女子アナ。

この響きに、人は夢と憧れを抱く。

美人で知的な高嶺の花というイメージが強く、女性はテレビに映る華やかな仕事に憧れ、そして男性はその一歩奥ゆかしい女性像に憧れる。

永遠に汚れのない純白な存在。そんな妄想像が世の中に浸透しているが、実際のアナウンサーは少し違う。華やかな世界の裏で、笑顔で足を踏みあい、蹴落とし合いながら上を目指す。

そして近年では所謂フリーと言われる、局に属さずに活動するフリーアナウンサーが増加し、一昔前のアナウンサーの人気絶頂時代は終わりを迎え、戦国時代に突入した。

これまでに親友にレギュラー番組を奪われた地方局出身の理香、女子大生という冠が外れると共に仕事を失ったお天気お姉さんの美奈、そして元局アナで後輩のスキャンダルを狙う涼子、アナウンサーという夢を追い続けるCA加代子、以前降板させられたワガママ局アナへの復讐に燃える智子、後輩の嫌がらせで局を去り、パティシエになった絵美を追った。

今週は?




<今週のフリーアナウンサー>

名前:梨花
年齢: 25歳
前のステータス:アナウンサー受験生
出身大学:青山学院大学
年収:約200万円
趣味:自撮り(セルフィー)


試験前から既に始まっているバトル


「それでは、次のクイズです!」

活き活きと楽しそうにMCをしている真奈美の姿がテレビに映っている。2年前にキー局にアナウンサーとして入社した真奈美を、近頃テレビで見る頻度が増した気がする。そんな真奈美の姿を見る度に、梨花は嫌な思い出が蘇る。

大学2年生の時、女子大生が集うミスコンで優勝した梨花は周囲からアナウンサーの道を進められ、本人も将来はアナウンサーの道しかないと思っていた。大学3年生の時に、夏休みに開講されるテレビ局主催のアナウンススクールに参加。数日のスクールだが、そのスクールは深い意味を持っていた。

青田買いの温床だったのだ。

各局にはアナウンススクールがあり、そこで目を付けられると実際のアナウンサー試験の際には“自動的に”一次試験は通過する仕組みになっている。

倍率の高いアナウンサー試験。在京キー局の場合、一次試験の応募者数は約2,000人〜4,000人とも言われている。そこから二次試験に通過するのはわずか数十人。一次試験を通過するのも至難の技だ。その一次試験を“自動的に通過”できることはアナウンサー志願者にとって非常に大きな意味を持つ。

みんな、一次試験を通過するために「アナウンサー試験に強い」と言われる写真館で高い金額を払い、必死に写真を撮っている。そんな他の志願者達に比べて既に一次試験の通過切符を手に入れている梨花は、憧れの局アナへの道は余裕で確定したと思っていた。

真奈美が現れるまでは。


アナウンサー試験の知られざる法則&闇とは...!?


アナウンサー試験の実態


梨花は、真奈美と初めて会った時のことを覚えていない。それほど、ズバ抜けて容姿が良い訳でもなく、アナウンス技術がある訳でもなかった。

アナウンサーを目指す学生達は、大概全キー局を受験する。その中でも、試験が進むにつれて残るメンバーは決まっており、(局の特徴によって若干異なるが)最終試験やその一歩手前になるとほぼ皆顔馴染みになる。

梨花は3つの局で順調に試験を勝ち抜いて行き 、勝利はもう目の前だと思っていた。アナウンススクールで既に“何となく青田買い”されていた、大本命だった局の三次面接の日。そこに真奈美はいた。

「じゃあ、そこにある漢字のパネルの中から好きなものを4つ選んで四字熟語を作り、その四字熟語に纏わるストーリーを3分間で話してみて。」

試験官の指示を受け、漢字一文字が大きく描かれている複数のパネルの中から、梨花は花・鳥・風・月を選んだ。スピーチも、完璧だったと未だに思っている。

そして梨花の次に順番が回ってきたのが真奈美だった。スピーチでは、緊張しているのか上手く話せない。普通三次面接まで来ると皆それなりの実力も容姿もあり、誰が受かっても仕方ない、と納得するメンバーばかりだった。しかし真奈美は話も下手で外見も決して目立つとは言えなかった。




ノーマークだったのに


その試験の帰り道、アナウンサー試験を通じて仲良くなった由香里とカフェで今日の試験の反省をしながら、話題は美奈子のことになった。

「ねぇ、あの美奈子って子のスピーチ見た?何であんなのが残ってるんだろう。しかも初めて見たよね、あの子。」

「うん、でも前に二次試験の時に梨花と話したって言ってたよ。覚えてないの?可哀想に(笑)」

「えー本当?全くノーマークだし、私達のライバルでは無いね。」

「美奈子も酷いねー。まぁ気持ちは分かるけど。 他の局の試験では見たことないし、あのスピーチは酷すぎ。緊張してるとは言え、あれは落ちるね。」

華やかで可愛い由香里は自分に自信を持っていた。彼女も大学のミスコンで準優勝しており、梨花とはライバル関係だったが、馬が合うので試験終わりには二人でお茶をするのが恒例だった。アナウンサーになる人はやっぱり華がないと。そう信じていた。

しかし結果が伝えられた時、梨花は愕然とした。
梨花は落ち、真奈美が受かったのだ。


ノーマークだった真奈美に負けた梨花。真奈美が局アナになれた本当の理由とは...


持つべきモノは凄い親


ハッキリとは聞いていないし、真実は分からない。
実際に、それが決め手だったのかは誰も知らない。

しかし後から聞いた話によると、真奈美の父親はテレビ局に何本もCMを出稿している大手企業の副社長で、母親は元女優だった。結局そうゆう事か...ミスコンに優勝し、アナウンススクールで目をつけられても、勝ち目がない「育ち」という武器。

自信を持っていた梨花だったが、結局全ての局から内定は貰えなかった。あと一歩だったのに...大学3年生の秋、梨花は社会の厳しさを痛感した。




アナウンサー試験を終えて


現在、梨花はアナウンサーの夢が諦めきれずフリーで活躍している。活躍と言っても、たまに依頼が来るレポーターやイベントのMCが主な収入源だ。テレビをつける度に、真奈美を見る度にやるせない思いが込み上げる。

もし自分の親も凄いコネクションを持っていれば、私は今頃局アナになれたのかな...。

親を責めるつもりは全く無い。ただ自分より華も無く、アナウンサー試験では全く目立つ存在では無かった真奈美が悠々とテレビで活躍している姿が未だに許せずにいる。



一緒に真奈美の悪口を言っていた由香里は、真奈美が局アナに内定したと分かった瞬間から手の平を返し、急に真奈美と仲良くなった。

現在、真奈美の局アナコネクションを使って絶賛婚活中だ。

【これまでのフリーアナウンサーの闇】
vol.1:笑顔で原稿を読みながら隣を蹴飛ばす。 元地方局女子アナの過酷すぎるバトル
vol.2:朝番組に出演していた元・女子大生お天気お姉さん。年齢と共に消える彼女達の行く末は...
vol.3:売れたいなら媚を売れ。元人気局アナ、フリー転向後の明暗を分ける生き残り競争
vol.4:アナウンサーになれずCAに。それでも諦めきれないアナウンサーの夢
vol.5:自分より目立つ美女は皆降板させる、傲慢局アナへの密かな復讐劇
vol.6:引きずり落とす敵は身内にいる。女子アナというタイトルを潔く捨てた本当の理由



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