよ」

 李忠成が初めてペトロヴィッチ監督の薫陶を受けたのが、出場機会を求めて2009シーズンの途中に柏レイソルから完全移籍したサンフレッチェ広島。その後にサウサンプトンFC、FC東京を経て、2014シーズンに完全移籍で加わった浦和で再会を果たした。

「ミシャには恩があるし、自分がサッカー選手でいられるうちに彼と出会えたことには本当に感謝している。その彼が2006シーズンに来日してから、一つもタイトルを取っていなかった。初めてタイトルを取った浦和レッズの一員として、この舞台に携われたことは自分にとっても幸せに思う」

 勝てばリーグ優勝が決まった2014シーズンのJ1第32節。昨シーズンの明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ準決勝。そして今年元日の第95回天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝。大舞台でことごとく煮え湯を飲まされてきたG大阪との因縁対決は、下馬評ではセカンドステージと年間総合順位でともに首位を走る浦和が断然優位と予想されていた。

 実際、10月1日に同じ埼スタで行われたセカンドステージ第14節では、浦和が4−0でG大阪を完膚なきまでに叩きのめしてもいる。しかし、いざフタを開けてみれば、G大阪は2週間前とはまったく異なる、“肉を切らせて骨を断つ”戦法で主導権を握った。

 1トップにはパトリックでも売り出し中の長沢駿でもなく、槙野が「今現在のJリーグで最も縦への切れ味がある」と警戒すアデミウソンを配置。トップ下には百戦錬磨のベテラン、36歳の遠藤保仁が入り、今野泰幸とニューヒーロー賞に輝いた20歳の井手口陽介をボランチで組ませた。