■流れ流れる解散総選挙の行方

安倍晋三首相が模索した「1月解散」を断念し、2017年の政局は流動的な要素が増している。自民党は野党共闘が進まぬ中、年末・年始での衆院解散・総選挙を想定した選挙準備を急いできたが、前向きだったはずの首相が「NO」を示したことは何を物語るのか。衆院の解散権という「伝家の宝刀」が抜かれず、野党の共闘は加速することが見込まれる。東京都の小池百合子知事が掲げる「東京大改革」を旗印とする新党結成も現実味を帯びており、与党が有利とされてきた次期衆院選の行方は混迷を深めそうだ。解散見送りの背景には何があるのか。その舞台裏を探ると、意外な事情が見えてくる。

「安倍首相は周辺に年始解散の可能性をほのめかしてきた。民進党の政党支持率は上がらず、共産党との共闘をとるか、それを嫌がる連合とのつながりを維持するか、軸が定まらない段階での解散は効果的だったはず。しかし、1月解散にはリスクもあった」と首相側近の一人は打ち明ける。

国内の大きなリスクとしては、首相の女房役である菅義偉官房長官や萩生田光一官房副長官、下村博文東京都連会長らの選挙区で野党の共闘が実現した場合、当選できる保証がなかったことだ。

国外のリスクは、米国のトランプ新政権がどのような方向に舵を切るか読み切れなかったことだ。1月に衆院解散を断行した場合、1月20日に米大統領に就任するトランプ氏が持論のTPP離脱を表明したり、日米関係の再構築を表明したりすれば選挙戦そのものを直撃する。採決を強行してまで通したTPPの手続きが一気に頓挫し、ブーメランとなって安倍政権へのダメージとなる懸念があったのだ。ある外務省幹部は、「首相はトランプ氏が大統領選で勝利した直後に米国に飛び、非公式会談を行ったが、その結果は厳しい内容だった」と声をひそめる。自民党執行部が急ぐ解散を横目に、首相は国内外で生じる2つの大きな「リスク」をとるわけにはいかないと考えたのだ。

それでは、衆院解散はいつになるのか。永田町では2つの予測が飛び交う。野党が警戒心をあらわにするのは「4月選挙説」だ。これは政府・与党が1月末からの通常国会で第3次補正予算を急いで成立させた後、17年度予算案の審議をスムーズに運び、衆院で可決した後に解散準備を整えるスケジュールを意味する。憲法の規定で予算は衆院可決後、30日で自然成立するため、「3月解散─4月選挙」「4月解散─5月選挙」は理論的に可能となる。

ただし、17年夏には連立与党の公明党が重視する都議選を迎える。この選挙態勢を整えるため、公明党は「前後3カ月はほかの選挙をやりたくない」(自民党中堅)とされており、「4月選挙」「5月選挙」は難しいとの見方も残る。それならば都議選の終了後に時間をおいて解散するのはどうか。政治アナリストや有識者からは17年秋以降の衆院解散を予想する声が目立つ。しかし、実は重要な「行事」があるため秋以降の解散・総選挙も困難といわれているのだ。

その「行事」とは公明党がもっとも大事にしていること。18年1月2日は、公明党最大の支援組織・創価学会のトップ、池田大作氏が生誕90周年を迎える日だ。このため、「創価学会は選挙どころではなく、名誉会長の生誕をお祝いする準備を進めなければならない。官邸もこのスケジュールは頭に入れている」(自民党幹部)。仮に、都議選の3カ月後に解散権を行使すれば、「11月選挙」となるが、それでは池田氏の「生誕祭」準備にかかわってくる可能性があるのだ。

この「特殊事情」を重視すれば、首相の解散権は17年中は事実上封じられることになる。首相側近の一人は「選挙はあるぞ、あるぞ、と言い続けなければ与党内を引き締め、野党を牽制することができないが、17年はそう言ってはいられないかもしれない」と明かす。小池新党の準備が整っていく中、有利なタイミングでの解散が難しい政府・与党。次期衆院選は「第3極」が躍進する可能性があると警戒する自民党議員は多い。

(時事通信フォト=写真)