「使わないオプションサービスをつけないと、機種変更できなかった」「いつの間にかmicroSDカードまで、割賦が組まれていた」--ケータイショップで、こんな経験をしたことはないでしょうか? 実際、国民生活センターに寄せられるスマホ関連のクレームは年を追うごとに増加しており、消費者保護は課題の1つになっています。

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このような状況に対し、キャリアショップを運営する代理店を中心にした業界団体・全国携帯電話販売代理店協会(全携協)が、対策を講じようとしています。全携協は、まずサービス向上委員会を設置。ユーザーから受けたクレームを収集、分析してきました。同団体の代表理事、竹岡哲郎氏によると、「苦情を分析して、分析結果をもとに、キャリア各社と共同チームを設け、苦情縮減を実行している」といいます。

この取り組みを一歩進め、来年1月にスタートするのが「あんしんショップ認定制度」という仕組みです。あんしんショップに認定されたショップには、全携協が用意した"鳩のマーク"のステッカーを貼ることができます。ユーザーはこれを目印にショップを選ぶことができ、優良なショップを安心して見分けられるというわけです。

▼「あんしんショップ」に認定されたショップに貼る鳩のマーク

▼電気通信事業法の改正を機に、分かりやすい制度が必要とされていた

あんしんショップの審査は、外部有識者を交えた「審査委員会」が行い、全携協とは一定の距離が置かれているのも特徴です。委員長には明治大学法学部教授の新美育文氏が就任、委員には全国地域婦人団体連絡協議会 事務局長の長田三紀氏や、野村総合研究所 プリンシパルの北俊一氏らが就任します。審査委員会を独立させて設けることで、お手盛りの制度にならないようにしているというわけです。

▼あんしんショップ認定制度の運用体制

一度あんしんショップに認定されても、その後、不正な契約が頻発したような場合は、マークが取り消されることもあり得るといいます。

なお現時点で取り消しの基準などは決まっておらず、「基本的には教育を受けてください、改善措置を取ってくださいと、個別に対応していく」(新美氏)ようですが、一方で、「剥がされたらシャレにならない」(北氏)ものでもあるため、ある程度の効果は発揮するかもしれません。

▼審査委員会の委員長に就任する明治大学の新美教授

▼審査委員を務める野村総研の北プリンシパル

あんしんショップに認定されるキャリアショップの数は、「当初2000店舗」(竹岡氏)ほどになる見込み。全携協に加盟しているのが約7000店舗になり、「その数字が最終目標」(同)です。2000店舗もあれば、近所のキャリアショップで、あんしんショップのマークを見かける機会が出てくるかもしれません。これまで、ケータイショップで納得のいかない対応をされた人は、ぜひ利用してみるとよいでしょう。

認定方法には課題も

一方で、あんしんショップ認定制度の仕組みを聞き、課題もあるように感じました。1つは、認定が事後審査に近い立て付けになっていること。「全携協のメンバーであればということで、性善説に立ち、努力されているショップに手を挙げていただく」(新美氏)流れになっているため、あんしんショップのマークがあるからといって、厳しい審査をくぐり抜けたわけではない点には注意が必要です。うがった見方になるのかもしれませんが、とりあえずマークを取るだけ取っておくような店舗がないとも限りません。

▼あんしんショップの認定基準。基本的には事後審査に近いものになるという

▼ユーザーに対する誓約も掲げられる
また、あんしんショップだからといって、クレームにつながる根本的な原因が、すべて解決されるわけでもありません。もちろん、中には「とにかく儲かればOK」という悪質な店舗があるのかもしれませんが、どちらかというと、キャリアからのノルマをクリアするのに必死で、ユーザーへの対応が雑になっているところも多いような印象を受けます。いくらあんしんショップを認定したとしても、根本的な原因が解決されなければ、同じことの繰り返しになるだけです。

認定制度はキャリアの協力も取り付けており、ドコモ、KDDI、ソフトバンクも運営委員会に名を連ねていますが、そもそもとして、無理な目標が設定されていないかという検証も、必要になりそうです。

クレームすれすれの接客をしなければ達成できないようなノルマがあれば、それを是正する必要があるということです。北氏も、「過度なノルマがある場合は正していかなければならない」と述べていましたが、逆にそうでないと経営が成り立たないようなケースをどうするのかは、今後の課題と言えるかもしれません。

ユーザーの認知度向上が鍵に

「良貨で悪貨を駆逐する」(北氏)というあんしんショップ認定制度ですが、その大前提として、鳩のマークが貼られているショップが、安心だとユーザーに認識してもらわなければ、良貨が良貨だと気づかれないまま終わってしまうおそれもあるでしょう。逆に言えば、ユーザーの認知度が低いままだと、認定されたショップが悪化を駆逐するほどの良貨になれないのです。そのため、ユーザーに「鳩のマークは安心」と認識してもらうための、PR活動も積極的に行っていく必要があります。

▼PRについては「皆さんに(記事の執筆を)お願いしたい」と語っていた全携協の竹岡代表理事

ユーザーの保護という目的を考えると、将来的には、全携協以外のショップに制度を波及させていくことも必須と言えるでしょう。現時点では、「併売店、量販店を入れると、大体1万5000ほどのショップがある」(竹岡氏)といい、全携協でカバーできているのは、その半分ほど。この制度でカバーできない店舗をどうするのかも、考えていかなければならない課題です。

もっとも、何もせず、手をこまねいているだけだと、事態は何も改善しません。ショップ側の自主的な取り組みとして、このような仕組みができたことをまずは歓迎したいとともに、制度が形骸化しないためには、今後、運用がどのようにされていくのかもウォッチしていく必要がありそうです。そのためにも、審査結果や認定取り消しなどがあった際には、しっかり情報を公開してほしいと感じました。