平日はデスクワーク、週末は家でゴロゴロ...。運動不足を認識していても、一人でウォーキングに出かけるのは億劫だ。では、愛犬と一緒ならどうだろう。

必要な運動量を満たせる

一般社団法人ペットフード協会が毎年実施している全国調査によると、犬と猫の推計飼育数は、2015年10月時点で犬992万匹、猫987万匹と、犬がやや多い。しかし過去5年間のデータを見ると、2011年に1200万匹だった犬の飼育数は年々減少傾向にある一方、猫は増加傾向に。このペースで行くと、次回には調査開始の1994年以来、初めて猫に抜かれるかもしれない。

犬を飼うにあたり、ネックになるのが散歩だ。飼い主の高齢化に伴い負担が大きくなっていること、単身者でも飼いやすいことなどから、散歩に連れ出す必要がない猫の人気が高まっている。

一方で、犬の散歩はウォーキングの動機づけになるとして、健康効果が期待されている。早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授らが日本人の成人を対象に行った調査によると、犬を飼っている人は、平均で1日1.4回、42.8分、週4.8回、214分を犬の散歩に費やしているという。岡教授は身体活動の推進と座位行動の改善に関する研究を行う中で、犬の散歩に注目し、さまざまな調査を実施している。

別の調査では、犬の飼い主は、ペットを飼っていない人に比べて推奨身体活動量を満たす人の割合が1.5倍だった。また、高齢者を対象にした調査でも、犬の飼い主で散歩をしている人は、飼っていても散歩をしない、あるいは飼っていない人と比べて、推奨身体活動量を満たす人の割合が高いことがわかった。

厚生労働省が策定した『健康づくりのための身体活動基準 2013』では、18〜64歳の推奨身体活動量は、3METs以上の強度の身体活動を毎日60分、週に23METs以上、65歳以上の高齢者では強度を問わず毎日40分以上、週に10METs以上の身体活動を行うこととされている。METsとは運動強度の単位で犬の散歩は3METs、中強度の身体活動に相当する。上述の平均値、1日1.4回、40分強の散歩をしていれば、推奨量の大部分を犬の散歩だけでクリアできる。

散歩だけじゃダメ

犬の散歩の効用は、ほかにも数多く報告されている。米英豪など海外の研究では、犬の飼育や散歩が、子どもの過体重・肥満者の割合の低さや高齢者の歩行速度の維持、心臓病患者の良好な予後、メンタルヘルスの向上など、健康の維持・増進に良い影響を与えていることが明らかになっている。

こうした効用に着目し、米国では過体重・肥満者の減量のために犬の散歩を取り入れる試みも始まっている。

ここまで読んで、定期的に飼い犬の散歩をしている人は、自分がとても健康的な生活を送っているように思えてきたのではないだろうか。

 

しかし、岡教授は「犬の散歩をしているからといって安心はできません」と言う。「散歩で必要な運動量は満たされているからと、それ以外の時間をずっと座って過ごしていては『アクティブ・カウチポテト』と同じ。座りすぎのリスクを減らせるわけではありません」

アクティブ・カウチポテトとは、「運動はしているものの、座位時間が長い人」を指し、1日の推奨運動量を満たしている人でも、長時間座っていることと早期罹患・早期死亡との関連が認められている。

犬の散歩を免罪符に座りっぱなしの生活を続けていれば、運動していない人と同じように死亡リスクは高まる。日中、座っている時間が長い人は、できれば30分に一度、少なくても1時間に1回は立ち上がり、体を動かすことが大切だ。そのうえで、毎日の散歩を自分と愛犬の健康とリフレッシュに役立てよう。[監修:早稲田大学スポーツ科学学術院教授 岡浩一朗]

(Aging Style)