2018年1月に株価指数最高値をつけたアメリカ経済は、近いうちにリセッションに陥る観測が出始め、中国も国家成長期を経て成熟期に突入。「米中二極体制」に一波乱の兆しが表れました。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、銀行の貸し渋りが始まっている日本の現状を伝え、消費税引き上げとオリンピック終了後、2020年以降の大混乱に今から備えるべきと記しています。

日本経済、世界経済に暗雲?

私の一冊目は、『ボロボロになった覇権国家』という本でした。05年の出版。私は34歳でした。この本、簡単にいえば、「アメリカ発の危機が起こって、この国は没落するよ」という内容。当時は、「面白い話じゃのう」とは思っても、「実際に起こるよね」とマジメに考える人はいませんでした。

ところが07年にサブプライム問題が起こり、08年9月、リーマンショックからアメリカ発「100年に1度の大不況」が起こった。予想通りアメリカは没落し、「アメリカ一極時代」は終わった。そして、これも05年の予想通り、中国はこの危機を短期で乗り切り、世界は「米中二極時代」に突入していきます。たくさんの人から、「なぜわかったのですか?」と聞かれました。

自然は、春夏秋冬を繰り返します。一応、春は3〜5月、夏は6〜8月、秋は9〜11月、冬は12〜2月と暦では決まっている。しかし、自然を毎日観察している人は、冬の終わりに春の「兆(きざし)」に気がつきます。春の終わりに夏の「兆」をみつけ、夏の終わりに秋の「兆」を見つける。国際関係とか世界情勢も同じで、ドカンと現象が起こる前に、いろいろな「兆」が出るものなのです。

さて、最近、日本経済や世界経済の先行きに暗雲が見えてきました。いくつかご紹介しましょう。

銀行が金を貸してくれない

まず、日本の話から。最近驚いたのは、水戸大家さんが「破産しました」という動画をアップしたことです。

● YouTubeに今の現状を伝える動画をアップしました

実際は、破産したわけではないようなのですが、かなり苦しい状況みたいです。水戸大家さんは、不動産長者を「大量生産」してきた業界のカリスマ。メルマガ界でも有名で、読者数なんと15万人。私も10年ぐらいおつきあいがあり、水戸大家さんこと峯島さんは、私の本を何回も紹介してくださいました。

なぜ、水戸大家さんは、大変な状態になったのか? 銀行が融資してくれなくなったからだそうです。融資が厳しくなったのは、水戸大家さんだけの話ではなく、「全体的な傾向」のようです。

私は、日本の不動産投資の詳細はわかりません。しかし、現場で日々戦っている水戸大家さんの書かれている内容は信用できます。銀行が融資を減らし、不動産投資が減れば、当然不動産市場の景気は悪化していくでしょう(峯島さんは、すでに相当悪化しているといいます)。それが、経済全体に波及していくこともありえます。

ちなみに、日本経済、近未来にふたつの爆弾を抱えています。一つは、いうまでもなく「消費税再引き上げ」。2019年10月に、現在の8%から10%に引き上げられる予定。消費税が上がれば、当然消費は減ります。消費が減れば、会社はつくっても売れないので生産を減らす。生産を減らすと所得が減るので、消費はさらに下がっていく。

もう一つは、「東京オリンピックミニバブル」の終焉です。2020年7〜8月、東京でオリンピック、パラリンピックが開催される。そして、五輪前に建設ラッシュで景気がよくなり、五輪後にバブルがはじけて景気が悪くなるというのは、極めて普通の現象です。

というわけで、日本経済は、客観的に悪くなる二つの大きな要因があるので要注意ですね。

ところで、不動産投資している方は、水戸大家さんのメルマガがお勧めです。不動産市場の実態がわかりますので、是非ご一読ください。

● 水戸市のサラリーマン大家さん

ちなみに、私は水戸大家さんこと峯島さんが、再起することを信じて疑いません。

金融、経済界の大物が、世界経済危機を警告

次、世界の話をしましょう。最近、金融、経済界の大物が、相次いで世界経済の行方について悲観的な発言をしています。

「トランプ大統領が貿易戦争に向かって行進する中、私は市場の慢心に驚いている」と、クルーグマン教授はツイッターに投稿。「トランプ氏が行くところまで行って、世界経済を壊すのかは分からない。しかし、相当な可能性があるのは確かだ。50%? 30%?」と続けた。

(ブルームバーグ 6月20日)

クルーグマンさんは、08年にノーベル経済学賞を受賞した方。トランプの仕掛ける貿易戦争が世界経済を破壊することを恐れているそうです。その確率は、50%?30%?

トランプさんの貿易戦争、本当にバカげています。これについて、「アメリカは、中国と覇権をかけて戦っている」という人がいます。しかし、彼は、中国だけでなく日本、欧州もターゲットにしている。もし彼が「中国をつぶしてアメリカの覇権を守る」と決意しているのなら、日欧は、味方につけておかなければならないでしょう?

サマーズ氏は世界の主要中央銀行はインフレを抑制するためだけの利上げには慎重を期すべきだと指摘。同氏は19日、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで「景気減速というのは起こるものだ」とし、「それが起こる時は、金利を500ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き下げるというのが通常の戦略だが、そのような余地はなさそうだ」と話した。

(同上)

サマーズさんは、90年代末から新世紀はじめにかけてアメリカ財務長官だった人。その後は、ハーバード大学の学長。オバマさんの時代は、国家経済会議(NEC)の委員長だった。サマーズさんは、アメリカの利上げを問題視しているようです。利上げの問題とはなんでしょうか?

皆さん、お金、金利の低いところにおいておきたいですか? 高いところにおいておきたいですか? もちろん、高いところですね。アメリカが金利をあげると、新興国から資金がアメリカにむかって流出していきます。すると、新興国で通貨危機、金融危機が起こりやすくなる。デービッド・ローゼンバーグさんは、「アメリカは、1年以内にリセッション入りする可能性がある」と、具体的です。

米国は1年以内に景気後退入り、株価ピーク過ぎた-ローゼンバーグ氏

ブルームバーグ 6/22(金)7:30配信

 

S&P500種株価指数が1月に最高値を付けた時が強気相場のピークだったことが今後判明するとともに、米国が1年以内にリセッション(景気後退)入りする可能性があると、グラスキン・シェフ・アンド・アソシエーツのチーフエコノミスト兼ストラテジスト、デービッド・ローゼンバーグ氏が指摘した。

なぜ、そうなるのでしょうか?

同氏はさらに「市場の著しいシフトを目にすることになる」とし、「今回の景気循環で1,000ポイント上昇をもたらしたのは米金融当局だ。巻き戻される時に何が起こるか注意を払う必要がある」と論じた。

(同上)

要するに、「金融緩和」で景気が良くなり、「金融緩和終了」で景気が悪くなると。

ここにご紹介したのは、「兆」の一部です。少なくとも日本については、「消費税再引き上げ」と「オリンピックミニバブル終焉」で、景気悪化は避けられない気がします。貿易戦争の影響も心配。そして、中国が、いよいよ「成長期から成熟期に移り変わる時期」に入り、こちらでも混乱が予想されます。

過度に恐れる必要はありませんが、警戒を怠らずにいましょう。

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